「ありがとうございます。食事と宿の礼をしたいのですが……」
最後のひと口を飲み込んだジャックがそう言うと、イライは笑みを深くした。
「お願いがあるんだ」
まるで、最初から決まっていた事のように、断られないと知っているかのように、イライは願いを口にした。
「歌を歌ってほしい」
その言葉に、ジャックは一度瞬いて、「そんなことでいいんですか?」と聞いた。あまりに些細で、一宿一飯の対価としては安すぎるような気がした。いくらかの貨幣も、小さな装飾品も、ナイフの一本もジャックの手元にはあった。ジャックはそれらを提示したが、イライは首を振った。
「歌を、歌ってほしい」
もう一度、一言ずつ区切るようにことさらゆっくりと言葉にしたイライは、寝台に腰かけてじっとジャックを見つめた。これ以上を望む気はないと、無言で訴えていた。
ジャックは一度深呼吸をして、耳慣れた童謡を口ずさんだ。ジャックの故郷なら、誰でも歌えるような簡単な歌だ。イライは、ジャックの歌う言葉よりも、その旋律と音の響きに耳を傾けているようだった。まるで、初めて音楽に触れたかのように。