マイクのスイッチを入れる。ボウ、と音がしていつも通りにインカムが現れる。ぐ、と耳にイヤホンを押し込んだ。バクバク鳴る心臓が煩い。自分の浅く荒い呼吸だけが聞こえて、相手チームの声とビートが次第に遠くなっていく。ぜえ、ぜえ。どっ、どっ。意識がぼうっとする。観客の顔がぐにゃりと歪んだ。視界が狭くなってくる。はぁ、はぁ。どうしよう。いつも緊張して動かない口は、いつも以上に仕事をしてくれそうもない。ぱくぱく、エサを求めるコイのように、情けなく口が開いては閉じてを繰り返す。言葉にも韻にもならない声が、ぽろぽろと零れ落ちていった。
「あ、っ、…う、あの、…えーっと、えと」
ぎゅうっと目を閉じた。ああ、ダメだ。簓にも零にも迷惑をかける。いや、かけてしまった。こんなことになるくらいなら、簓も碧棺左馬刻をメンバーに選んだ方が良かったと思うだろうか。そんなことを考えている暇は無いはずなのに、苦しくなる呼吸とともによく分からない思考がぐるぐると頭の中に渦巻いていく。
『ろしょ』
「は、」
『盧笙』
簓の声が聞こえた。ジジ、といつもより少し悪い音質で。それでも俺の中にすぅっと染み込んでいくような心地がする。
『俺の声だけ聞いといたらええよ』
『俺とお前だけのステージやと思えばええねん』
『やから大丈夫やで』
俺の世界に音が戻ってくる。ビートとフロウを刻む零の声が聞こえた。どうやら変則的に零が応戦してくれていたらしい。簓を見る。汗が流れる簓の顔をじっと見るとニィ、と口角が上がった。大丈夫やで、と、今度は口がそう動く。ふぅ、と一つため息を吐いた。もう大丈夫や。前を見ると俺を照らすスポットライトが眩しいほど輝いていた。
「あーー、ほんっまどうなることかと思ったで!」