浦島虎徹という刀がいる。
 彼の逸話が時間遡行軍の攻撃を受け、存続が危ぶまれていた時期に――それでも奇蹟的に顕現してくれた脇差だ。本丸が出来たばかりで戦力的に不安定だった頃から、ずっと本丸を引っ張ってきてくれた。
 大太刀も太刀もいなくて、いつもみんなを怪我させてしまって、手入部屋がパンパンだった。
 ごめんなさい、私に審神者としての力がないから。
 謝る私に、浦島くんはけたけた笑った。
「あるじさんって、気にしいだねっ。みーんな気にしてないから気にするなよ~」
 浦島くんはとても明るくていい子だ。
 元気すぎるわけでもなく自然とその場を賑やかにしてくれる子なので、すこし引っ込み思案で気が付くとネガティブになってしまう私は、いつも浦島くんに助けられてきた。
 太刀が顕現し、戦力が安定した今も浦島くんをずっと近侍にしているのも、そんな理由だった。
 でも近侍は、審神者の警護の他にも本丸間でのやりとりや政府との連絡など、細かい仕事が多い。
 浦島くんは嫌じゃないだろうか? 
 執務を休み、縁側で一段落していたとき、急に不安になった。そのまま訊ねると、やはり浦島くんは笑った。
「おれはあるじさんのことすきだから、近侍の仕事も楽しいぜっ! ……あるじさんは、どう? おれといるの、好きじゃない?」
 逆に問いかけられ、どぎまぎしてしまう。
 夕焼けがきらめいて、浦島くんの髪の毛を照らして解かしている。不安げな目で見上げられると、妙に恥ずかしい。
「も、もちろん好きだよ」
 まるで告白でもしているような気分になって、空に視線を逃がした。
 浦島君はほっとしたように息を吐いて、はにかんだ。
「そっか。よかったぁ」
 その笑顔にどきっとする。頬が熱くなってしまう。
 審神者としてあまり褒められたことではないかもしれないけど、私は浦島くんがすきだ。
 だからこそ、初期に散々迷惑をかけた分、これからはあまり迷惑をかけないようにしたい。頑張らないとな、と決意を新たに背筋を伸ばす。
「あるじさん、おれの分の羊羹も食べなよ」
「いいの?」
「へへへ、あるじさん、ほんとにうまそうに食べるんだもんなーっ。はいっ」
 爪楊枝で羊羹をぷすりと刺した浦島くんが私の口元に羊羹を持っていく。
 ほらほら、と差し出され、私はしぶしぶ羊羹を口に含んだ。
「うん、美味しい。ありがとう」
「おれのお菓子、ぜんぶあるじさんが食べていーよ」
 どきどきを押し殺して、「それは太っちゃうから遠慮しとくよ」と苦笑すると、浦島くんが私の頭を撫でた。
 浦島くんは天真爛漫で、元気で、いつだって明るくて、まさに夏の太陽みたいにカラッとした刀だ。
 だから、本当に、他意はないんだと思う。
 近侍の仕事は嫌ではないか、無理していないかと聞いた時から、ちょっとだけ浦島くんの態度が変わった、の、だけど……。
「あるじさん、かわいいね」
「あるじさんのこと好きだなーっ」
 とか。そういう言葉が頻発するようになった。
 なにかにつけ「えらいえらい」と私の頭を撫でて、嬉しそうにはにかむのだ。
 戸惑う私が「どうしたの?」と問いかけると、彼は悪戯が成功した子供のように歯を見せて笑う。
「あるじさんは、自分に自信がないみたいだから。こーやって誰かに褒められたほうがやる気でるだろー?」
 浦島くんはさらりと言った。
 あるじさんに自信をつけてほしい、と。
 一般家庭から審神者としていきなり奨励されて、なにもわからないまま本丸に来て、手探りでずっと頑張ってきたんだろ。もう本丸は安定してきているし、不安にならないでも大丈夫だよ。――と。
 面映ゆい。気遣いは素直に有難い。
 どうにも悪い方向に考えてしまうのは私の性分であり、困った癖だと自覚している。だからこそ、なんでも明るく笑い飛ばして、背中を叩いてくれる浦島くんが眩しくて……好きになった。
 だけど、恥ずかしい。
 言葉通りの意味で他意はないってわかっていても、それでも好きな相手から「すきだよ」「かわいいね」「さっすがぁ!」なんて毎日毎日言われたら心臓がもたない。私だけじゃないと思う。きっと色んな人が頷いてくれるはずだ。
 しかも、浦島くんは褒めるだけではなくて……。
 ある日長めの遠征から帰ってきた浦島くんが出迎えた私を玄関先で抱き締めた。
