お題:ひとじゅしで「はじめてのキス」
※長くなったり、年齢制限が入った場合は(多分入らんけども)カットするよ。
※書いた奴は支部に上げるよ
※筆は止まりやすいよ
※ましゅまろくんでお題を募集しているよ
 それは、"これが運命と言うものなのか"と思える程の相手に出会ったその時から、ずっとずっと、ずーっと心に秘めてきたものだった。
 当たり前だけれど、常識、みたいなモノを鑑みたら、自分の想いや行動と言うのは褒められるものなんかじゃなくて、むしろ、"未だに"そんな厄介なモノを抱えているのかと怒られそうですらあって。
 でもじゃあ、気持ちとか想いとか、そう言うモノを押し込めたり無かったことにして、この世界の大多数の人間は、どうやって生きているのだろう。
 とは言え自分にはそこまで深く考えられる様な頭はないから、細かい事を気にする前に"やる"のか"やらない"のかしかなかった。
 だから、やってみようと思って。
 くすくすと笑われたり、こそこそと気味悪がられたり、そんな自分を否定しながら膝を抱えていたあの時と同じじゃなくて、今度は自分が伝える番で、頑張る番だから、だから。
「獄しゃん!好きっす!」
 大きく息を吸い込んで、覚悟して、マイクなんか使わなくても出た大きな声で伝えた言葉は、まさかの"噛み噛み"だったんだけど。
白黒弁護士と大きな子犬―初めてのキス編―
 我の名は、えーっと、この場合はどっちの方がいいかな。ナゴヤ・ディビジョン代表としてチームを組んでからはMCネームを名乗る事も増えたし、時々悩む。ううん。いいや、今回は漆黒の騎士でいこう。
 こほん。
 我の名は混沌と漆黒の騎士、そして此処は我が盟友にして莫逆の友――にして、こ、こっ、こい、びと、の、天国獄さんの事務所である。
 いつもはアポイントなしで来る事が多いけど、今日はちゃんと約束を取り付けてきたから大丈夫。――大丈夫なのだ!あれ。うーん。気合が足りなのかな。緊張してるのかも。
「何してんだお前。」
「うっひゃあ!?」
「うるせぇ……。」
 獄さんの部屋の前で色々、どう声をかけようかとか、そもそも此処に居るんだっけとか色んな事を考えていたら背後から声をかけられた。完全に地上からは飛び上がって驚いたら、"うわぁ"って顔をして珈琲を片手に獄さんが耳を塞いでいる。最初は見分けがつかなかった表情も、今では些細な違いを見つけられる様になった。
 例えば、今目の前に居る獄さんの表情って言うのは、眉毛がキッと上がってて、眼はちょっと垂れてる。これは別に怒ったり迷惑だなって思ってないけど、吃驚したから困ってる顔。自分で言うのも恥ずかしいけど、自分がもっともっと、ずーっと泣き虫だった時とか、よくこの顔してた。当時は今みたいな見え方をしてないから、自分も怒られてるんだと思って逆にびゃーびゃー泣いちゃって、思い返してみると、慌ててたなって笑っちゃうんだけれど。
「背後にいた!」
「そりゃお前……背後に居る事もあるだろうよ……。」
「中にいると思ったんすもん!」
 ああもう。ニコニコしちゃうな。空却さんがいたら頭叩かれそう。弛んでる!とか何とかって。空却さんだって弛んでる時あるのにな。座禅しながら寝てたりとか。
「突っ立ってないで入れ。もう少しで書類が片付くから。」
「ほんとっすか!」
「嘘ついてどうすんだよ。大人しくしてろよ?騒いだら騒いだ分だけ俺の仕事が遅くなるからな。」
「はいっす!」
 そう言えば獄さんの事務所って何台コーヒーメーカーあるんだろう。この部屋にあって、応接室の横にもあって、それから、あと三台くらいありそう。ふふ、ちょっと笑っちゃう。
 定位置になったソファに腰掛けて、鞄からアマンダを取り出して抱きしめる。こないだ洗ってもらったばっかりだからふかふかなのだ。相変わらずブサイクなぬいぐるみだなって奥の机から呆れた声が聞こえてきたけど、アマンダはブサイクじゃないから無視します。
 今のうちにライブのスケジュール確認しておこうかな。なんて端末を開いていたら、ことりとテーブルにコーヒーカップとミルク、それからお砂糖が二本置かれた。
「ありがとうございますっ!」
