BLを書いています
目を覚ますと、真っ暗な空間にいた。
不思議と心地のいい、暗闇だった。地面はきちんとあって、僕はそこに立っている。けれど、いつくずれてもおかしくない、そんな予感がした。
さて、どこへ向おうかと辺りを見回してみる。何もない。少し息を吐いて、前に向き直る。
「うおっ」
「んあ、お師さん、こんなところにいたんや」
目の前に、影片が立っていた。音もなく、そこにいた。こんな短時間に、いったい、どうやって。なんの音もなかった。まるで、突然、その場に出現したかのような。それか、僕は幻を見ているのか。
「君、いつの間に、ここへ?」
「ん? おれは、いつだってお師さんのそばにおるよ」
それはいささか僕の質問の問いへの返事にはなっていないような気がするけれど。
真っ暗な中、影片だけがやけにはっきりと見えた。光っているわけではない。それでも、首を傾げる仕草はどこまでも彼のものだった。ただ、その首筋は不自然なほど真っ白だった。
「君は」
「あ、お師さん、おれ、こっちでええもん見つけたんよ。お師さんも見に来て」
「え」
ぐいっと、彼にしては強い力で引かれる。僕の右腕は、完全に彼のものだった。本当に、細いその腕にそんな力があったのかと、驚くほどに、確固たる意志をもつ腕の力で引かれてしまった。振りほどける、わけがなかった。
けれど、布越しに伝わってくる体温は、体温と呼んでもいいのか迷うほど、温かくも冷たくもなかった。まるで、その、僕がよく知っている、人形、のような。ああ、これ何かの罰なのだろうか。
「お師さん、お師さんは、なんも考えんでええんよ。あっち、行こ」
無邪気に笑う影片の指の先を、見る。真っ暗な闇が広がっているだけだった。
ぐ、と影片に引かれる手に力を込める。けれどあまりにきれいに、無邪気に、笑うから。僕は従ったのだ。
「いいもの、とは?」
聞くと、影片は僕の手を引いたままこちらを見ないで、
「お師さんの好きなもの、かなあ。おれは、そうやったらうれしい」
と言った。
やはり、影片は僕の質問にうまく応えない。はぐらかしているのか、それとも、まじめに応えている上で、その態度なのか。
僕にはよく分からなかった。
そういえば、僕が彼を「よく理解できた」ことは、ほとんどない。
「君はこの暗闇で、何をしていたのかね」
だから、聞いた。
影片は振り返らない。何も怖くない、という足取りで進んでいく。
「別に、なんも。やって、ここにはなんにもないし、お師さんもおらんしなあ」
確実なことは一言もない。「僕がいなかった」として、なにかをしない理由にはならないはずだ。もう、今の君には。
「なぜ、僕を探していた? いない、と感じていたんだろう」
まあ、いたのだけれど、と付け加える。
「それは」
影片が、初めて言葉に詰まった。引かれていた手が、引かれなくなる。
「うん、おれが探してたから」
何かに納得したようにうなづいてから、影片が僕を振り返る。何にうなづいたのか聞く前に、囚われた。にい、と半月を描く目と口。
影片、影片。影片?
君の瞳は、相変わらず美しい。しかし今は、どこか違和感を覚えた。なにか、とてつもない、変、が、ここにあった。脳みそに霧がかかったように、うまく思考できない。
「ほら、行こ。お師さん」
僕は黙って、影片に付いて行こうと決めた。こんな使い物にならない脳みそなんかよりも、君のツギハギな脳みその方がまだ使える。
影片はまた、僕から顔をそらすようにして進み始めた。
「……」
「お師さん」
「うん」
「ここ、どこだかわかっとる?」
僕は黙った。冷たくも温くもない手に引かれながら。そんなこと、僕は真剣に考えただろうか。一度も考えなかったような、考えたような。突然、地面が歪んだ気がした。