明るい陽射しが降り注ぐ草原は見渡す限りの緑色と枯草色が波のように揺らめきながらどこまでも広がっていました。
銀青色の毛並みとしなやかで適度な筋肉のついた身体、少し湾曲した角を持つガゼルさんのお日様色の瞳には、その光景はどこを見てもご馳走に映ります。
「おいしそ~」
ガゼルさんはにこにことご機嫌なお天気の中歩き出し、時折草を食みながらまったりと一日を過ごします。
お腹が満たされてきたら、ゾウさんやキツネさん、フェネックさんなどと挨拶を交わし、今日はどこの水場が空いているかとか食べごろの木の実がなっている場所なんかの情報を交換して少し足を延ばして遠くまで行ってみたり。
その日もガゼルさんの気分でいつもとは違うお食事場を発掘してみようと歩いていくと、地面に長い影が映っているのに気が付きました。
「わあ、おっきい」
思わず呟きが漏れます。
そこにいたのは、首の長いキリンさんでした。
「んー、やっぱり太陽たっぷり浴びた葉っぱは最高っ」
キリンさんはチーターさんなら登れそうな曲がりくねった背の高い木の上の方に生えている青々として艶のある瑞々しい葉っぱをもぐもぐと食べているようでした。それも何とか見えるくらい高いところなのに、キリンさんは首も脚もすらりと長いので楽々届いてしまうのです。
「こんにちはー」
ガゼルさんは、思い切って挨拶してみます。
「ん? なになに?」
キリンさんは食事を中断してガゼルさんの方を見下ろしてきました。彼の方が背がずっと高いから見下ろされているのだけれど、その瞳は草原のような柔らかな色でとても穏やかで親しみが持てたので怖いとも思わなかったし、嫌な気持ちにもなりませんでした。
キリンさんはまだもぐもぐと口を動かしていましたが、やがてそれをごくんと飲み込んでから問いかけました。
「えっと、ガゼルさん? どなた?」
「初めまして~。オレ、みすみだよ~」
「初めまして! オレ、一成」
「かずだね」
「すみーだね」
キリンさんは長い首をゆっくりと下げてお辞儀をし、顔が近くに来たのでガゼルさんはその鼻づらに軽く顔を摺り寄せ挨拶。キリンさんも同じようにして互いに顔を見合わせ微笑み合いました。
「かず、それおいしそうだね」
「うん、最近ずっと天気が続いたからね。すごく美味しいよ」
食べてみる?とキリンさんは再び木のてっぺん近くに伸びあがり、肉厚な葉っぱを長い舌で器用に巻き取って引き抜くと、ガゼルさんに差し出したので、嬉しくなりました。
ありがとう、とそれにかぶりつくと、勢い余ってキスしてしまい、互いに照れ臭そうに笑うのでした。
「キリンさんはすごいなぁ。とっても大きくて背が高くて、こんなに美味しいものを見付けちゃうんだね」
「オレも知ってるよ。すみーって、めっちゃ脚が速くて、ジャンプ力あるよね。ぴょーんって跳ねてるの見たことあるもん」
「ええー、オレのこと知ってたの?」
キリンさんは少し考える素振りをして、そして「うん」と頷きます。
「オレ、遠くまで良く見えるからね。そのカッコイイ三角形の耳飾りとか首飾り、見覚えあるもん」
確かにガゼルさんは左耳には金色で三角形のイヤカフ、そして三角形が三つ重なった金色のペンダントをさげていました。
「ありがとう~。これもこれも、お気に入りなんだぁ」
ガゼルさんはお気に入りを褒めてもらえて嬉しくなり、ふとキリンさんが黒いお洒落なハットをかぶっているのに気が付いて、目を輝かせました。
「そのぼうし、かっこいい~! さんかく~!」
「すみーはさんかくが好きなの?」
うん、と返すと、キリンさんは前脚の蹄で地面を蹴りつつ提案しました。
「じゃあ、行こうよ」
「どこへ?」
キリンさんは首をぐるりとお日様とは反対の方角へ向けて言います。
その首には彼の瞳の色を水で薄めたみたいなキラキラした透明な宝石の首飾りが揺れていました。
「確か、あっちにさんかくがあったよ」
「ほんと? 行く!」
じゃあ行こう、とキリンさんは長い脚を踏み出して歩き出します。
すぐ行こう、とガゼルさんもぴょんぴょん跳ねて着いていきます。
オレはキリンさんみたいには出来ない、とガゼルさんは言います。
オレはガゼルさんみたいなの出来ない、とキリンさんは言います。
でも、二頭とも互いの歩幅の様子を見て合わせて移動していったので、はぐれることはありませんでした。
ガゼルさんがキリンさんを見詰める瞳も、キリンさんがガゼルさんを見詰める瞳も、とても優しい色なのでした。
だから、お互いがとても好きになりました。