「嘘じゃないよ。」
いつもみたいに薄く笑っているくせに、目は真っ直ぐに俺を捉えていて。黒板の日付を確認しようと視線を泳がせた俺にもう一度、「好きだよ」と言葉を投げた。今日は四月一日。そう、エイプリルフール。だけど今の時刻は午後四時五十分。エイプリルフールに嘘をついていいのは午前中だけだって知ったのは去年のことだった。今目の前にいるこいつから、そう言われたんだ。午後は、本当のことを言うんだって。だから、今好きだと言ったその言葉は多分嘘なんかじゃなくて。
「言うつもりなんかなかったんだけどな。ほら、やっぱり今みたいに困らせちゃうから。」
困ったような顔でそんなことを言う。その顔は初めて見る顔で、不覚にも心臓にクるものがあるとか、そんなことを思ってしまった。
「なんで?」
すぐにでも返事をすればいいのに、どうして俺のことなんかを好きになったのかなんて聞いてしまって。きっと花巻じゃなかったら聞かなかったこと。
「うーんなんでっていうか、理由は、例えばいつも俺のバカなノリに付き合ってくれるとか、帰り道にくだらない話で盛り上がるとか、ブロックが最高に怖くてかっこいいとか、そんなナリでチーハンが好物とか、いろいろ。でも多分そんなん全部後から付いてきたもので、松川のことを好きになった理由はそれこそたくさんあって。でも、なあ松川知ってた?好きになるのに理由なんかないんだよ。」
教室の窓から刺す日の光のせいか、それとも花巻が柄にもなく照れているからなのか、はたまたその両方なのか、花巻の頬は薄紅色に染まっていて、ああ春だなあなんて全然関係ないことを思った。
「お前、自分で聞いたくせに俺の言ったこと聞いてないだろ。」
むすっと口を少し尖らせて、頬が少し膨らんで、子どもみたいなその表情がなぜだか愛おしい。そんなことを思っている時点でもう答えなんて決まったようなもんだ。
「まあいいや。ごめんな、こんなん。言いたかっただけなんだ、自己満だけど。よかったら、これからも友達として接してくれると嬉しい。」
「友達として、はもう無理かもなあ。」
「そっ、か。気持ち悪かったよなごめん。」
言葉を間違えたと思ったのは、花巻の歪んだ、無理して笑ったひどく辛そうな顔を見てからだった。
今にも泣き出しそうな花巻は俺に涙を見せないためか目を伏せて顔を手をやって、ねえ俺に泣き顔を見せないなら一体誰に見せるの?なんてまだなにも伝えてないくせに勝手なことを思う。ああ気付いていなかっただけで、気づくことができないほどに自然に、俺は花巻に惚れていたんだ。
「友達じゃ、足りないよ花巻。俺は花巻を独り占めしたいんだ。」
えっ、と顔を上げた花巻の目は今まで見た中で一番でかくて涙でキラキラしていて、夕日で手を伸ばせば消えてしまいそうで。
ふらふらと行き場なく彷徨っている花巻の両手を取る。熱いのは花巻の体温か、それとも俺の体温か。
「好きだよ花巻。俺も、花巻のことが好き。」
「う、そだ。」
「嘘じゃないよ、だって花巻言ってたじゃん。午後は本当のことしか言っちゃダメなんでしょう?」
ボロボロと花巻の目から涙が溢れる。
本当は一滴残らずそれを受け止めたいけど、それはできないから親指で拭う。それでも指の端から涙は落ちていく。ビクッと肩を跳ねらせる花巻がかわいいなんて、なんで今までこの想いに気づかなかったんだろう。バカだな俺。
「俺と付き合ってください、花巻。」
「っ、ほんとに?」
「うん、ほんとう。」
「よろしくっお願いします、」
「ははっやったあ。」
ギュッと抱きつくと全然柔らかくない綺麗に筋肉のついた運動部の男の体。なんだっけ、この前及川に言われてたな。そうだ、セミゴリラ。確かに、セミゴリラだ。ふふ、おかしいの。俺にはこの筋肉のついた硬い体がちょうど良くて、ひどく愛おしい。
「なーに笑ってんだよ。」
「んー?愛おしいなあって。」
顔を見なくたって花巻が照れているのが分かる。日に焼けても赤くなるだけだって言う花巻の白い肌に、紅く染まった頬はよく映えるだろうなあ。
「ねえ。」
「なに。」
「キスしていい?」
「……聞くなよバカ。」
ああもうかわいい。好き。愛おしい。
橙色に染まった俺たち二人だけの教室で、ふれるだけのかわいいキス。それだけでも心臓ば爆発しそうなくらいバクバクで。
離れた後に花巻がくすくすと嬉しそうに幸せそうに笑うから、思わずもう一度キスしてしまったのは、青春の甘酸っぱい俺たちだけの秘密。
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初公開日: 2020年04月04日
最終更新日: 2020年04月04日
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