オークションで2億でイソペを競り落とすジョゼの話
 
 『お集まりの皆様、大変お待たせ致しました。これより我がオークショニアが蒐集致しました品物をご覧に入れましょう。皆様のお眼鏡に叶うものがありますことをお祈り致します。』
 
 ——重たい幕のその向こうから、馬鹿に丁寧な挨拶が漏れ聞こえる。司会者が下がると周りに並べられていた箱がひとつひとつ運び出されていく。
 箱の中身はそれぞれで、諦め切って虚な目をした少女や見たことも無い美しい鳥、所謂アルビノ種と呼ばれる小さな女の子に余り外では見かけない動物。檻から出してくれと必死に叫ぶものや、さめざめと泣くもの。箱を運んでいく人はそれらに一々答えることはなく、ただ物として運んでいき、幕の向こうでざわめきが起きた後カン!と高い音が鳴ってまた、運び戻される。僕はそれをただ眺めているしか出来ない。
 僕も、同じだからだ。気が付いたらこの錠のかかった檻に入れられていて、そしてここへ運び込まれた。オークションの出品物、商品だ。だから家に帰りたいと泣く子供も、母親と離され不安げにうろうろと檻の中を動き回る動物も、僕には助けてあげられない。
 いくばくかの時間が過ぎた後、ついに僕の順番が回ってきたようだった。
何も抵抗できないまま、僕の入った箱が広い舞台に出される。頭の後ろ側でチカチカと光が爆ぜるような眩しさと、暗闇から注がれる沢山の視線。
不躾な程ギラギラとしたいくつもの目が、此方を品定めする様に見ていた。
否、品定めされているのだ。だってここはオークション会場で、僕は商品ものだから。
ふと隣に立つ司会者を見ると、見覚えのない人物が立っていた。
——おかしいな、さっきまで司会者は背の高い妙に顔の整った男性だった筈なのに。
 品物として壇上に出されたにも関わらず、観客は一切の声を上げない。
何事も起きないまま裏へ連れ戻されても、仕方ないと思った。だって僕は美しさも、珍しさも持ち合わせていないから。ただちっぽけで痩せ細っていてきっと食べても美味しくはない。そもそもどうしてこんなオークションに出品されたのかもわからない程だったから。
 その日全てのオークションが終わり、僕と一瞬だけ運命を共にしたものたちは次々とこの建物を出て行った。残ったのは僕ひとりだった。
これから僕はどうなるんだろう、誰の手にも渡らずにここで死んでしまうんだろうか。
そう、持ち前のネガティブさを発揮していた時だった。
 暗くて少し黴臭いこの倉庫に風が入る。反射的に扉の方を向くと、また眩しさに頭がくらくらとして直視出来ない。
目を慣らそうと地面を睨みつけていると、視界に靴先が入ってきた。
「顔を上げなさい。君、名前はなんという。」
「……イソップ・カールと、申し、ます。」
やや高圧的な、けれど少し優しさを含んでいる様な声に呼ばれて見上げると、あの顔のやけに整った司会者の男性が立っていた。
売れ残りを処分するのも司会者の仕事なのだろうか。己の結末に少し怯えながらも、けれどそれも悪くないような気がした。
——どうせ処分され《殺され》てしまうのなら、最後に見た光景はこの美しい人なのだろうから。
半ば諦めと、自嘲と、安心にも似た何か。次に来る言葉はきっと、最後通牒なのだと解っている。……解って、いた。
 使い古された鉄の扉が音を立てて開く。
イソップにはわからないことだらけだ。
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写納18:30まで
初公開日: 2020年04月15日
最終更新日: 2020年04月15日
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コメント
えふごとシノアリクロスオーバー「人魚姫と作者」
タイトル通りのクロスオーバー。この二人で書いてみたかったので……話の展開とか何も考えていないのでとん…
リュックでか子