青い屋根に黄色い花
寝過ぎた土曜日、ただ天気がいいだけで罪悪感。尾形は既に起きていて、ダイニングでコーヒーを啜っている。あくびしながらおはようを言えば、早く着替えて来いと睨まれる。朝っぱらからそんな顔、しなくてもいいじゃん。内心不貞腐れるけど、あれは尾形がどっか連れてってくれるってこと。自分に付き合えとか一緒に行きたいとこがあるとか言えない、あいつの照れ隠し。
どこ行くのって聞いても「近くだ」としか答えてくれない。尾形も何も持ってないし、財布とスマホだけポケットに突っ込んで外に出る。風が強い。日陰と日向の温度差が楽しい。春だな、と当たり前のことを思う。道なりにずっと並んだトウカエデはまだ芽吹いていない。柔らかそうな黄緑の新芽が日に日に増えて行くのを、毎年俺は密かに楽しみにしている。大通りから一本入った住宅街。突き当たりには大きな公園がある。花見かもな、でも尾形に限ってそんなこと。まあ、どこだっていい。こうして尾形と連れ立って歩くだけで十分。今日は心なしか彼の歩調がゆっくりで、そんな些細なことも俺を喜ばせるのだった。
信号のない小さな交差点で尾形は急に立ち止まった。こちらを振り返ってニヤリ。
「何だよ」
「さあ、何だろな?」
角を曲がってその先を、見てみろと声に出さずに俺に目配せする。数件先の建物に覆いかぶさるように黄色のもさもさ。なにあれ。のりたまの「たま」だけを大きくして大量に木に振りかけたみたいな。
「スクランブルエッグ」
「いやいやいや、のりたまの玉だけだろ」
「お前がゆで卵食った後の机の上」
「そんなにこぼしてねえし、いや、にしても…咲きすぎじゃねえか?」
「毎年こうらしい」
「何で知ってんだ」
「店のばあちゃんに聞いた」
店?とよくよく見れば、木の下には青いビニールの軒。今は滅多に見なくなったけど昔のタバコ屋みたいな。一瞬、強い風が吹いて来て甘く香ばしい匂いがかすめた。尾形は迷わずその小さな店を覗き込んで、ぺこりと頭を下げる。ガラス戸には手書きのメニュー、店内には作業台と丸い鉄板とシンクとばあちゃんがぎゅうぎゅうに詰まっていた。
「はちみつレモン一つ、と…お前は?」
「え…っと」
っていうかまだここが何の店だか分かってないんだけど。とりあえずメニューを見やる。
シュガーバター
はちみつレモン
チョコレート
イチゴカスター
ピザ
うん、全然わからない。でも五択か、尾形と被らないのにして、あとでちょっと貰お。
「ピザとイチゴカスターで」
「七百五十円ね」
「杉元払え」
「はぁ?」
「面白いとこ連れて来てやったろうが」
なぜこうも俺の恋人は憎たらしいのだろう。ため息をつきながらも、素直に財布を出してしまう自分がちょっと情けない。
ばあちゃんは卵色の生地をお玉にとって丸い鉄板の上に落とした。T字になった木の棒で薄く広げる。あ、これ知ってる。テレビで観たことある。少し待って裏返すと薄茶で月のクレーターみたいな焼き目がついていた。上にピザソースとチーズと薄っぺらなハムの細切れが手早く乗せられて、パタパタと丸が三角に畳まれていく。紙に巻かれて「はい、ピザ」と手渡された。
「すげぇ!尾形、クレープだ!」
「お前食いたがってたろ」
「でもピザのクレープ!」
「」