優鬼だった。
いつも真剣にサバイバーを追うハンターも、貪欲に勝ちを狙いに行くサバイバーも、今回はマップを散歩したりアイテムを拾って遊んだりと、随分ほのぼのした雰囲気だ。
なにせこのゲームは協力狩り。荘園主から見ればただの娯楽なのだ。言ってしまえば重要視していないゲーム。
もちろん通常通り真剣にやっても問題はないのだが、今日はハンター二人が最初から武器を収めた。
そんな中僕は、相棒とミニリッパーを携えてのんびりと線路沿いを歩いていた。
今回のマップは永眠町。遥か東の国をイメージして作られたマップなのだそうだ。
木造の小さな家々、紙で覆われた赤い灯り、狭い墓場。かと思えば見慣れた建物やアスファルトのひかれた道路に路面電車。町の様相から言って随分混沌としていると、僕は思う。だが他のマップにはない静寂と独特な雰囲気を、僕は嫌ってはいない。
唐突につんつんとローブの裾が引っ張られた。ミニリッパーが何か見つけたらしい。視線を少し後ろの足元に落とせば、左手の3本の爪を器用に2本畳んで残った爪でぴっと指している。そちらを見てみれば丸まっているにゃんこ。にゃんこは実に可愛らしいのだが、猫の姿を見た途端に羽を窄めた相棒が可哀相だ。ミニリッパーには苦笑を返して再び足を進めた。
長らくゲーム中はフードの中に拘束していたミニリッパーだが、最近は自分の足で歩いてもらうようにしている。最初は戸惑っていたようだったが、本来のペットとしての本能なのだろうか、すぐに元気に走り回ってくれた。どこかへ迷子になるのではないかという心配もあったが、ミニリッパーは必ず僕のもとへ帰ってきた。僕がチェイスをしていても、ミニリッパーがどこかへ遊びに行っていても、僕がミニリッパーを置いてロケットチェアで飛ばされても、必ず。
今も元気に僕のすぐ後ろを小さな足でちょこちょこ早歩きで付いてくるのだ。あまり見慣れないマップだからかきょろきょろ辺りを見回しながらだが、ずっと僕の傍に居る。
僕が憂慮していたことは何一つ起こらなかった。皆が言った通りだった。
そんなことを考えていると足が止まってしまっており、ぼすんとミニリッパーが僕の足にぶつかってしまった。彼も前を見ないで歩いていたらしい。へあ!!と左手の爪を振りぷんすこしているミニリッパーに、思わず笑みが零れてしまう。それを見て更に頬を膨らませるミニリッパー。肩では何してるんだとばかりに相棒がやれやれと瞼を下ろしている。
「ごめんってミニリッパー。……そう言えば、そこだと見えない物も多いだろう?今日はフードに入らないかい?」
しゃがんでなるべく目線を合わせてミニリッパーにそう言うと、膨らませていた頬をもとに戻し、うーんと腕組みして考える。しばらくわざとらしく右足をとんとんしていたが、大仰にウムと頷いてみせた。はいはい、かしこまりましたとばかりに僕も恭しくお辞儀をして、フードを下ろす。いつもならここで僕の体をよじ登ってフードに収まるのだが、今日は何故かふんぞり返ったまま僕に視線を送り続けている。
ほら、フードまで運びたまえ。
ソプラノの声でそんな言葉が聞こえる様だ。今日の彼は随分と王様気分らしい。
そんな高圧的で無礼な仕草も、ミニリッパーがすると可愛らしく思えてしまうから不思議だ。僕は苦笑しながらミニリッパーを抱き上げて、そっとフードに下ろす。どうやらきちんと収まったようで、よくやったとばかりにぽんぽんと手を優しく撫でられた。
「ああこんな所に居はったん?占い師の坊ちゃん」
不意に声が掛けられ、そちらを見てみれば美智子さんだった。そう言えば、と思い出す。今回のハンターは美智子さんとロビーだった。
「暗号機探しても居らんし、皆と遊んどるんかなぁ思っても全然姿見えんから」
「少し散歩してたんです。最近ようやく色んなことが整理できてきたので」
そっか、と美智子さんが微笑み、僕の肩へと視線をやった。
マップ内ではハンターの眼にペットは映らない。でも、普段フードを被っている僕がわざわざ下ろしていることと、ジョゼフから色々と聞いているだろうことを思い、彼女の表情が渋くなる前に先に弁明する。
「大丈夫です!あ、あの、僕あまりここのマップ来たことなくて、ミニリッパーも色々見たいかなと思って僕から彼に提案したんです。足元じゃ見えないかなって。……ちゃんと、分かってます」
「あぁ、そうなん?誤解してしもてすまへんなぁ」
眉を下げた美智子さんは謝罪の意を込めてだろう、僕の頭を撫でてくれた。その手が下ろされる前にフードへ差し出された。ミニリッパーを見えないながらも撫でてくれているらしい。僕からは詳しくは見えないが、美智子さんの表情が驚いたものから満面の笑みになる所を見るに、仲良くやっているらしい。
「美智子さんはあちらに居なくて大丈夫なんですか?」
折角の優鬼中なのだ。一緒に遊んでいるサバイバーを放り出し、わざわざ一人の僕に構うのは勿体ないのではないのだろうか。そう思って言ったら、ぺしりと扇で頭をはたかれた。もちろん刃がついていない部分で。
「私は坊ちゃんと話がしたかったから探しに来たんよ」
ミニリッパーほど顕著ではないが少しむくれている。ちょっとだけ可愛いなと思いつつも慌ててすみませんと謝り、ぺこりと頭を下げる。
「ちょっとついて来てぇな」
そう言って美智子さんは僕の右手を取り、僕がついて行ける速度で前へ進みだした。突然のことで少し驚いたが、ちょっと早歩きで彼女についていく。のんびりと散歩していた時よりも早く景色が流れていく。ミニリッパーはそれが面白いのだろうか、フードのあたりの動きが忙しない。しばらくもだもだ動き回ってもれなく僕の首を絞めていたが、相棒が後ろへ体を向け、何かミニリッパーにしたのだろう、途端にフードはおとなしくなった。恐らく頭に嘴の一撃をお見舞いしたのだろうなぁと遠い目で微笑んだ。
しばらく歩いて、あるところで美智子さんは足を止めた。
「ここを坊ちゃんに見せたかったんよ」
蓮の花がたくさん浮かぶ大きな池の傍ら。その中央に小屋があって、誰かの静かな歌声が聞こえた。それが、僕の聞き覚えのある声で、いや聞き覚えがあるどころか。
「この、声……」
「そ。あそこで踊ってるん、昔の私」
じゃあ今日はここまでで!
桜出て来なかったやorz
音ごめんね…(´・ω・`)
また近いうちにこの続きの配信します!