裏切者。そんな罵声が響いてきた。それだけでは終わらず、いくつも、何度も、繰り返し、いろいろ。その言葉がやけに耳につくのは声量もあるだろうが、それ以外の音声は、総じてそれとは近しくない、遊んだり楽しんだり、そんな声達だから。そんな毎日だった。
 止めようとする声はなかった。かといって便乗する声も少なかった。だれかを罵る台詞のレパートリーなんて、そうあるものではなかっただろうから。ただ、その大きな声を出す子供の方に並んで、手を握りこんで耐えるしかない子供を助けないだけで、何か命令されたらそれに歯向かわないで、出来る限り知らんぷりしたりして、多くの子供はそうやって過ごしていた。そんな毎日だった。
 人間は、大変だな。目の前で起こる[いじめ]に、それ以上の事は特に感じない。振り返る子供の、はきはきとした声の、「そう思うだろ?」に「そうだね」と答えれば、満足そうに笑って肩を抱き寄せられる。泥まみれで擦り傷だらけの子供は、きっと、悔しそうにしていた。
 この世界には【人間】と【人外】がいる。動物や植物、無機物など、人間以外のものは多いが、それではなく。主に人間を模した人間と似たような、かつ人間ではない存在が。いる。
 でも、その人外の数は少なくて、いないものとして扱われていて、滅んだとされていて、もし仮に今もいるとしたら、それは、人間社会から駆除しなければいけない汚らわしいもので、迫害対象だ。そう、学校で教えられるのが当然だ。人外は歴史の汚点だ。人間の敵だ。それが常識だ。
 それでも自分が、いないとされている人外がいると断言できるのは。自分が、人外だから。それに他ならない。
 歴史の授業でも、道徳の授業でも、人外は駆除するべきものであると教わる。そんな人外から人間を守る為に戦ってきた一族などもあるのだと学ぶ。自分の真横に座る子供は、そんな話になるといつでも誇らしげにしてみせた。
「俺は天羽なんだ」
 教科書に載るほどの、人外と戦い続けてきた誇り高い一族なんだと、声の大きい子供は、よく語っていた。
 教師によっては、人外への迫害はあまりよくないものだとして、穏やかに話を進めることもあるらしい。そもそも存在は今はしないものなんだから、怖がり過ぎたり恐れすぎたりするのも考えものだと。実際そんな警戒などせずに過ごせるのだろうから当然といえば当然だが。だが、この声の大きい天羽という子供がいる教室で、教師はそんなことを言えるわけもなく。教科書通りに、人外への悪しき思想を植え付けようとしたところで、ひとりの子供は、声をあげた。
「それって、おかしくないですか」
 それはつぶやき程度の声だったけれど。授業を中断させるには至らなかった声だけれど。自分の隣の子供が苛立ちを露わにするには十分な、声だった。
 それからというもの、ずっと、いじめは続いている。自分はずっと、声の大きい子供の右隣に立って、その光景を見ている。名前は忘れた子供は、ずっと、天羽の主義に折れる事は無かった。
 人外だからと殺してしまうのは、どうなのか。彼等にも気持ちがあるんじゃないのか。たとえ昔人外がなにかしたとしても、今もいるかもしれないのなら、仲良くできるんじゃないのか。本当に彼等は、悪い、のか。子供はそうやって、いつも弱々しく言っていた。その度に痛めつけられるのに、一度も天羽に同意しなかった。子供はただの人間だったはずで、その子供にもしかしたら人外の知り合いがいたのかもしれないが…そんなことはどうでもいい、関係のない事だった。子供に関わるほうが、天羽の機嫌を損ねて、厄介だから。
 十二歳。小学六年生。卒業間近。そんな頃になっても、いじめは続いていた。天羽とその子供は、同じ中学校に行くことになっていた。きっとまだ続く、いや、続けると天羽が言っていたから、確実に続く。子供はいつも傷だらけだった。天羽は、自分や、取り巻く他の子供には、気のいい少年だった。人外の事が絡まないかぎり、教師に反抗的な態度を取る事もない、そんな子供だった。大人しく、天羽の言う通りだと言っていれば。苦労することもないだろうに。痛みを感じながら生きる事も、ないだろうに。主義や主張というものを護らなければいけないというのは、とても、大変そうに見えた。けれど、自分はその子供は、嫌いじゃなかった。自分は知られず生きているが人外で、その人外を守った方がいいという子供を、嫌いになる理由はなかった。そういう人間が多い方が楽になるかと思った。
 だから。自分はある日、その子供に聞いた。他に誰もいない放課後。子供は汚れた机を、椅子を、鞄を、洗っていた。棄てられた筆箱の中身を拾っていた。そうして暗くなった、放課後だった。
「ねぇ。天羽の事、殺そうか」
 自分は、天羽の事も嫌いじゃない。天羽は人外を殺すべきだというけれど、自分は大方同意できる。自分にとっての人外、は、人間と、自分とはちがう種類の人外であって。それらを敵として排除する事。それはなにも、おかしなことではないと思う。殺す、殺さない。それは、労力と、利益との、兼ね合いでしか、決まらないから。