「おう。」
 コーヒーメーカーは壊れたら嫌だから触るなって言われてるけど、獄さんはこうやって自分の分も淹れてくれるんだ。そんな些細な事が嬉しくて、大好きだなって思う。ポカポカ胸の奥が暖かくなるんだ。意味が分からなかったこの感情が、自分とは無縁なんだろうって思ってた人との繋がりの、その少しだけ先にある"好き"って気持ちなんだって、自覚した時の衝撃は大きくて重くて、ちょっと泣いてしまったんだけど。
「ふーんふふーん。」
「……。」
 思わず鼻歌を歌ったら、くしゃりと頭を撫でられた。
「はぁー!終わったっすね!」
「なんでお前が仕事終わりみたいな声出してんだ。終わらせたのは俺だろうが。」
「獄さんの代わりに!」
「……はぁ。そう言う所がバカガキってんだよ。」
 そんな事言いながら獄さんの声はどこまでも優しい。無意識なのかな。それとも、無自覚なんだろうか。荷物持つっすよ、って手を伸ばしたのに、重いから良いって言われちゃった。事務所を出て、駐車場までてくてく歩く。当たり前みたいに春はやってきて、何年目かの自分と獄さんの、何の代わり映えもない景色が、光景が広がっている。ああでも、ここから見える景色は昔より少しだけ変わったのかも知れない。そう、あの頃より身長が伸びたから。
「どっか行きたい所あんのか。」
「お花見したいっす!」
「花見か……この時間だと人も多いんじゃないか。」
「隅っこで見られれば良いっすよ!」
 ――それからもう一つ、今日はしたい事があるし。
「ん?なんか言ったか?」
「何でもないっす!」
 アマンダは鞄に入っててねって中に入れて、獄さんの車の助手席に乗り込む。そう言えば久しぶりだな。空却さんと知り合ってからチームで移動する時は専ら後部座席に居る事が多いし。それ自体は別に何にも思わないけど、運転してる獄さんの横顔って格好良いから眺めてたいんだ。
 そうそう。今日の目標、って言うか、自分が獄さんと会ってしたかった事。それは、き、き、キス、なのだ。お付き合いを始めたのは二ヶ月前。今は詳細を省くけど、色々あって自分が告白して、獄さんはそれを受け入れてくれたんだけど。
「……。」
 この二ヶ月、自分たちの関係はと言えば、手を繋ぐので精一杯。しかも手を繋いだのだって人混みに流されちゃうからーって、空却さんを先頭にして自分、獄さんとお団子みたいに成り行きで繋いだだけだし。二人でじっくり繋いだことはない。
「何かつまみでも買ってくか。屋台の飯はたけぇし。」
「えー!屋台で買った方が美味しいっすよぉ!」
「そんなもんかね……。」
 何だかんだ考えてるうちに公園について車を降りる。まだ完全に陽が落ちてないから、夕陽に照らされた桜がオレンジに輝いている。風もそこまで強くないし、ロケーションはすごく良いんじゃないだろうか。
「そこそこ人居るっすね。」
「週末だしな。」
 てくてく。時折言葉を交わしながら歩いていく。自分もたくさん話す方じゃないし、獄さんも――これは言ったら怒られると思うから本人には言わないけど――お喋りなんだけどシャイな所もあるから、無言の時間の方が長い気がする。
 屋台は色んなものがあって、適当に目についたモノを買うことにした。串カツもあったし、あとは定番のタコ焼きとか、飲み物はサイダーとか。獄さんは一瞬お酒を飲みたそうな顔をしたけど、運転あるからってコーラにしてた。
「此処とかどっすか!」
「おう。」
 ちょうど社会人グループの宴会が終わったのか、大きな桜の木の下を確保する事ができた。レジャーシートとか持ってこなかったけど、草も生えてるしそのままでいっかって二人でちょこんと座り込む。食べ物も広げて上を向くと、はらはら舞い落ちる桜が綺麗で、どこか儚く見えた。
「前にもこうやって、お花見した事あったっすね。」
「……そうだったか。」
「っす。もうずっと前っすけど。……ふふ。」
 乾杯って缶ジュースを突き合わせてこくんと一飲み。しゅわしゅわ弾ける泡は乾いた喉にちょうど良い刺激になって消えていく。
「……綺麗っすねぇ。」
「……。」
