ここはたいこく園。真っ白い園舎では今日も子供達の元気な声が響いている。
たいこく園には人気を二分する二人の先生がいた。ゆり組の阿選先生とぼたん組の驍宗先生だ。
ゆり組はどちらかといえばおっとりとした真面目な子が多いが、ともすれば消極的になってしまいがちだ。しかし担任である阿選は彼らひとりひとりのペースをみながらゆっくり丁寧に教えてあげるため、
一方、ぼたん組はとにかく元気者揃いだ。有り余るエネルギーにひと癖もふた癖もあるぼたん組の子供を持て余す先生も多いのだが、彼らは驍宗が「こい!」と呼ぶと子犬のように喜び勇んで走っていくのだ。
友尚は園バスから降りると走ってゆり組の部屋に向かう。あまりに急ぐものだから、靴は下駄箱から飛び出しているし上着はハンガーから半分ずり落ち、園バッグは適当にその辺りに置かれている。
そんな友尚に後ろから追いついてきた恵棟が注意するが友尚はそれらを聞き流しながらきょろきょろと部屋を見回している。
恵棟はそんな友尚に呆れ、文句を言いながらも彼の後始末をして回る。
友尚が探していたのは阿選だった。
どこにいるのだろう。友尚は阿選の笑顔を頭に浮かべながら走り出した。
部屋にはいない。廊下に出てみたがそこにもおらず、職員室も覗いてみたがその姿は見当たらない。ホールにもいない。ではこちらだろうかと園庭を窓越しに見やると、遠くに見慣れた阿選の後ろ姿を見つけ、友尚は窓を開けて「せんせー!」と声をかけようとした。
しかし、阿選は一人ではなかった。遠目だが、もう一人誰かがいてその誰かと二人きりで何かをしているのだ。なんだか胸がぎゅっと痛み、友尚は上履きのまま窓からひらりと園庭に降りて阿選の方へと駆け出した。
帰泉は足にぐっと力を入れ前を睨んでいた。園庭の隅…そこには鉄棒が鎮座している。
運動会の障害物リレーの中で鉄棒に取り組むことになりクラス全体で練習を始めたのは先月のこと。
最初はできない者も多かったが、練習を重ねるうちに一人、また一人とできる者が増えてくる。
それでも当然のことながらその流れに取りこぼだってされる者もいて、帰泉もその中の一人だった。
焦って毎日一生懸命練習するものの、一足飛びには上達しない。他の組との合同練習が始まると、できないということはそれだけリレーの足を引っ張ってしまうことになる。
昨日の練習では見かねた他の組の先生から「無理に回らなくても下をくぐればクリアにしてもいいわよ。」と
まで言われてしまった。このままでは皆に追いつく機会すら失ってしまう。
帰泉は今日も登園してすぐ鉄棒の前に立ち手を伸ばしたが、皆が軽々と回っているその遊具がまるで大きく立ちはだかるように帰泉の前にそびえ立つ。
恐る恐る両の手でそれを掴み大地を蹴る。しかし体は思うように持ち上がらず無理に回ろうとしたところで手が滑りべしゃりと下に落ちてしまう。
「う………なんで…?」
痛みと情けなさがぐるぐると全身を駆け巡り、とうとう我慢していた涙がぼろぼろとあふれ出す。
「どうした?」
そんな帰泉の後ろから優しげな声がかかる。帰泉はばっと後ろを振り返った。
「あ…あしぇんせんせいっ…」
「今日も練習していたのか。ケガはしていないか?見せてみなさい。」
阿選は自分の意思では涙を留めることのできなくなっていた帰泉のズボンを捲りあげケガの確認をする。
擦れて赤くはなっているが血は出ていない。阿選はそこを撫でさすりながら「痛かっただろう」と帰泉の額に自分の額をコツンと当てた。
帰泉はぶんぶんと頭を振る。
「焦るのはわかるがあまり無茶はするな。」
「はい…でもっもうみんなできてるのにぼ…ぼくだけっ…」
「そうだな。焦るなというのは無理な話だ。だが見えないところでケガをしてしまっては私が心配になってしまうのだ。練習は私と一緒にやろう。」
そう言ってくれた阿選のやわらかな笑みがあまりに眩しくて、帰泉は一瞬痛みも焦りも全て忘れてしまったような気がした。
それから阿選は帰泉の体を支え励ましながら何度も辛抱強くその練習につき合った。
それでもなかなか成功しなかったが、阿選が「さっきよりずっとよくなっている。その調子だ。」と言ってくれるだけでなんだか力が湧いてくるような気がして帰泉は諦めずに何度も挑戦し続けた。