「あー寂しかったぁ!」
 と叫んで、みんなの前で。私を思いきり……ぎゅっと……。
「う、う、う、うらしまくんっ」
「ごめんね。もうちょっとこうさせて」
 首筋を浦島くんの柔らかい髪の毛がくすぐって、脳みそが燃え上がって湯気が出そうになる。なんか良い匂いがするし、骨張った筋肉の感触が着物越しに伝わってくるし、なんかもう吐息が近いし。
 硬直する私をたっぷり数十秒抱き締めたあと、浦島くんは「充電完了!汗臭かったよな、ごめんねっ。着替えてくるな!」と言い残すと、すたすたと自室へ戻っていった。
 呆然とする私に、 遠征から帰ってきた他の隊員たちは面食らったようだった。
「しばらく見ないうちにやるようになったなぁ、浦島」
「お赤飯を炊くべきかな」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って……。私たち、そういうんじゃないから……」
「でも、さっき思い切り抱き合ってたじゃないか」
 抱き合ってない! いや、抱き締め返していいなら抱き締め返したかったけど……!
 みんなの誤解は私にとってはとても都合がいい。けれど、浦島くんは私のことなんて、なんとも思っていないはずだ。だから居心地が悪い。
 「違うんだよ、そんなんじゃないよ」
「いや~主にも春が来たかぁ~」
「ちがうーっ!」
 みんなを追いかけ回して必死に誤解は解いたけれど、疑いの目は止まない。
 別にみんな気にしないから、付き合ってないふりしなくたっていいんだよ。まあ、そういうことにしておきたいなら付き合うけどね。という…見守りの視線を感じる。
 これはまずい。
 浦島くんにとって不名誉だ。私なんかと付き合ってると誤解されるのは……。
 こういうことはきちんとしておかないといけない。
「浦島って主と付き合ってるのか?」なんて浦島くんが言われてしまう前に、きちんと釘を刺しておかないと。
   ***
 いつものように執務室で、浦島くんが近侍仕事をしている。
 先日の出陣先での報告書を確認して、歴史に影響が出ていないかの調査の引き継ぎ依頼であったり、近侍も審神者も、やることは多い。
 休憩中、縁側でお茶をしながら、私は意を決して彼に言った。
「ねえ、浦島くん。浦島くんは刀だからぴんとこないかもしれないけど、頭を撫でたり抱き締めたりするのはね、恋人同士がすることなの。だから……この前みたいなのはあんまりよくないんだよ」
「えっ……?」
 言葉を選びながら伝えると、 浦島くんは綺麗な目をまんまるにして驚いた。
 やっぱり、自分の行動がどういう意味を人にもたらすかわかっていなかったんだ。刀剣男士はある程度成長した少年や青年の姿を取って顕現するけれど、付喪神の価値感覚は人とは違う。
「気分を害したらごめんね。でも周りに誤解させちゃうからさ」
「……。あー、そっか。ごめんね、あるじさんっ。おれなんも考えてなかった」
 浦島くんが眉を下げて笑った。その拍子にさらりとした髪の毛が揺れる。
 やっぱり、今までの褒め言葉や抱きつきは、浦島くんにとっては親愛表現でしかなかっったんだな。
 内心でがっかりしてしまう。
 誤解されたらいいじゃん、おれ、あるじさんと誤解されたいよ――そんなふうに言われたかったのだ。私は。
 浦島くんからの褒め言葉や接触は、それを機になくなった。
 今までと同じように、私がへこたれれば励ましてくれるし、さりげなく雑談で明るく笑わしてもくれるけど、それだけだ。彼は私と、物理的に近付かなくなった。書類を手渡しするとき、以前はよく手が触れたし、肩を押さえているとマッサージしてくれたけど、そういうこともなくなった。
 誤解されたくないもんな、と、浦島くんは接触を控えてくれているのだ。
 それは有難いことのはずなのに、いや正直寂しい。
 でも、浦島くんが誤解されるよりはましだ。
 ご飯タイムです!!!!!!!!!!!
 見てくれてる方いらっしゃるのかな?ハート飛ばしてくれた方ありがとうございます!
 ご飯食べたら再開しようとおもいますが、ひとまず終了で
 いまハート!ありがとう!!監視!!
 んでは落ち安
そんななか浦島くんからすこし近侍の仕事から離れたいと要請。 「お世話になりっぱなしだったもんね」
 
