私は美しいと思うものだけを見つめていたかった。どんなに寂しくても、どんなに心細くても、そこに美しいものが立っているならばずっと見つめていたいと思う。それがこちらを振り返って微笑みかけてくれるのならば私はもう死んだって構わない。美しいものに、私は頭のてっぺんから足の先まで、すっかり飲まれてみたかった。
* * *
「なにがそんなに可笑しいの?」
つっけんどんな声が私に向けられる。その声色は決して好意的ではないどころかむしろ真逆だ。嫌悪感がありありと見える。
「いや、別に……」
「だったらそんなとこでへらへらするのやめて、気色悪い」
「ごめんなさい」
定型文の謝罪を返して私は黙り込む。視線を戻すこともできなくてやり場なく足元を見つめた。爪先のすぐ先に見える赤い点はてんとう虫だった。意地悪く足を乗せて離してみると、小さなてんとう虫はうまい具合にでこぼこしたコンクリートの隙間に挟まって難を逃れていた。