うららかとは言いにくい日である。
朝から薄ぼんやりとした雲で空は覆われ、昼を過ぎた今はどんよりと暗い色となっている。もう間もなく雨でも降るかのように空気はどことなく湿気っていた。少し窓を開ければ、昨日より幾分冷えた風が吹く。やや強いそれは、雨雲を連れてきているに違いなかった。
気圧も従うように下がっているのか、いささかだるい。子供部屋のソファで横になろうと思っていた一松は、しかし居間にいた。理由は子供部屋に次兄のカラ松がいる為だ。こんな日だというのに「空が……泣いてるぜ……」と意味の分からないことを言い、ギターを好きにかき鳴らしている。
いささか扱いに慣れたとはいえ、今の一松のコンディションは決して良くない。そんなときにこの次兄の態度は必ず一松の忍耐を呆気なく蹴散らすものだ。だからここは癪だが、非常にイラつくものはあるが、自分が大人になろうと一松は居間までえっちらおっちら下りてきたのだ。
母の松代がいるかと思ったが、買い物に出ているのか別の部屋にいるのか、台所にも姿は見えない。代わりに、というわけではないが、すぐ下の弟である十四松がいた。
テレビをつけるでもなく、なにやらそわそわとした様子でなにかをじぃと見つめている。見つめなにかは彼の長い袖に包まれているようで、一松からはよく見えない。よほど見ることに集中しているのか、一向に一松に気が付かない十四松に声をかけると「ボウエ!」と叫んで飛び上がった。
「一松兄さん!」
「なにしてんの」
どことなく面白くなく、一松の口調はつっけんどんなものになる。けれど十四松は気にした様子を見せず、逆に待ってましたと言わんばかりに「見て!」と袖の中のものをずずいと一松に突き出してきた。
予想外の勢いに一松の背がやや反る。肩透かしを食らった心持ちで見たそれは、ただの飴だった。昔ながらの、とでも言えばいいのか。どこか懐かしい色合いの包装だ。大きめなまんまるの飴をまじまじと見つめてから、一松は「飴じゃん」とだけ返す。
「そう!さっきねぇ、母さんからもらったんだよ」
「へえ……」
気のない返事をして、一松は腰を下ろした。
これがもうちょっといい菓子であったり、それこそ現金であったなら羨ましくもなるが、さすがに飴玉一つを羨むほど子供ではない。これぐらいならば、いつだって寂しい一松の財布からでも買える。
「良かったね」
「うん!」
元気のいい返事だ。そして百点満点の笑顔である。そういえば、最近また何かあったかんだかで、十四松の懐はこれまでにないぐらいに寂しいと先日聞いた。駄菓子屋でさえ厳しいと言っていたから、久しぶりの甘いものなのかもしれない。
それを思うと、「飴一つで」と馬鹿にする気はあっという間になくなった。
うへうへと頬が緩みっぱなしの弟に、一松の兄心も少し顔を覗かせる。
「……なんか飲もうと思うけど、お前もいる?」
「いいの!?飲む!」
珍しい一松の申し出に、十四松は驚いた顔をしたがそれも一瞬だ。ぱっと喜びいっぱいの顔をするものだから、一松の普段は重い腰もすぐに動いた。
台所へ行って、一松は恐らくトド松のものであろうインスタントコーヒーを勝手にもらう。それぞれのマグカップに適当に入れて、ポットのお湯を適当に注ぐ。それだけで、それなりにいい香りがするのがインスタントの素晴らしいところだ。
両手に一つずつ持って居間に戻ると、十四松は行儀よく卓袱台の前に座っていた。真向かいに一松は座ってカップを渡す。
「ありがとうーるいおー!一松兄さん」
「火傷すんなよ」
するりと優しい言葉が出た。十四松相手だからか、妙な恥ずかしさや気まずさは湧いてこなかった。
湯気をあげるコーヒーは、飲むにはまだ幾分早い。
「なにをして飴をもらったわけ」
冷めるまでの暇潰しに、一松は十四松に話をふった。十四松は「あのね」と嫌がることなく話し出す。
一松は頬杖をついて、あっちこっちに飛ぶ話を聞く。
その顔は、暇潰しというにはあんまりに楽しそうだった。
終わり!ちゃんちゃん!
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114:試し2 診断で出たやつ
初公開日: 2020年04月12日
最終更新日: 2020年04月12日
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