館から出て見上げた空は一昨日嵐があったことなんて嘘のように晴れ渡っていた。
丘から藍鐘村を俯瞰すると、中心にそびえる櫓からはもうもうと煙が立ち上っている。祭りの最中はずっと炊き続けているのだろうか。
私たちは先日は登ってきた道を今度は下りながら歌織先生が午前中調べていたことについて講義を受けていた。
//会話//
「お祭りを見る前に島を一周しない?」というエレナの提案により、私たちは先に阿裏財島の散策をすることにした。といってもご案内の通り小さな島だ。一周するのに一時間もかからないだろう。
島の北半分は赤屋根館を頂く丘になっているので西側から歩いていく。
「これが鉱山かー」とエレナ。「何か想像と違うね」
「どんな想像してたのよ。まさか佐渡金山でも想像してたの?」
「まあ採掘場って言っていたし、気持ちは分かるわ」と歌織先生がフォローする。
藍鐘村の、かつては栄華を極めていたという鉱山跡は丹造の言った通りいまや見る影もなかった。そもそも鉱山と言っていたが、様式として言えば露天鉱床で山に坑道を掘るわけではない(北の丘より高い地形はこの島には存在しないのは分かっていたことだ)。平坦な地形に埋もれる鉱脈を円形に掘り進めていく露天掘りは、しかし稼働しなくなってしまえば巨大なすり鉢型の岩場に過ぎない。しかも閉じたのが戦前とくれば自然の浸食は免れないだろう。結論から言えば、藍鐘村の鉱山跡は森とまではいかないものの中心が窪んだ平原と呼ぶべき程度には風化していた。
「これはこれで見応えがあるじゃない」と私。「それに、やっぱりかなり深くまで掘ってたんだ。底まで降りることはできないね」
いくら小さいとはいえ、さすがに採掘鉱に転がり落ちたら軽傷では済まないだろう。私たちはかつての繁栄の足跡を後にし、島の南側へ向かった。
島の西から南西にかけて広がる鉱床のさらに南側は穏やかな平地が広がっていた。僅かだが林木もあり、たった数分歩いて移動しただけで景色ががらりと変わる。
優しい木漏れ日のさす森を抜けると島の南端の崖に出た。太平洋から吹く潮風が心地いい。
「ねえ茜、見てよアレ」とエレナが私の制服の袖を引いた。
エレナが指し示した先には古めかしい建物が建っていた。
何だろう、と三人で正面に回り込むと、その建物の正体が分かった。
「これ多分、祠ですよね」と私は歌織先生に訊く。
「うん。祠というには結構大きい気がするけど。でも神社の本殿というには小さすぎるし、周りに関連する施設もないし」と先生。「中にご神体があるのかしら」
「きっとそうですよ」
祠は木造の簡素な作りで神事に関連する建物であることは一目で分かるものの、それ以上の華美な装飾はなかった。むしろ風雨にさらされて今にも崩れ落ちそうだ。
終わります。