約束の日、真人はちょうど時間の五分前につく。
手ぶらで、ポケットには何も入れず、夏油傑にはちょっと出掛けてくる、といつもの調子で話し掛けた。夏油傑は本心のわからない笑顔で、いってらっしゃい、と真人に手を振り、奥へと消えていき、真人もそれを最後まで見送ることなく、外へ出る。
七海が来てくれるかどうかはわからない。来ない可能性の方が高い気がした。来なかったのなら、それでいいだろう。今までの逢瀬も、指先の触れ合いも、キスも、言葉も、全てが無駄になるだけだ。有限ではない真人にとって、無駄は暇を潰すための大切な時間になる。
だが、喫煙所にいる七海を確認できたとき、真人はぱあ、と顔を輝かせた。
無駄なことに意味はあるが、恋は実らせなければ意味がない。
小走りで近づく。七海へ向けて手を振るが、おかしい。反応がなく、七海は白い顔を更に白くし、腹を押さえながら俯いていた。
タバコの香りの代わりに、血の匂いが鼻をつく。
「え」
血だらけの七海が蹲っていた。
「どうしたの、ねえ」
「あ、真人」
七海は青白い顔で、真人へ向けて弱々しく微笑む。
「何があったのか教えて」
総毛立つ感覚、というものが実感として湧き、真人は自分が上手く人としての表情を保てているのか自信がなかった。
七海が真人に抱きつく。七海の血を吸ったトレンチコートが、真人に重くのしかかった。
「怪我、治そう、とりあ、えず」
返事はなかった。慌てて息を確認すると、苦しく、弱くではあるが、指先が湿るのでひとまず安心をした。
真人に抱きつき力が尽きたのか、七海は気を失っており、真人はその身体を抱えて、その場から一旦姿を消すこととした。
誰にも教えていない、真人だけが知る寝ぐらがある。
迷わずそこに七海を運び、清潔なベッドに寝かせた。もう使う予定はない。血で汚れても構わない、と思った。
「ひどい」
服を脱がせ、傷を確認すると、何かに噛まれたような傷が多かった。それと逃げようとして抵抗したときにつけられたのか、爪で引っ掻かれたような傷がある。
「ここは」
「大丈夫、俺しかいないよ」
不安そうに見つめてくる七海を安心させようとし、真人はなるべく優しい表情を作るように努めた。
「傷の手当てをするから」
「ありがとうございます」
傷の手当てをする、と言ったものの、自身の能力で身体を元に戻す、若しくは治療をする、ということをあまりしたことがなかった。
あまり干渉をしすぎると、魂も身体も悪い風に変えてしまうかもしれない。
「ちょっと触るね」
「ぁっ、や」
「ごめん、キツいよね、熱も出てるし、舌を噛むと危ないから、これ噛んでて」
「ふ、ぐ、んんっ、んーっ」
真人は一番深く抉られている脇腹に爪を立てた。痛みに耐える七海に、ごめん、ごめん、と何度も謝罪を繰り返す。こういうやり方でしか、治し方を知らない、出来ない。これから七海と共に生きていくのなら、やり方を考えなければならない、と感じた。
「あ、だめだよ、意識を失ったら、起きて、起きて、建人」
「ん、んん」
「そうそう、もうちょっと、ここが一番酷いから、今はここだけ治すね、他の傷はまた今度にしよう」
七海の意識は限界に近い。大量に失血もしているから、これ以上ショックを与えると死んでしまうかもしれない、と真人は怖くなった。
「もうちょっと、もうちょっと、ね、ほらっ、終わりっ、もう大丈夫」
脇腹の傷口から手を引き、噛ませていた厚手の布を急いで取り去る。脱がせた七海のコートのポケットを探り、清潔なハンカチを取り出した。どうやらハンカチは血に濡れなかったようだ。
真人はそのハンカチで冷や汗の滲む七海の額を拭く。身体のところどころに散らばる引っ掻き傷や
カット
Latest / 75:42
カットモードOFF