「殺してあげる。そうしたら、中学校では、いじめられないでしょ」
 だからこれは、ずっと、知らず自分を守ってくれていた、やさしい少年への、ご褒美、のような。労い、のような。そういう、ものだったのだけれど。
 だったの、だけど。
 ある日突然姿を消した少年の事を心配する子供は、殆どいなかった。心配の声をあげる事も出来なかったのだと思う。天羽はそれを嫌がっていたから、自然とみんな、その子供の事は居なかったもののように振る舞っていた。
 卒業式にはその子供の両親は来ていなかった。滞りなく式は済んだ。子供の机は、綺麗になっていた。
「卒業おめでとう、蔓」
「うん。母さん」
 胸元に飾られた花を見て、母親は微笑んでいた。遠くから天羽がやって来て、自分の母親に挨拶をした。天羽は自分の母親を綺麗だと、自分と似ていると褒め、母親は、息子は大人しくて気が弱いから心配だった、素敵な友達がいてくれて嬉しい、これからも蔓をよろしくお願いします。と、頭を下げていた。いつも胸を張って威張るような態度の天羽も、この時はすこし頭を下げて、任せてくださいといって、自分の方を抱き寄せて組んだ。慣れていたので、組み返した。母親が写真を撮りたいというので、そのまま写真を撮った。それが終わると天羽は、親族内で祝うからと足早に去っていった。忙しないと思った。母親は、忙しい時間の中でも来てくれるなんて、いい子なのね。大事にしてくれているのね。と、目尻の滴を拭いながらそう言った。自分は大層心配されていたらしい。行方不明者がでたとなれば、母親としては当然の心情なのかもしれない。
 自分が人外であると気が付いたのは、いつだったか。気が付いたら知っていた。でも、自分は間違いなく、人間だった、と思う。何不自由なく人間として暮らしてきて、ただ気付けば人外だと自覚して。母親は人間だと、感じていた。だから、母親には自分が人外であると言った事は無い。ただ母親は人外に対しても人間に対しても、強い差別感情を抱いているようではなかった。父親のいない中で、自分を自由に育ててくれていたと思う。自分の変化に対しても、過敏になることなく、接していた。と思う。
 自分は人外であることを母親に隠していた。だが、隠せなくなってきたと感じる。人間としてこのまま生きていくのは、難しいと感じる。身体が人間でなくなっていっている。それは抑えきれぬ程に。自分は姿を隠さないといけない。人間達から離れないといけない。自分の身を守る為に。自分の存在を安全に置くために。人外である自分の、御し方を、理解しなければならない。去らねばならない。けれど、逃げる身にはなりたくない。それは不都合であるように思えた。だから自分は、止むをえない事情を以って、この場を離れ、人間達から離れ、人外であると知られる事なく、また何事もなかったようにこの場に戻って来ることができる。そんな方法を選ばなければいけないと感じた。
 庇護されるべき社会的弱者という立ち位置は、とても、楽なものだった。自分はそれを選び取り続けるだろう。弱者、可哀想という一定のステータスは、寄生する相手によっては切り札になり得るのだ。
 自分は、親に捨てられ、火事で住む場所を無くした、そんな可哀想な少年だ。身寄りなく彷徨う、救いの手が伸ばされることを願う少年。その手がいつ伸ばされるかは知らないが、そう、遠くはないだろう。自分は知っている。どんな境遇のものでも受け入れる、そんな場所があることを知っていたから。あの子供がいた場所の、近くに。そこは、あったから。
「…大葉、蔓と、いいます。親は、いません。…ここで、住まわせてくれませんか」
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ななし@235b54
ぴよぴよー 大葉さん!
51:54
ななし@2181d3
名前が出ませんね…つばめです!
54:23
ななし@6c7f68
文章がその場で生まれていくのを見るのってとても楽しいですね!…お邪魔しないように以降眺めてますね!!
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自キャラ短編雑書き
初公開日: 2020年04月14日
最終更新日: 2020年04月15日
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コメント
自キャラのなんとなく書きたかったやつぼろぼろ書いていくだけのやつ。
尻叩き用
俺は夜明けまでにうちよそ短編を書き上げるって決めたんだ。
たきよさん
筋トレ
名なしのAさんは月夜に、テーブルにカップが置かれたままの部屋でフォーチュンクッキーを貰った話をしてく…
瀬をはやみ