鰤とは照り焼きに限るのだ。
 かの古代中国の名将、曹操の言葉である。鰤とは照り焼きに限るものであり、兵は神速を尊ぶのだ。敵を知り己を知れば百戦殆うからず、人間万事塞翁が馬である。三国を統べた雄はそのような言葉を残している。
 ゆえに我ら現代に生きる学徒として、鰤とは照り焼きでなければならない。それが中国経済史に心血を注ぐ吉原教授への恩返しではなかろうか。
 そんなことを熱弁しつつ、僕はコーヒーを差し出した。
「眠いんだけど」
 反応はなんとも淡白なものだった。
 彼女は楚々とコーヒーを受け取り、小さな唇からほうとため息をこぼした。
 とろんとした視線を胡乱に放り出し、何を見ているか見ていないだかの曖昧さを醸し出す。朝の彼女は往々にしてこんな様子だ。
 彼女との同棲は二年ほど経験している。思えば、最初の頃からこの女はこうだった。いつだって曖昧で、適当で、ふわふわとして掴みどころがない。いかに僕がイカの刺身について弁を振るおうと、机に頬杖をついて「ふうん」で済ませるのだ。それがこの女の生態である。
 そんな様子に、ひどく懐かしい気がした。
「朝ごはん何?」
「君の好きなやつ」
「あなたは何を食べるのかと聞いています」
「何も」
「ずっとそうなの?」
「まあね」
 僕は鉄板にモダン焼きの種を広げた。
 じうじうと音を立ててソースが爆ぜる。ほんのりと焼き色が付き始めたところで焼きそばを投下。蓋をするように種をかぶせて、くるっとひっくり返して数分焼けば完成だ。
 モダン焼きを作るのだけは得意だった。彼女にせがまれて何度も作ったことがある。ここ最近はめっきり作っていなかったが、勘はまだ鈍ってはいないようだった。芸術的な円を描いたふっくらもちもちの幸せUFOをお皿に乗せて、僕は恭しく彼女にそれを献上した。
「お食べ」
「殴るぞ」
「なにゆえ」
「朝だ。そしてこれはコーヒーだ」
 マグカップを揺らして威嚇する彼女は、少しだけ目のとろみが消えていた。
 頑なにモダン焼きを拒む彼女と口論すること二十秒。二人で仲良くつつくことにて意見はまとまり、僕らは重めの朝食をついばんだ。
「ところでさ」
 彼女は言った。
「何か言うことないの?」
 僕は答えた。
「君が二年前に死んだこと?」
 彼女は頷いた。
 主観記憶にして二年前、彼女は死んだ。僕の目の前で彼女は死んだ。あっさりと、ざっくりと、ばらっと溢れるように死んだ。間違いなく彼女は死んだ。僕はその一部始終を見届けた。
 そんな彼女が目の前でコーヒーを啜っているのだから困ったものである。
「そう、それ。私死んだんだけど」
「困ったね」
「何、その反応」
 ふてくされた彼女は、モダン焼きからずるずると焼きそばを引きずり出した。
「ひょっとしてあんまり覚えてない?」
「いや、全部覚えてるよ。かけがえのない君が死んだんだ。忘れるものか」
「じゃあさ、どうやって死んだのかも覚えてるよね」
 責めるような瞳。いや、ようなではない。彼女は間違いなく僕を攻めていた。
「急性カフェイン中毒だよね」
 わざとらしいため息が聞こえた。
「そこまで分かってんのに、なんでまた」
 そして彼女はまた死んだ。
 僕の目の前で彼女は死んだ。
 あっさりと、ざっくりと、ばらっと溢れるように死んだ。
 間違いなく彼女は死んだ。
 僕はその一部始終を見届けた。
 *****
 鯖は味噌煮に限るのだ。
 かの古代モンゴルの猛将、与謝野武尊の言葉である。鯖とは味噌煮に限るものであり、君は死にたもふ事なかれなのだ。一日一善積み重ねれば、子孫繁栄に将来安泰に猫に小判が降り注ぐ、お祭り騒ぎもいいところなのである。
 ゆえに我ら現代に生きる学徒たるもの、鯖とは味噌煮でならなければならない。吉原教授がそう言っていたのだから間違いないのだ。
 そんなことを熱弁しつつ、僕はコーヒーを差し出した。
「君さ」
 彼女はコーヒーを受け取らなかった。
「ひょっとして全く覚えてないの?」
「さっき君が死んだこと?」
「私は今、あなたの正気を疑っています」