繰り返し繰り返し大地を蹴る。
「今だ」阿選の声が聞こえた。その合図に合わせて体にぐっと力を入れる。ふわりと不思議と体が軽くなったような気がした。
気づいた時には帰泉の足は地面に再びついていた。何が起きたのか理解できないでいると、阿選が「よくやった。」と頭を撫でる。ぽかんとしながらその言葉の意味を考えた。
ようやく理解が追いつくと今度はじわじわと喜びが湧き上がってくる。そんな帰泉を阿選は微笑みながら見守った。
「さあそろそろ部屋に戻りなさい。」
そう言うと帰泉は「はい!!」と返事をして駆け出した。
⑤それに続き阿選も戻ろうかと立ち上がると、後ろから阿選の足に縋り付くように掴まれる感触がした。
後ろを振り向くと、鼻をぐずぐずさせた友尚がそこにいた。
「そんなに強く掴んでは歩けないぞ。何かあったのか?」
阿選は友尚と視線を合わせるようにしゃがみこんだ。
顔をあげた友尚は挑むように阿選を見つめる。
「せんせいはおれ達の中で誰が一番すきなんですか?おれより…きせんの方がかわいいんでずがっ!?」
その言葉に思わず阿選は笑みをこぼしてしまう。
「わらわないでくだざいっ!」
「すまなかった」と謝るが、それでもこの真っ直ぐな気質の友尚がヤキモチを焼いていたのだと思うと可愛らしいという思いが先に立ってしまう。
「ほら友尚、機嫌をなおせ。」
赤くなった友尚の鼻先を阿選はちょんとつまむ。
友尚は頬をふくらませ「せんせいがおれのこと一番だって言ってくれたらなおります。」などと言うものだから阿選は苦笑した。
「ガキだな。」
そんなやりとりをしていた後ろから馬鹿にしたような声がかかる。とても園児とは思えないほどの迫力のあるその少年は成行だ。自由遊びの時間も終わるのになかなか戻ってこない阿選を探しに来て二人の会話を耳にしてしまったのだ。
「そんなことを聞いたらせんせいが困るのがわからないのかおまえは。」
「うるさい。せいこうには関係ないだろ。これはおれとせんせいの問題なんだからな!」
ふん、と成行は鼻を鳴らした。
「」「」
「やめないか二人とも。」
今にも殴り合いのケンカを始めそうな二人の首の後ろを阿選が引っ掴んで止める。
注意後「ほら、二人ともおいで」で手を広げる阿選の元へ二人は睨み合いつつも飛びこんだ。
次回に
ゆり組:阿選先生
大人しい子が多い。
支援はひとりひとりのペースをみながらゆっくり丁寧にしてあげるので保護者から人気
ぼたん組:驍宗先生
やんちゃな子が多い。全力で子供と遊んであげるので遊び時間には子供たちが突撃してそれを腕似ぶら下げて持ち上げてあげたりぐるぐる回してあげ子供は大はしゃぎするが、後から阿選先生に注意されること多し
正頼先生
定年後再雇用のサポートの先生。子供たちが悪戯をしかけてもすぐに見破るので、先生をやっつけたい子供たちが毎回戦いをしかけている
②日常の様子
ゆり組
乱暴でルールを破る烏衡くんとそれが嫌で注意する恵棟くん。
烏衡くん:問題児。阿選先生を「あんた」呼び
「あんたがごほうびくれるならやってやってもいいぜ」
恵棟くん:優等生。ルールをきちんと守らない奴、乱暴ですぐ力に訴える奴が嫌い
ぼたん組
ガキ大将英章くんが臥信くんを伴い手下を引き連れて正頼先生に悪戯をしかけに行ってやりこめられている
園庭では驍宗先生が飛びかかってくる子供達を芝生の上に投げて遊んでいる
帰泉くんの父親品堅さん
お迎えの際、帰泉くんが皆より発達が遅れぎみなのを心配
阿「確かに人よりゆっくりかもしれないけれど、ちゃんと本人なりのペースで確実に成長していますよ。それに、努力を厭わなくて素直で思いやりがある。これは得難い資質です。」
帰泉くんを抱きしめ仲良く親子で帰る後ろ姿
⑦職員室の阿選先生と驍宗先生のやりとり
⑧エピローグ
カット
Latest / 00:00
カットモードOFF
文字サイズ
向き
チャットコメント通知
たいこくえんのあせん先生
初公開日:
最終更新日:
ブックマーク
スキ!
コメント
ただいつもやるような書く過程をお試しでたれ流すやつです