FE3H レトディミです、慣れないので落ちたりします。
釣り池での会話を先生は憶えているのだろうか?
いつだったかは忘れたが、よく晴れた午後だった。
「ディミトリって……釣った魚に餌をあげないタイプだな」
「そうか……?」
「お前は優しいから、みんな好きになってしまう」
「俺は……優しくはない」
「優しい奴が自分のことを優しいというか?」
「好きになってしまうんだ、みんなお前のことが」
責めるつもりはないんだ、だけど愚痴ぐらいは言わせて欲しいという顔だ。……実際に言っているが。
「なのに」
「なのに?」
「お前は……ちっともこちらを見てくれない」
「そんなことは……俺はちゃんと先生のこと好きだよ」
いつか花は枯れると、寂しげにつぶやく先生の横顔を忘れることができない。
forget-me-not
真夜中は、吐き出した白い息がはっきりと見える。
「ふたりとも……結婚おめでとう。それから……」
ずっと一緒にいた幼なじみが結婚するらしい。
「それから……」
あの頃とはもう何もかもが違う。
「ディミトリ」
「先生」
「何をしていたんだ?」
「結婚式のスピーチを頼まれていて、練習していたんだ」
「そうか」
楽しみだな、
「先生は、参加するのか?」
「もちろん。俺は……大司教として、だけれど」
「なるほど」
先生は、よく話すようになったし、表情も豊かになった。
初めて笑った顔をみた時は嬉しかったな。
「ディミトリは……いつ結婚するんだ?」
「相手もいないのにか?」
「俺と、じゃないのか?」
「え?」
「え?」
先生と、俺が?
「どうして……そんなことを言うんだ?」
「どうしてって…俺から言った方がいいのか?」
きっと、先生は何か勘違いをしている。
「だって……ディミトリは俺のことが好きだろう?」
「待て……俺は、先生のことがそういう風に好きだったのか?」
「それを俺に聞くの…ちょっと待って、すごく恥ずかしい」
表情が乏しい先生も照れたりすることがあるのだな。
好きなのは、俺だけだったのか。そう言うと、先生は手に握っていた、何かをポケットにしまった。
「もう一度、お前に好きになってほしい、努力する」
「王としてのディミトリじゃなくて……ディミトリというただの一人をまもりたいんだ」
定めは、神様が振ったサイコロの目のようなもの、と誰かがいっていた。
「俺にできることを教えてほしい、力になる、支えたい。これからは……ずっとディミトリには笑っていてほしい」
左手薬指に嵌らない指輪。
「それって…もしかして、プロポーズか?」
叶わない夢を見させて、希望をもたせた、美しい先生。
「笑って誤魔化さないでくれ、俺は本気だ」
恋は、雪の模様みたいに複雑だ。
「ちゃんと捕まえてくれよ」
「もちろん」
氷のモザイクが、そっと、溶けた気がした。
「んっ……」
これから、何回口づけを交わすことができるのだろうか?
「少しずつ、重ねて、変わっていこう。ふたりで」
「初めてが全部欲しい」
馬鹿みたいに、めんどくさい。
「恋に落ちるってどんな感じなんだ?」
何度でも、手を握って。傷つけすぎたかもしれない。
「殿……ちがった、陛下」
「シルヴァン。名前でいいと言っているのに……なんだ?」
「その小指の指輪、どうされたんです?ちゃんと嵌ってないから落ちちゃいそうですよ」
「すまない、ありがとう……人から貰ったもので」
「人から」
「そう、好きな人から」
「俺も……その相手に指輪を贈りたいのだが、選ぶのに付き合ってくれないか?」
きっと、好きの密度は違う。けれど、指輪一つで不安になってしまうのは。
「もちろん、とびきりの指輪。プレゼントしましょうね」
恋と認めるには、時間がかかりすぎたが。
「…きっと、ディミトリは俺じゃない誰かと一緒にいても幸せになってくれると思う。けれど俺の手で幸せになって欲しい」
傷を隠したプライドは、まだ全ては取り払われていない。
「……お前を幸せにするのは誰でもいいけれど、俺だけが唯一の人でありたいんだ」
痛くて、情けなくて、酷く憎くて。
どこまでも、勝手な人だと思う。
最初は傭兵として出会った。
そして次は教師として、そして仲間となって。
最後は
「ディミトリ、幸せになる準備はできているか?」
「…途中でいなくなったりしないか?」
「いなくなったりしない」
「最後まで、そばにいてくれると約束してくれるか?」
どんな暗いストーリーも覆してくれる、この先の全てを知っているような表情をした貴方を信じてみたい。
「約束する。……最期まで見守っている」