───てをとりあって、あるいてゆくゆめをみた。
瓦礫に埋もれた、傷だらけの白い左手を強く掴んで、もう二度と離さない、そんな確固たる意思を込めた。あんたは俺の予想外の行動に柔らかく目を見開いてから、いまにも泣き出しそうに笑った。
きみを守るためやってん、と、俺の背後であんたは零す。俺は空いた左手でマスクを引き下げて、おまえに守られるほど俺は脆弱じゃあないよ、と返す。ちいさく鼻を啜る音は思いきり無視した。
背後に闇があったとしても、きっと俺たちはひかりを見つけられる、だって俺たちだからさ。
そのことばは嘘じゃないよね、虚構じゃないよね。不安げなあんたがあんまりにらしくないから、振り向かないで、なにも言わずにさらに手を強く引いた。
あんたもそれきり、黙って俺の向かう方へ歩き続けた。
          ○
透明な障壁の向こう側の空は、酷くくすんだ、紛い物の青色をしていたが、消毒液の匂いの染みついたこの白い部屋の中では、それが唯一の色彩なので、カーテンを閉める気にはならなかった。
身動きをする。衣擦れの音がする。浅葱色の病院服に包まれた腕をすこし伸ばせば、触れる場所にナースコールのボタンがあって、今は特に調子が悪いわけでもないのだから、押すのは止した。誰も何も居ない部屋が空っぽでさみしい、なんていうのは、日々業務に勤しむ看護師の方々をわざわざ呼び出す理由にはならない。
隔離病棟は、きょうも何時もと同じ、消毒され漂白されただけの、味気ない空間で構成されていた。
世で云う、「奇病」。最近では、あまり珍しいものではない。工業や科学技術の発展に伴い、空気は汚染され自然は破壊され、それを食い止めるためにまた科学が発展し──恐らく、そんな悪循環が産み出した、沢山の解明できない病気。私はその内のひとつに、二年前から体を侵されていた。病名はついていない。前例がないし、後から私以外に羅る者も居なかったから、私はたった独りの、珍しい個体として扱われている。
「言葉を発すると、四肢に激痛が走る病」。
それには、声に出してなにか話すだけでなく、文字に書いたりすることも含まれるので、交流の手段は手話か、ジェスチャーのみ。常人より制限されたそれは酷く億劫で、医師とする事務的な会話以外は、ここ暫く行っていなかった。
「オスマンさん、入ります」
ノックの音と共に告げられた来訪の声に、コンと一度、壁を握り拳で叩く。入ってきた担当医は、黙って私の脈を見たり、点滴の量を確認したりしている。ふたつ分の息遣いと、無機質な機械音だけが、昼下がりのぼんやりした色彩のなかに落ちては消えた。
いつも通り、といったふうに彼が私の目を見て頷く。口角を上げて、顔面に薄い笑顔を貼り付けた。手話で感謝を伝えれば、もう一度首を縦に振った医師は病室を出ていった。
窓の外、春の訪れを告げる花はまだ芽吹かない。裸の枝に止まった四羽の鳥が、ちいさな足を動かして寄り添い、ちいさな翼をはためかせて飛び交っている。嘴から零れているであろう楽しげな囀ずりは、私の耳には届かないけれど、仲睦まじげなその様子に、ええなぁ、と思ってしまった。
仲良く、やるんやで。誰かが明日、既に動かないつめたい肉塊になっているかもしれない、そんな未来がある可能性はじゅうぶんなのだから。
隔離病棟に閉じ込められて、
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らんまんつづき
初公開日: 2020年04月05日
最終更新日: 2020年04月05日
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