 そんなこと言われても。彼女はコーヒーが好きだったし、僕はコーヒーを作ってしまった。となればそこに結ばれる必然は、彼女がコーヒーを飲むこと以外にはありえない。そうではなかろうか。きっと吉原教授も賛同してくれる。
「それを飲んだら私は死にます」
「そうなの?」
「そうだよ」
「そうなのか……」
 そうらしい。
 しかし、そうは言ってもここにコーヒーがある。たとえ彼女が死ぬことになろうとも、コーヒーとはコーヒー以外の何者でもないのだ。
「君は私が死んでもいいのか」
「いいか悪いかで言えばよくない」
「ならなぜ頑なにコーヒーを差し出す」
「だって、作っちゃったし」
「そんな動機で私を殺すな」
 そんな動機と言われてしまうのは心外だ。僕には僕なりの考えがあるのだ。彼女はそれをわかっていない。
「あのね、君は間違いなく死んだんだ。二年前のあの日に死んだし、ついさっきもここで死んだ。そうだよね」
「そうだけど、今の私は生きてるぞ」
「そして君の運命はこの一杯のコーヒーで決するわけだ」
「そうそう。だからそのコーヒーをあっちに持っていきなさい」
「その運命を僕のような矮小なゴミが捻じ曲げてしまって良いものだろうか」
「お前みたいな傍観者気取りがいるから私が死ぬんだよこの野郎」
 ぐう……。
 彼女の言うことにも一理があった。いや、一理があるのかもしれない。よしんばあるとしても、それは一理の内の一理である。全体において僕が正しいのは疑うべくもないが、しかして彼女の言葉には無視しかねる引力があったのだ。
 されど、僕にだって言い分はある。聞いてほしい。僕は彼女の瞳をまっすぐに見据えて、極めて真摯にこう言った。
「運命の番人って……なんかこう、響きが良くない……?」
「運命の叛逆者の方がカッコいいと思わない?」
 それもそうだ。彼女の言い分はもっとである。いたく納得した僕は、コーヒーを流しに投げ捨てた。
 うむ、これで僕は運命の叛逆者だ。この世の定められし摂理に反旗を翻したのだ。それもこれも、愛する人を守るために。うむうむ、なんだかとてもかっこいい気がしてきたぞ。悪くない。
「こんなんで……こんなんで私の命が救われたのか……」
「世の中って結構そういうもんだよ」
「貴様にだけは言われたくない」
 彼女はぷりぷり怒っていたが、表情はどこかすっきりしたものだった。立ち上がってうんしょと伸びを一つ、頬をぺちぺち叩いて眠気を飛ばし、少しだけ芯の入った目で僕を見た。
「説明しよう」
「お願いします」
「私は死にました。でも、死にたくないです。私には前途があり、未来があります。夢も野望も身の丈に余るほどあります。お金だって愛だっていっぱいいっぱい欲しいです。だからこんなところで、死ぬわけにはいきません」
「俗物だね」
「君は怪物だけどね」
 なんとも心外な評価であったが、僕は口答えしなかった。彼女が本気で言っていたからだ。
「しかし君が言う通り、私の運命は死ぬものと定められています。そうと定められた以上、私の命は大変に脆いものです。あんなコーヒー一杯のカフェイン含有量で、たやすく死んでしまうほどに」
「命って儚いね」
「助けがいります。生きるために。生き残るために」
 彼女は揺れない瞳で僕を見た。
 真剣で、真摯で、透き通る刃のような瞳だ。薄くて細くて儚いが、心臓まで貫く鋭さがある。
 僕は彼女のこの目が好きだった。だから僕は、そんな彼女に心の底から惚れていた。
「君が望むなら、喜んで」
 そう答えると、彼女はほうと息をついた。
 彼女は再び椅子に腰掛ける。その目はいつものとろんとした瞳に戻っていた。
「でさ、お腹空いたんだけど。朝ごはん何?」
 僕は鉄板にモダン焼きの種を広げた。
 ソースがじうじうと焼ける匂いが漂う中、彼女は大きなあくびを一つ噛み殺す。それから、苦笑交じりにこう言った。
「モダン焼きはもう嫌いだ」
おわり!!!!!!!!!!!!
何文字だろう
3500文字 / 75分
リハビリって考えたらまあまあかな・・・?
