小さな焚火だけが頼りの夜の暗闇。山の中。
戦の最中の野営。
なんて事ない野営のはずだった。
「信繁!!若様を御守りしろ!!グァアッッ!」
怒号が飛んだ瞬間、その人物は喉を掻き切られて地に沈んだ。
「宗政殿!!」
戦に新参の己とは違い、歴戦の将である人物があっさりと殺されてしまった動揺で声が震える。
体が上手く動かない。
そうこうしている間に、若様、和行(かずゆき)を守らんとして、此度の戦を共に戦った仲間たちが倒れていく。
一体何が起こっているのか理解ができない。
ゆらゆらと火が揺れる。
仲間たちを襲った者の姿がその火に照らされ、ようやくはっきりと目に認めることができた。
血に濡れた鋭い爪を持つ手。
仲間たちの返り血を浴びたその着物は、見覚えのあるものだった。
そしてこちらを振り返る、その顔も。
「みち、ただ……?」
その姿を持つ人物は、決して見間違うことのない男だった。
男の名を呼ぶ信繁の声は、絶望に震えた。
戦乱の世。誰が天下を治めるのか日々争う、そんな世。
元服を終え数ヶ月後。
信繁は城の廊下を歩いていた。
先程父親に呼び出され、一つのことを言い渡された。
それが誇らしく、喜びに満ち溢れ、思わず足音が鳴ってしまう。
「信繁!」
後ろから足音と共に聞こえた大きな声に呼び止められ、信繁は足を止めて振り返る。
そこには従兄弟であり、兄弟のようにして育った通忠がいた。
彼の瞳は輝いていて、その瞳を見るだけでむくむくと湧き上がる喜びの感情が溢れ出しそうになる。
「父上より、次の戦に若様と共に出るよう仰せつかったのだ! お前もか!」
「ああ。若様の初陣のお供ができるとは思ってもいなかった」
「初陣と言っても大きな戦ではないからな。俺たちのような若輩が場数を踏むには丁度良いということだろう!」
ははは!と大口を開けて笑う通忠に、信繁もはにかむように笑みを浮かべる。
若様、薄野千代丸和行(すすきの ちよまる かずゆき)。
薄野家の嫡男であり、次期当主だ。
幼い頃より和行に仕えるのだと父に言われ続け、信繁もそうするのは必然なのだと思っている。
何より自分がそれを望むのだ。
「通忠。俺は誇らしい」
信繁の言葉に通忠は首を傾げるも、すぐに同意するように頷いた。
「若様をお守りし、薄野家の繁栄に尽力したい」
「俺もだ。それは俺とお前が居れば、きっと叶う」
信繁は通忠へと視線を向ける。
彼の眼差しは強く、そして輝いていて、その眼差しに信繁もしっかりと頷いて見せた。
信繁にとって通忠という男は、自分を励ましてくれる男だった。
誰よりも信頼していた。
彼が一緒にいてくれるだけで、心強かった。
初めての戦であったとしても通忠がいてくれるだけで、どれだけ心の支えになっていたか、信繁自身も計り知れない程だった。
通忠の隣で、和行を守ることができる。
それはこの戦だけではなく、この先も、ずっと先も、和行が薄野家を継いでからも、ずっとずっと続いていくのだと、そう思っていた。
そう思って、疑うこともなかった。
戦は圧倒的に薄野家に有利だった。
しかし夜を迎えたために戦は一時休戦となり、陣営は森の中で野営をすることとなった。
初陣である信繁たちを余所に、戦慣れした家臣たちは手際よく野営の準備を整えてしまう。
何も役に立てなかった、と肩を落とす信繁に通忠は、次は真似して動けばいいと快活に笑って信繁の背を強く何度も叩いた。
準備の役に立てなかったのだから、せめて見張りを買って出た。
眠い終わります