予告なく離席するかもしれませんごめんね!あと書くのおそい
錆兎は、胡蝶三姉妹に関して知っている限りのことを義勇に教えてくれた。大方は村田の話と合致していた。
一、胡蝶姉妹は十年前から悲鳴嶼組長と同居している。
二、三女は更にあとから拾ってきた(その娘もとびきり可愛いらしい)
三、全員が組長の「お手付き」だという噂がまことしやかに囁かれている。
四、特に長女のカナエが一番のお気に入りらしい。悲鳴嶼組長が外出する際には、いつも彼女が介添えをしている。
五、アレが本命で、妹二人はおまけなのではないか。
――といったところだった。
「おまけ」とは言え、組長の女であることには変わりがない。絶対に、手を、出すなよ、と一言ずつ区切りながら、錆兎は義勇の腹を軽く打った。義勇は頷いた。というか、手を出す出さないの話ではない。傘を返したいというだけのことだ。そんな二人のやり取りを見ながら、真菰はにこにこほうじ茶を飲んでいた。
『ピロン♪』
錆兎のスマホが鳴った。
「お、さすがに早いな」
実弥からのメッセージだった。義勇はびっくりして眼を丸くした。彼がいくら実弥にメッセージを送っても、既読にすらならないというのに。義勇が「不死川のスマホは壊れているのかと思っていた……」と呟くと、真菰がそっと義勇の肩に手を置いた。たぶん、ブロックされているだけだよ。
錆兎はスマホを義勇に投げてよこした。真菰も義勇の肩越しに画面を覗き込んできた。
『いつもお世話になっております。本日はこちらの愚弟を同行させてくださり、誠にありがとうございました。またその際、冨岡が胡蝶しのぶ嬢から傘をお借りしたそうで。直ぐにお返ししたいのですが、如何致しましょうか。お手数をおかけして申し訳ない』
『こちらこそいつも大変お世話になっております。冨岡殿のご助力で事は円満に解決致しました。ありがとう存じます。鱗滝組長にも何卒宜しくお伝えください。また、傘の件。本人に確認致しますので少々お待ちください。』
真菰が「少々ってどれくらいかな!?」と言い、義勇の肩にのしかかった。その重みで体を揺らしながら、義勇はスマホを錆兎に投げ返した。錆兎は受け取ると、もう一度文面を確認した。
錆兎から実弥に連絡をとったのは、義勇がブロックされている疑惑があるから、という理由だけではない。互いの組の若頭同士が連絡をつけあうことで、「こちらにそんな気はない」と示す意図があった。不死川はそれをきちんと汲むだろう。――しかし。
「なんで”本人に確認”なんて書いてきたんだろうな」
「へ? 普通じゃない?」
「確認する相手は悲鳴嶼組長なんじゃないのか? まあそんなこと大っぴらには言えないだろうから、ふつうに確認とだけ書けばいいだろうに――」
錆兎はじっと考え込んだ。そこに、またピロンとスマホが鳴った。錆兎は画面をじっと見て、眼を丸くした。
「なんて!? 少々ってほんとに早かったね!」
真菰が義勇の肩から身を乗り出した。錆兎は首を傾げながら、またスマホを義勇に投げた。文面を確認した義勇は、心臓がざわざわとするのを感じた。
『冨岡殿にはお手数をおかけし、大変恐縮ではありますが、来週土曜日十六時・新宿三丁目・喫茶店「晴嵐風樹」にお越しいただけますと幸いです。しのぶを連れて参ります』
真菰がわあっと声をあげて手を打った。
「来週! よかったねえ、義勇。何着ていく?」
「…………これはどういうことなんだろうな」
「どうしたの錆兎、なんでそんな難しい顔してるの?」
錆兎はまた、煙草を取り出した。唇ではさんで、その白い筒を上下させる。ポケットを探ってライターを探しているようだった。真菰が、ほら、と座卓の上の銀色のジッポを手渡してやった。
「ありがとう。……てっきり義勇を会わせないようにするかと思ったんだがな」
本当に胡蝶しのぶが悲鳴嶼組長の情婦であれば、ほいほいとよその男に会わせるような真似はしないだろう。傘など、どうでもいいことだ。下っ端づてでやりとりすればいいことで、まさか本人を引っ張り出す必要はない。錆兎が実弥に連絡したのは、断られることで義勇に諦めさせようと思ったからだった。幸いなことに義勇本人が、芽生えかけの恋慕に無自覚なようだったから、元凶の傘さえ処理してしまえば穏便にいくと思ったのだ。でも、これは。
「錆兎はややこしいこと考え過ぎなんだよ。ねえ義勇どうする? 何着る? お礼のプレゼント持って行こう! わたし一緒に選んであげるからね!」
義勇は、まだスマホの画面を見て固まっていた。来週。また胡蝶しのぶと会うことになる。嬉しいのか嬉しくないのかも、よくわからなかった。ただ、安堵していた。あれっきりではないのだ。
また、会える。
その日は案外はやく来た。
義勇は指定された喫茶店に、迷わずつくことができた。実弥から地図の画像がメッセージアプリを通じて送られてきたのだ。「ありがとう」と返信したのだが、いつまでも既読にはならなかった。真菰は「ブロック……されてるね?」と言うのだが、そんなことはないと思う。俺は嫌われていない。特に嫌われるようなことはしていないのだし。
その喫茶店は、レンガ造りのビルの半地下にあった。看板は、出ていない。階段を数段降りると、ニスで黒々と光る扉があった。力をこめて、押す。扉がひらくと同時にカラン…と不愛想な鈴の音がした。
店内は清潔ではあるが、薄暗く陰気だった。天井からぶらさげられた卵色の電灯の光は力ない。義勇がそう広くない店内をきょろきょろ見回すと、マスターらしき初老の男性が、カウンターの向こうから声をかけてきた。
「お連れ様なら、あちらの奥ですよ」
義勇は男がゆびさした方を見た。蝶の髪飾りが、見えた。こんなにも暗いなかでも、何故か彼女の髪飾りは明るく光っていた。まるでそれ自体が発光しているようだ。実弥が、面倒くさそうに手をあげた。とっとと来いと言っているのだろう。
「すまない、遅れたか」
「いいえ時間通りです。私たちが1時間前からいただけでして」
あ、タイトル発光にしよ(めも)
。カウンターの向こうから眼鏡をかけた初老の男が
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893パロぎゆしの
初公開日: 2020年04月12日
最終更新日: 2020年04月12日
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