審神者はショックを受けつつも了承。蜂須賀さんに近侍を頼む。浦島くんはちょっとびっくりした顔をして下がっていった。 「それで、弟とどんな喧嘩をしたんだい」 「喧嘩じゃないですよ!?」 「そうかい?彼は近侍の仕事、とても張り切っていたから、てっきり喧嘩したのかと」
「私が愛想つかされただけ…かと」 「愛想ねぇ……じゃあ、きみと彼が付き合ってるって噂はただの噂か」 「ち、違います。蜂須賀さんの耳にまで入ってたんですか。あり得ないじゃないですか」 「人と刀の恋愛、よくあるらしいよ。君の審美眼は確かだ」 「やめてくださいよ」
 
「私、可愛くないし…美しい刀のみなさんと恋愛なんて、恐れ多いです」 「なにを引け目に思うのかな。君は十分愛らしいと思うが」 「刀のみなさんってすぐそれ言う~!!人類愛が天元突破してるんだもんなあ。誰でも可愛く見えてるでしょ」 「そんなことはない」
 
「ただ俺たちは外見よりも魂の美しさのほうに目がいくことは否定しないな。和泉守が『実用性一辺倒じゃあ華がねえ。見た目だけじゃあ話にならねえ。』『刀は見た目だけじゃねえが、見た目が良くて損するわけでもねえ。』と言っていたが、人間にも言えるのかもしれないな」 「ううん」
 
「すこし着飾ってみたらどうだい?気分も華やぐだろう」 「いや、私そういうの苦手で……。なにが似合うのかもわからないし、似合うものなんてないと思います…」 「何を言ってるんだい、君。目の前にいるのを誰だと思っているんだい」 「えっ」 「蜂須賀家伝来の虎徹の真作、だよ。任せてほしい」
 
次の休みに市場に出かけ、 「まずはその目を覆う長い前髪を切ろう。綺麗な目を表に出そうじゃないか」 「あああ人の顔見るのが怖いんです前髪だけは許してください」 「容赦なく切ってくれ」 店員「わかりました」 「ひいいいいん」 「次は服装だな。良い物を着れば姿勢も変わる」 「説得力ある…」
 
化粧道具も店員さんのおすすめを聞きながら、メイクの仕方を概ね蜂須賀が聞き出しつつ買いあさり、数時間経つ頃にはとても可愛い女の子(猫背)が完成していた。 朝着てきた服は没収されてしまったので、蜂須賀が見繕った洋装(レースや刺繍がきれい)である。 「その靴もいいね、似合ってる」
 
蜂須賀は自分の作り上げた可愛い主にご満悦の帰り道。 「でもちょっとこの靴、踵が高い……あわっ」「おっと」 ヒールが石畳の隙間にすべりよろけた審神者を、蜂須賀が抱き留める。 「いきなりヒールは難しかったかな。大丈夫かい?痛くないか」 「あ、靴擦れは大丈夫…」 肩を抱かれて支えてもらった
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向き
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刀さに書くよ
初公開日: 2020年04月18日
最終更新日: 2020年04月18日
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コメント
全年齢刀さにを書く。
気を抜くとツイッターやり始める自分を律したい。急に筆が止まったらコメントで「ツイッターやってないで書けやオラッ」してください(切実)
ブラック本丸産のへし切長谷部
ブラック本丸で夜伽担当だった長谷部が新しい主の元で愛とはなにかを知る話。ぴゅあべ。 元がR18の短…
ごんあきら
ワンドロ
テニヌ幸村夢ワンドロ
むん