猫になった兄さんと暮らして一週間。
九州のこともあって、猫について全く知らないというわけでもない。
兄さんが猫になったと上官たちの部屋から俺の部屋に移ってきた時には、新幹線のぬいぐるみが傷だらけになるのではないかとみんなに心配されたけれど、猫になった兄さんは喋れないけれどお行儀のいい猫だった。
「兄さん、カリカリ食べる?」
ミルクを上げるほど小さくもなく、俺は九州の時と同じようにドラッグストアでカリカリを買った。
そういえば兄さんは高級キャットフードを買ってきたとこがあったなと思い出して、もしかしたらそういうのも好みかと二種類の味をカゴに入れる。
その隣にはCMで見かける猫が夢中になるおやつも置かれていた。
手に取って、CMの猫たちを想像する。
猫だから微笑ましいその光景を猫になった兄さんがするかと思うと……。しばしの葛藤の後、そのパッケージは棚へと戻された。
兄さんにはまだ早い。いや、俺の心臓がまだ持たない。
兄さんだからとお皿にあけたカリカリを食べる姿でも十分に心臓に悪いのだから。
九州の時のおもちゃもみんな山陽さんに渡してしまったので、売り場にあるおもちゃも数点見繕った。
ねこじゃらしは兄さんも遊び方を覚えているだろう……兄さんにねこじゃらしで遊ぶ?!不敬ではないのか?!
そう思ったけれど、兄さんと九州と遊んだ時は楽しかったなとそれもカゴに入れた。
今度は一緒に反応してしまわないようにしなければ……って俺が遊ぶのだから大丈夫か。
ドラッグストアで買ったごはんとおもちゃと、猫兄さんは0系のラグと新幹線のソファーがお気に入りみたいで部屋に大半はラグの上かソファーの上で過ごしている。
猫の兄さんと和やかで楽しい毎日。
完全に猫になっている兄さんは仕事はできない。
業務に関しては山陽さんにやってもえらるよう手配済みだ。
俺は行かなければならないところだけ行くようにできるだけ外出を減らした。
このご時世、売上が減るのは苦しいが、テレワークだリモートワークだと在宅で仕事ができるのは有難かったし、兄さんもうちはなんとかなると言っていたからこの生活を暫く楽しませてもらおうと思う。
そう、思っていたのだけれど。
いつものようにソファーで丸くなっている兄さんを見ながら、ラグを避けるように布団を敷く。
「おやすみ、兄さん」
と言ってももう返事はなさそうだったから、部屋の明かりを豆電球にまで落とした。
カリカリも別の味があった方がいいかな、ところで兄さんは猫年齢的にいくつなんだ?
キャットフードが年齢別に種類があったことを思い出しながら、うつらうつらと眠りに落ちる。
朝になると、決して朝に弱くない俺の頬を叩くように兄さんが起こしにくるはずだった。
目が覚めるにはまだ早い時間。
うっすらと目を開けると部屋はまだ暗い。
時計を見ることも無くまだ夜中だと思えるのだけれど、俺の脇腹の辺りが温かい気がする……気がする……気の、せいではない。
目だけで新幹線のソファーを見ると、兄さんの姿はなかった。
新幹線のソファーにいないならラグかと、目線を落としてラグを見ようとするけれど、自分の布団の膨らみでよく見えない。
俺はそっと自分に掛けている布団を持ち上げるようにして覗いた。
俺の布団の中で、兄さんが丸くなって寝ている。
俺は思わず布団を元に戻すと、仰向けになったまま直立不動のような体勢で天井を見た。
兄さんが、俺の横で眠っている。
しかもくっついている。
動けない。
そして、下手に寝返りでもして兄さんを潰してしまったらと思うと寝ることもできない。
さっき時間を見ればよかったのだけれど、時計も見れないまま、部屋が明るくなるのをそのままの体勢で待つしかできなかった。
「どうしたの?なんか眠そうだね、ジュニア」
「山陽さんのせいです」
「えっ?俺?何かしたっけ?」
これはもう八つ当たりくらいしないとやっていられない。
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猫兄さんの話
初公開日: 2020年04月08日
最終更新日: 2020年04月11日
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テキストライブおためし