#バンやろ版深夜のお絵描き一本勝負
バンやろワンドロ:お花見
 春眠暁を覚えず、と決め込みたいほどの陽気だが、あいにく桐生マサキにそんな暇はなかった。
 春は人事異動の季節だ。それに年度の終わりと始まりでもある。普段でも残業三昧なのに、春は尚更職務に忙殺されることになる。毎年そうだ。
 休日でもベッドで惰眠を貪る余裕はなく、日曜日の今日もマサキは職場に向けて歩いていた。
 三月の彼岸の連休は一日だけ休めた。その日以来約一ヶ月近く、休みらしい休みは取れていない。
 彼岸の頃に咲いていた桃は疾うに萎み、菜の花が過ぎ、桜も大方は散って、地面にはところどころ淡い薄紅の花びらが散り、踏まれて褪せた色になっている。
(こうなるといっそ侘しいな。こんなになるなら最初からあんなに咲かなければいいのに)
 マサキはつい先日まで花見でごった返していた公園の風景を思い出してため息を吐いた。
 花が咲くのは草木の都合だ。別に人を喜ばせるためではない。それでも、それに人は一喜一憂し踊らされてしまう。
(いや、きっとそれは俺の僻みだな。何しろ花見なんて何年もしていない)
 どんちゃん騒ぎをしたいとまでは思わないが、家族や親しい人と連れ立って、あるいは一人のんびりと季節の移ろいを感じる。そんな普通のことが普通にできないことに、少し疲れてしまったのかもしれない。
 望んで就いた仕事だ。音楽活動との両立も自分で選んだことだ。後悔はしていない。それでも、花を素直に良いものだと思えないほど、自分の心が乾いているのなら。
「あっ、スイマセン!」
 背中から肩に軽くぶつかられて、マサキはふっと我に返った。肩にぶつかられるのもまた久しぶりだ。長身のマサキの肩にぶつかることができるのは、同じように長身の人間だけ。
「いや、問題ない」
 そう答えながら振り返ると、大きな段ボールの箱を持った若い男が、驚くほど必死に頭を下げている。
「ほんとサーセン、前よく見てなくて」
「問題ないと言った。君も頭を上げてくれ。そんな大きな荷物を持ったまま屈んでは」
 腰を悪くする、と言おうとした矢先、若い男は手を滑らせて荷物を落とす。
「やべぇ、親方に怒られる」
「親方?」
 若い男は慌てて荷物を拾い上げた。いかつい顔つきだが、まだ十代の少年にも見える。しかし服の上からでも分かるがっちりした体つきは、昨日今日作られたものではなさそうだ。
「近所の建設現場に細々した荷物を運んでるんス。入口までッスけど」
「そうか。若いのによく働いているな」
 マサキが労うと、若い男はニッカリと笑った。
「そうだ、すみませんけどちょっと首の後ろ触っていいですか?」
 そう言うと、若い男はマサキの返事もまたずにマサキの首に手を伸ばす。
「はい、取れました。どうぞ」
 反射的に手のひらを出すと、そこには一輪の桜。
「…ありがとう」
 マサキが礼を言うと、若い男は目礼して駆け出していった。
(なかなか乙な花見じゃないか)
 花が咲くのは桜の都合。それで浮かれるのも人の都合。それでいいではないか。
 そのまま路傍に捨ててしまうのは惜しくて、マサキはそれを潰さぬようにそっとネクタイの裏へ隠した。
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ワンドロチャレンジ
初公開日: 2020年04月11日
最終更新日: 2020年04月18日
お題:ショートヘアー
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これは多分現代ファンタジーな感じ。21の続き。
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