始まりは、あの日の夜だった。
収容所が全ての始まりだった様に思う。その前からもしかしたら始まっていたかもしれないが、ただ二人生き残った者同士だったから。崩壊も、この関係も、何もかもが知らないところで始まり進んで取り返しがつかなくなっていたのかもしれない。
「うあ、……っ、く……やめ、……!」
深夜だった。今までの粗末なベッドから一転して、ふかふか、とまではいかないがかなり寝心地の良いベッド。大人数のいる部屋ではなく、与えられたのは捕虜にしてはかなり優遇されたと言える部屋、環境だった。ヴォルチョクもイオノフも横になると早々に眠っていたから、こんな深夜に声を漏らすのは自分でなければただ一人。
そうっと体を動かし横向きに変えると、やはり声の正体はニコライだった。こちらに背を向けて眠っているから、その表情を知ることは出来ない。どこまでも続く薄闇、僅かな明かりが差し込む部屋の中。ベッドの上で毛布を首元まで被り、丸まって小刻みに震えていた。尤も――本当にほんの少しの明かりの中で見た姿だから、震えているのかは確かでない。
「……おい、大丈夫か?」
手で触れてみると、その体はやはりと言うか震えていた。見間違えでなくガクガクと、寒さに凍える者の震えとは少し違う、不器用で壊れた機械の様な震えだった。
「っ、やめ、嫌だ触るな!」
肩に添えた手を勢いよく振り払われ、その勢いで被っていた毛布がバサりと体から離れ、足元に。何かと勘違いしているのだろうか? 聞こえる呼吸の音は忙しなく、呻き声からは怯えが感じ取れた。
「嫌だ、誰だ? おまえは、俺に何をしたいんだ。何が望みだ、何が」
言葉の端々から怯えた恐怖が。それから少しの困惑とも取れる何かがこぼれ落ちて、吐き出された言葉を装飾する。自分たちの知らないどこかで何かを見てきたのだろう。何かをされて、こうなったと考えるのが一番妥当だ。