最初の配信が繋がらなくなっちゃったのでここから続き書きます
【おぼ光】戦ぐ恋情
今まで、明確に「贈り物をしたい」と思って、プレゼントを買ったことはなかった気がする。たとえば、あの花が似合いそうだとか、こういうのは君が好きそうだと考えて、自然と体が動いてしまう。説明するのが難しいけれど、贈りたいからわざわざ選ぶのではなくて、君のことを考えているうちに渡したい物が増えていく。君の物にしてほしいと、君の周りに俺も君も好きな物がたくさん増えていったら嬉しいなと、ただそう思うんだ。
だから、今回もそうだと言えばそうだったのかもしれない。けれど時期が時期でもあったため、なんとなく、意味のある贈り物のようになっている。別に、それでも構わないのだけれど、こそばゆいというか。物を贈っている、という行為自体は変わっていないというのに、妙に照れ臭く感じた。
でももし、俺の選んだ物で、君の花が咲くように綻ぶ笑顔がまた見られると言うのなら、俺にとってはこれ以上にない幸せだった。
だから俺は、俺の目の前にあったそれを手に取り、レジへ向かう。お会計を済ませると、店員殿が袋に丁寧に入れてくれた。俺が使うような物でもないからか、なんだか微笑ましい視線で見られていた気がするのが、やっぱりちょっと恥ずかしかったけども。袋を貰って、大事に大事にしまい込む。さあ、今から君に会いに行こう。早く喜ぶ顔が見たいなと思って、段々歩くスピードが上がっていく。浮き足立っているのが自分でも分かる。
俺がこんなに恋に浮かれるなんて、怒られてしまうだろうか。でも、そんなネガティブな気持ちも全部吹き飛んでしまうくらいに、暖かな風は強く舞っていた。
そこから待ち合わせ場所までがあっという間だった。頭の中で、曲がかかる度に耳に残る巷で流行りのラブソングが延々と再生される。そのリズムに合わせて、駆け足になっていく。目の縁を過ぎていく桜並木に、そんな漫画やドラマじゃあるまいしと思うほどに、また風が強く吹いて視界が花びらに遮られていると、晴れた視界の中心に君がいた。桜吹雪などに攫われてやるものかと言わんばかりに凛々しく佇むその後ろ姿が、俺は焦がれるほどに好きだった。
「光国!」
愛しい人の名を呼ぶ。袋の持ってない方の手を早くこっちを見てと言いたげに振る。そうすると君が振り返って、髪が風に沿うように波打って、俺を見た途端君が笑うから。胸の内が溶けていくのに締め付けられるような、堪らないときめきに襲われながらも、俺は君へと走り寄る。
「ごめん、待った?」
ずっと走ってきても不思議と息切れがしなくて、それは春の恋の魔法と言うよりは普段から鍛えてきたおかげだと、情けない姿を見せることがなくてよかったと自分で自分に感謝する。
「いや、俺もちょうど今来たところだ。」
「そっか、それならよかった。」
二人して待ち合わせ時間の十分以上は前に来ていると言えど、やっぱり恋人を待たせるということはしたくなかったのでそっと胸を撫で下ろす。
「ところで、その手の袋は……」
光国が俺より少し下に目線を向け、気付いたように指差す。俺がずっと腕に抱えていた小ぶりな茶色の紙袋。夢中になりすぎてて、つい他の荷物を入れた鞄の中に入れるのを忘れていた。
「ああ、これ、さっき来る途中に買ってきて……あっ寄り道しちゃっててごめん!でもどうしても渡したくて。」
安易に寄り道をしたことを口走ってしまったことに若干後悔しつつも、俺はガサガサと音を立てる袋から慎重にそれを取り出す。風に飛ばされないように、しっかりと握って。
「……髪紐?」
俺の指先を、マーガレットの蕾のように丸くて黄色い瞳がまじまじと見つめる。ひらひらと、周囲を舞い散る花びらのように薄く靡く、桜色の髪紐。端にはモチーフとなった花のチャームもついていた。一目見た時から、きっとこれをつけた時の光国は美しいのだろうと、想像したら止まれなくなった自分がいたから。
「うん。似合うと思って……」
そう口にして、しばらく反応がないことに気付いてしまう。あ、あれ?調子乗りすぎたかな。唐突で引かれてしまっただろうか。戸惑いを覚え始めたと同時に、光国の体温が俺の指に触れる。目を細めた、満天の笑顔で。
「ありがとう……すまない、あまりに美しくて少し驚いていた。付けてみても……いや、お前が結んでくれたら、俺は嬉しい!」
ぶわっと、突風に吹かれたみたいに俺の頬が一気に熱くなる。今日はこんなにぽかぽかしていただろうか。太陽が眩しすぎる。どの太陽かも分からない。
「上手く結べるか分からないけど……お、俺で良ければ!」
そうして二人で近場の木製のベンチに一旦着席すると、光国はいつもの深緑の髪紐をするりと引っ張って解いた。疎らになった毛先はいつ見てもさらさらとしている。俺はそれを手に取り、懇切丁寧を心がけて指に通した。覗く純潔な項がいじらしい。人通りは決して少なくはないはずなのに、こうして穏やかに過ごしていると周りのことすら忘れてしまう。君と俺と、それから見守る大樹に咲く薄紅。
きゅっと濃紺に映える紐をリボン状に結ぶと、できたよと声をかける。光国がこちらを振り向くと、桜を模した金属チャームが首筋に当たったらしくその冷たさに一瞬眉をひそめた。彼はありがとうと一言告げると、すくっと立ち上がる。そして子供みたいに無邪気にくるりと一回転して、朗らかに笑って問いかけた。
「どうだ、似合うか?」
「──もちろん。」
それ以外にかける言葉が見つからなかった。陽気で輝かしい光を真上に、橙色の影が顔に落ちて、逆光のようになっている彼に、チャームがきらりとそれを反射する。その姿があまりにも、あまりにも目映くて。
「わっはっは!そうだろうそうだろう!」
ふふんと得意げな表情を作って、彼はこう続ける。
「お前が俺を想って選んだ物が、似合わないはずがない!」
心ごと体ごと奪われそうになるほど、鼓動が鳴り止まない。これは幻でも夢でもなんでもない。ありふれた日常の中にあるからこそ、何よりも輝かしく見えるんだ。
好きだ、と思った。いつも思っているけれど、より一層感じた。また爽やかな風が吹いて、たとえ目を閉じたとしても、君は俺の傍にいる。戦ぐ髪紐を、信じているから。
「さて、今日のデートはどこへ行こうか!」
手を差し伸べられて、俺は意思を繋ぐ。
「光国の行きたいところでいいよ。俺がそうしたいと思ってる。」
いつもこう言うから、またそれか?と言われる前に付け足した。
「うーん、髪紐の礼をしたいと思ったのだがな……」
「あ。あそこ、光国がこの前行ってみたいって言ってたカフェじゃないかな?」
「何!?それは行かねば!」
ぐっと手に力がこもって、俺達は春の道を駆けていく。横に目をやって、その笑顔が見れるから。俺はずっと隣にいたいと、何でもしてあげたいと思ってしまう。惚れた弱みと言われても仕方がない。俺の恋情はいつだって、この愛おしさに振り回されている。
「ここは確か『てぃらみす』が有名なところで──」
ちょっと食い意地の張った、いつも俺を元気づけてくれる、可愛い俺の恋人。この想いは、いつまでも散ることなく根を張っている。桜よりは儚くない、そんな俺の、優しくて美しい人との恋。またその髪紐が似合う季節に、こうしていられますように。
おわり