お試しで書きます。30分~1時間くらい
〇二日目
阿裏財島で過ごす二日目。先日の疲れからか私はかなりの寝坊をしてしまい、お昼を過ぎてから食堂に下りた。
「あっ、茜。おはよー」
食堂にはすでにエレナがいて。
「おはようエレナ。寝坊しちゃった」
「実は私も。さっき起きたばっかり」
と、そこへ女中の志保さんが顔を覗かせた。
「おはようございます香月様。すぐに昼食の支度が整いますので」
「ありがとうございます」
志保さんが昼餐を用意している間に歌織先生も入ってきた。まだ寝ぐせの残る私と違って身なりが整っている。
「あら二人とも。おはよう」
「おはようございます先生」とエレナ。「先生も今起きたとこ?」
「いいえ」と先生は首を振り。「実はあまり眠れなくて。午前中から書架にいたの」
「ああ、昨日行きたいって言ってましたよね」と私。「書架、どんなでした?」
「結構大きかったわ」と歌織先生。「村の文献以外にも読み物がたくさんあって。連絡船が来るまで時間を過ごすにはもってこいだと思う」
「歌織先生は昨日言っていた島の歴史を?」
「ええ。でもその話はあとで」と歌織先生は言葉を切った。「まずはお昼ごはんを食べましょう」
そう言って彼女が食堂の入り口を振り返ると、ちょうど主様が欠伸をしながら入ってくるところだった。
五人での昼餐--志保さんは女中なので下がっていたが--が終わると、千鶴さんは眠たげな目をこすりながら午睡に入ることを私たちに告げた。
「皆さんはどうされます?」
「私はまた書架に行こうかしら」と歌織先生。「エレナさんと茜さんも一緒にどうかしら」
「そうですね」と私は頷いて。「私も興味あるので」
「私は本は苦手だからナー」とエレナ。「島を散歩してみるよ」
「それは構いませんが」と千鶴さんは組んだ手に顎をのせて。「何にもない島ですよ。それに鉱山は危ないので立ち入り禁止です」
エレナは千鶴さんの言葉に口を尖らせたが、
「そうだ。藍鐘村でお祭りやってたでしょ。それを見に行ってくるよ」
「緋禰祭ですか」と千鶴さん。「そうですね。今日は祭りの二日目。一番盛り上がる日ですからね。好奇心を満たすには丁度いいかもしれません」
「お祭りは何日間あるのですか?」と興味を惹かれた私は訊いた。
「三日三晩ですね。神事ですから、一日目は神を下ろし、二日目に供物を捧げ、三日目に神上げの儀を執り行うしきたりになっているはずです」
「主様は参加しないんですか?」
「この館の住人は代々、藍鐘村とは関わらないようにしていますので」と千鶴さん。「ああ、特に確執があるとか搾取をしているとか、そういうことではないのです。税だって取っておりませんしね。謂わば伝統というか、〝そういうもの〟として伝わっているのです」
「よく分かんないなー。仲よくすればいいじゃない」とエレナが丹造に言った言葉を繰り返した。
「いずれそういう日が来るかもしれませんね」と千鶴さんは涼しい顔で答えた。「それそろ私は寝室に戻ります。また夕食でお会いしましょう。
――ああ、エレナさん。外出されるなら館の鍵を持ってお行きなさい。志保も何かと忙しく、すぐに玄関を開けられないこともあるので」
千鶴さんは鈍く光る棒鍵を取り出しエレナに手渡すと、そのまま食堂を出て行った。
私たちもとりあえず食堂を引き上げ、客室に戻る。
「じゃあ、行ってきます」
「待ってよエレナ」と私。「本当に島を探検するつもり?」
「いいでしょ別に」とエレナ。「何か心配事でもあるの?」
「あの村、何か危険じゃない?」と私は懸念を口にする。「ほら、昨日歌織先生も言ってたじゃない。村の人たちが歌ってたアレ」
「伴天連殺して、財宝奪え?」エレナは鼻で笑った。「それが何? 確かに私は信者だけど、この村とは何の関係もないし、それに千鶴さんも伝統って言ってたでしょ。もしかしたら昔は対立があったのかもしれない。けど今もそうとは限らないし、そもそも歌織先生の解釈が正しいとも限らないでしょ」
「確かに、午前中に書架で調べた感じではそういった対立や迫害、略奪行為については書かれていなかったわ」と歌織先生。
「というわけで」とエレナ。「私は出るよ。ずっと館の中にいてもつまんないし」
「もう」と私は溜息を吐く。「だったら私も行く」
「え、いいよ無理して来なくても。調べものするんでしょ?」
「やっぱりエレナ一人じゃ心配だし」と私。「緋禰祭にも興味がある。村の人に話を聞くよ」
「そうなると」と歌織先生。「二人の保護者として私も行かなきゃ」
「結局」と私。「三人揃って外出することになりましたね」
まあ実際、安全を考えたらその方がいいだろう。
三人で一階に下りる。広間では食事の片づけを終えた志保さんが拭き掃除をしていた。
「お疲れ様です」と歌織先生。「結局、三人で島を散策することになりました。夕食頃に戻りますので」
「そうですか」女中は立ち上がって礼をした。「いってらっしゃいませ」
とりあえずここまで。