生前から霊基に刻まれるような恋とはどのようなものなのだろうか。
自分にも生前に愛した女は居た、女からも愛されていたとは思う。
かといって死後にサーヴァントとなり、愛した女を焦がれる程恋しくなったり思い出して会いたいと考える程では無い。
アイアイエー島での騒動を聞き、ふと考えた。
大魔女であるキルケーは過去の恋へのケリを付けたという事らしい。
英雄オデュッセウスに恋をし、生前伝えられなかった言葉を伝えた彼女はスッキリとした表情を浮かべて微小特異点から帰ってきた。
このカルデアに召喚されたのは彼女よりも遅い自分から見てもキルケーは清々しい表情に変わっていたのを見て取れた。
そんな事を考えながら食堂の片隅からぼんやりと無意識に大魔女へ視線を向けていたのか、彼女とパチリと視線が合う。
マズい、そう思った矢先に彼女は俺の前の席に座り頬杖をついて不敵な笑みを浮かべる。
「何か用でもあるのかな?新人のライダーくん」
「あっ、いや、すんません……不躾に見てたみたいで」
「まあまあ、怒りに来た訳じゃないさ。君は私に何か聞きたそうだったからね…暇つぶしに聞いてあげようじゃないか」
大魔女とはやはり何でもお見通し、そんなものなのだろうか。
しかし、あまりコミュニケーション能力に自信がないからこの状態はかなり苦しいものがある。
キルケーは俺が話し出すのをにんまりと口元に笑みを浮かべて待っている、あまり待たせるのも苦しいものだ。
「あ、えっと…、死んだ後も心に残るような恋って…どんな感じなんすか?」
キルケーの機嫌を窺いながら自分の疑問を彼女にぶつけてみる。
きっと彼女から見たら大の男がおどおどと問い掛けくる姿は情けないだろう、そう考えると冷や汗が出てくる。
「……ああ、この間の微小特異点の事が君の耳にも届いたのかな?」
「あっ、はい…、そっすね…」
機嫌を損ねてしまったかと内心焦るが、彼女はあっけらかんとした表情で特に機嫌を損ねた様子は無かった。
頬杖をついたままのキルケーは思案しているのか瞳を細めた後、肩を竦めながらため息を吐いた。
「死んだ後まで覚えていて後悔があるような恋なんて呪いみたいなものさ」
やれやれといった様子で緩く彼女は首を振った。
死後でも付き纏ってくるような呪いのようなもの、彼女の生前の恋はそれほど想いが強かったのだろう。
「死んだ後でもアイツの名前を聞くと心が騒つくし、物に当たりたくなる……いや、実際当たってたしね」
「そんなにっすか……」
「そんなにだよ!それぐらいアイツとの別れ際に後悔があったのさ」
多少聞いただけだが、キルケーは生前にオデュッセウスとの別れ際に言えなかった言葉があった。
それを今回の微小特異点で言う事が出来た、だから最近の彼女は吹っ切れたように軽やかだ。
「えーっと、マンドリカルドだっけ?今度は私が質問をして良いかい?」
「へっ!?あ、はい、どうぞ……」
急に質問をして良いか問われ、本当に情けないが肩が少し跳ね上がってしまった。
こちらを真っ直ぐ見つめてくる大魔女となかなか視線を合わすことが出来ないまま、小さく頷いた。
「君は生前に恋をしたかい?」
「あ、えっと、そうっすね…愛した人は居ました」
「ふーんそうか、それで今もその愛した人を引きずっているかい?」
「……いない、っすね」
確かにあの王女を俺は生前愛した、愛していた。
しかしそれは生前の話で、キルケーの質問に答えてた通りサーヴァントになった今は引きずってはいない。
思い出の様で、そんな記憶だったといった感覚に近い。
俺の返答に大魔女は表情を和らげ視線を伏せる。
「……じゃあ君はしっかり生前に恋に、愛にケリをつけてたって事なんだね」
「そう、なんすかね…?」
「そうさ!サーヴァントになっても生前の恋にイライラした事ないだろう?」
そう言われればそうだ、愛した王女を思い出す事があっても彼女が言うイライラといった感情に苛まれた事はない。
「……でも、俺はちょっとキルケーさんが羨ましいんっすよ」
「ほう?」
「死んだ後でも呪いと思うぐらいに好きで、愛していて…イライラするぐらいになれるってずっと相手を忘れずに居られるじゃないっすか」
俺の呟きの様な言葉に視線を俺に戻し、キルケーは瞳を丸くしてキョトンとする。
彼女の反応にマズい事を今度こそ言ってしまったかと焦ると、キルケーはくすくすと笑いずいっと俺に顔を近づけて瞳を細め楽しげに笑う。
「君はそんな恋を今しているんだね、呪いになって良い程に愛している人が居ると見た」
「や!あの、そんな…!」
「嘘はいけないよ、この大魔女キルケーの目は騙せないさ」
彼女の指摘に顔に熱が集まるのと同時にあの少年の笑顔が思い浮かんでしまう。
恥ずかしくて仕方ないのと、あの少年を心から愛している事を再自覚してしまい頭を思わず抱えた。
そんな様子の俺に満面の笑顔を浮かべ彼女は俺の頭を軽くぽんぽんと撫でた。
「それぐらい覚悟があるのなら協力してもあげて良いよ。いつでも私を頼ると良いさ!媚薬だって作っても良いぞう!」
「びびび媚薬!?」
「マンドリカルド、二度目の人生だ!良い恋をすると良いさ!」
彼女が立ち上がる気配に顔を上げて視線を向けると、アイアイエー島から帰ってきたばかりと同じような清々しい笑顔をキルケーは浮かべていた。
「どうか君は後悔の無い恋をしておくれ」
そう言って笑う大魔女の雰囲気は何処か優しい。
彼女が立ち去った後、改めて考えてみる。
恋しいと思うのはやはり生前愛した王女ではなく、黒髪に青空のような瞳をしたあの少年だ。
「……っし」
急に会いたくなってきた、菓子なんか持っていってそれを口実に一緒に過ごそう。
大魔女が言った通り、後悔の無い二度目の人生の恋に真っ直ぐになっても良いじゃないか。
SS完成なので、配信終了します!
見てくださった方ありがとうございました、ちゅっ