物騒な男だ、というのが第一印象だった。頭ひとつぶん飛び抜けたところから「今後ともよろしく」と見下され、プリントを束ごと渡される。節くれだった手は無骨な印象とは裏腹に、案外丁寧に手入れされているような風情を湛えていた。侍らせるだれかでもいるんだろうな、下世話なことを考えながら手の中の紙の束をぼんやりと眺める。
「おい」
「あ、スンマセン……えーっと……」
「次の講義まで空いてんだろ、まとめておけ」
へえ、だかハア、だか声にならない返事の中に「いやそれは俺にとってどんなメリットがあるんですか」という意義をふんだんに含ませて、視線を頭上にもう一度移す。俺のささやかな文句を受け取ったのか、無視したのかは定かではないが男は考え込んだあと、恩を売るに越したことはないと思うんだが、と曖昧な返事をした。
「わかりましたよ、テキトーにまとめますんで」
「おう、よろしく頼む」
右も左もわからないガクセーに仕事を押し付けるとは、とPCを立ち上げる。ものは考えようだ。胡乱げなあの男は客員講師だとか宣っていたわけで、コネをつくれるのであれば有り難い話、なのかもしれない。そのコネが有用かどうかまでは定かではないのだが。
幸い、大仰な書類は見かけよりも手強くなく、次の講義予定までに作業は終わりを迎えた。ここまで見通して作業を振ったのであれば随分と親切だ。見かけよりも厄介な人物ではないのかもしれない。傍にシャルルがいたら外見の印象から人となりを判断するのは賢い行いとは言えないね、とまた長いお説教が始まるところだった、と恋人の静かな声を思い出しながら肩をすくめた。
軽く伸びをすると先刻の書類をまとめ、俺はだいたい此処にいるからな、と教わった研究室へと向かう。先程の男性――土方と名乗ったか――が真実、どのような人間であるかはともあれ、請け負った仕事はなるべく早く済ませることをロビンフッドは良しとしていたし、それは彼のアイデンティティのひとつでもある、と自負していた。
勝手に入っていい、と伝えられていた(土方はこの居城の持ち主ではないはずなのだが、)研究室は意外にも清潔で、何もかもが見た目とは裏腹な男だな、とぼんやりと思う。適当なデスクに置いておけば