 桜を見る振りをして盗み見た獄さんの顔は、眉毛が下がって、目尻も下がってる、穏やかな顔。自分が一番好きな顔。格好良いな。好きだな。心がとくとくするんだ。ふわふわして、まるで春風みたいな心地いい何かが吹き抜けていく。
「……獄さん。」
「ん?」
「……木の陰なら、くっ付いても、良いっすか……?」
 恋人らしい事がしたいとか、AとかBとかCとか、究極的には全部したいけど、今すぐしたいわけじゃないんだ。でも、いつか終わってしまったら、それは怖いから。何もできないまま、終わってしまったら嫌だから。
 そっと、草の上につかれた獄さんの手に指を伸ばしてみたら、当の本人はどこか遠くを見ていたけどするんと指が絡んだ。熱い。指先から獄さんの体温が流れ込んでくる。照れてるのかな。いつもはもっと体温、低いと思ってた。
 本当はきっと、もっと堂々としていれば良いんだと思う。でもまだちょっとだけ怖くて、怯えてしまっている自分を知っているから。今は。この距離でいい。
「……獄さん、こっち向いてくださいっす。」
「……何だ。」
 その音には確かな優しさがある。自分は知っている。
「自分、自分ね、今こうして獄さんと居られるの、凄く嬉しいんすよ。」
 桜が舞う。はらはらと、ひらひらと舞う。
 美しさなんて一瞬で。
 今日が終わったその先に、同じ光景は二度と見られない。
「だから、だからね。」
 灰色の瞳がこちらを見ている。
 滲む視界の向こうに大好きな人がいる。
「ずーっと、大好き。」
 風が吹く。
 落ちて、踏まれてしまった花弁すら巻き上げて強く。何処までも届くくらい高く。
 貴方は桜に攫われたりしないだろうけれど。自分が攫われてしまったら、その手を伸ばしてくれるだろうか。
「……はぁ、十四、少し目、瞑ってろ。」
 その日初めて自分の名前を呼んでくれた、その声に応えて目を閉じる。
 瞬間。
 ふわりと触れた唇は、何故か桜の香りがした。
「お前ら中学生か……?」
「めちゃくちゃロマンチックだと思わないっすか!?もー自分感動で泣いちゃってあだっ!」
「雑念は敵だ!」
「休憩って言ったじゃないっすかぁ!またそうやってバシバシ叩くー!バカになっちゃうっす!」
「うるっせぇ!何で師匠の拙僧がてめぇ様の惚気話聞いてやんなきゃなんねぇんだよ!」
 だって聞いてくれるの空却さんしか居ないし。そうやって涙目になったら、また容赦なく棒が振り下ろされた。今度は避けたけど肩に当たって痛いし。バカになっちゃうって言ってるのに!
「っにしても獄の野郎、二ヶ月でキスとか童貞かよ。」
「自分は獄さんが初めてっす!」
「ったりめぇだろがい!はー……疲れる。」
 今日はもう終わりだって空却さんはお茶を取りに行っちゃった。パタンと襖が閉まったのを見て、懐から端末を取り出す。今朝獄さんに送ったチャットの返信はまだ来てない。桜を見に行ってからもう五日も経ってしまった。相変わらず、あの日以来キスどころかまともに会ってもいない。
 でも、前より少しだけ、もっともっと、心がとくとくする事があったから良いんだ。
「……ふふ。」
 あの日、初めてのキスをしたあの時、自分と獄さんの唇の間には一枚の桜の花弁が挟まっていて。
 居た堪れなくなって、というかもう、お互いに恥ずかしくて、真っ赤になったけれど。
 ――十四。
 自分を呼ぶ声の暖かさとか。
 ――逸れるな。
 手を握る掌の大きさとか。
 ――ちゃんと、ついてこい。
 するんと耳から入り込んだ言葉の意味を、こんな自分でも理解できたから。
「大好きっす、獄さん。」
 端末ケースにそっと挟んだ花弁に微笑んで、今日も頑張って修行するのだ。
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ひとじゅしとその他書けたら
初公開日: 2020年04月04日
最終更新日: 2020年04月04日
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コメント
ましゅまろで貰ったお題とあとは気ままにかけたら書くよ。
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