書き出し部分だけならこんなもんですかね・・・
結局フレンチトースト入れられなかったのは悔やまれる。
んじゃ
ぼちぼちしめますね
果たしてこんな地味な何かをまだ見ている人がいるのかはわからないけど
またやるのか・・・?
もうやらないかもしれないけど
しめます。ありがとうございました。
謎の伏線回収
これは想定していなかった
んー
ここまで一話部分でやる必要はないかな
でも方向性くらいは書いておきたいけれども
まあやるべ
やってだめならその時考えよう
しからざるってこうだっけ
☓しからざる ○しかねる
にほんごむずかしいからきらい
切れのある罵倒・・・
そもそも存在って言葉はもうクリシェだと思ってる節ある
もうっていうか数年前にはクリシェじゃなかろうかと
「僕さ、これでも運命ってやつを信じるんだよ」
「付き合って二週間くらい経った頃に運命論ボロクソに言ってなかった?」
「宗旨変えをしたんだ。運命は実在する」
「……。聞いてやるから、話しなさい」
 それでは聞いていただこう。運命論について。
運命論語るのいやだなー
意味なさそう
ここに文字割いて何が得られるというのか
これ何の話・・・??
適当に書いてるからこうなるんだよなぁ
まあいっか
与謝野武尊って誰????
ぐぐっても出てこないんだけどマジで誰だこいつ
なんか急に頭に出てきた
こわ
 かの古代中国の名将、曹操の言葉である。鰤とは照り焼きに限るものであり、兵は神速を尊ぶのだ。敵を知り己を知れば百戦殆うからず、人間万事塞翁が馬である。三国を統べた雄はそのような言葉を残している。
 ゆえに我ら現代に生きる学徒として、鰤とは照り焼きでなければならない。それが中国経済史に心血を注ぐ吉原教授への恩返しではなかろうか。
 そんなことを熱弁しつつ、僕はコーヒーを差し出した。
ところで急性カフェイン中毒って人死ぬんですかね
こまけえこたあいいんだよ!!!!!!短編だからな!!!!!!
描写がなー
なんかわざとらしいっていうか
おどすぞーが出すぎていて微妙感ありますね
悪糖さん、二年前に人殺しがち
二年間って人が死ぬには丁度いい年数だと思う
序文はこの辺でいいっすかね
そろそろギアを上げていかねばなるまいて
議論
会議
談義
講義
説法
論説
口論
口論←採用
伏線伏線
おーけー。
モダン焼き作るのむずいな
まあいっか
モダン焼き 作り方 検索
モダン焼きにしました。
フレンチトーストはどっかで出していこう(縛りその2)
ホットサンドは果たして翻すものなのか
朝翻しがちな食べ物とは
目玉焼きを両面焼きするのは宗教上の理由で不可能
朝翻しがちな食べ物とは(2回め)
ギリギリ朝作れなくもないくらいのラインをせめたい
今更になってチャットを見る機能を見つける
右側にあるのね・・・
「君はいつもそうだ」
「朝からカフェインなんて劇物を腹の中に収める女とは違う」
「軟弱ものめ」
「なんとでも言え」
 彼女からの罵倒に耐えつつ、
二人称使わない縛りきつすぎない?
もう君でいいや
主夫系男子にしよう
なんかしっくりこない
★名前と二人称を使わない縛りが追加されました。
はーとありがとう?
共に二人称が君だと会話で差別化しづらそうで嫌だ
現代だからあんまり変な二人称使いたくない
性格的に君って言いそう
んー
名前つけるのもいやだなー
なんか♡とんできた
いっぱいとんできた
ふわふわ系女子了解
主人公は弁士型ですかね
まあまだなんとも
胡乱ってこういう使い方であってたっけ
使い方違うけどなんかリズムあって気に入ったのでツッコミ待ちでいってしまおう
とろんと眠たげかぶるじゃん?
あー
描写かー
描写めんどうくさい心VS描写がんばんないで何がんばるんだよ心
蛋白質の蛋ってなんでこの文字なのか一生謎
情熱のかっこいい言い方なんかなかったっけ
ねつべん・・・
熱弁がかぶる
教授の名前
学徒・・・?
なんか主人公学生になっちゃった
カット
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破隕
ファンサくださいな!
22:54
破隕
フレンチトーストとか?
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向き
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お題:朝、恋人とコーヒーを飲むシーン
初公開日: 2020年04月16日
最終更新日: 2020年04月16日
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コメント
ノープロット
多分途中で砕け散る