オーバーフロー
ダンキバです。皆のヒーロー×メンヘラと見せかけて、メンヘラ×お前だけのヒーロー、という建て付けです。セフレ的関係。思い切り過去捏造してます。※素敵な表紙はフォロワー様に作成頂きました。ありがとうございます。
※注意
ダンデは前作以前の主人公的なポジションである、という解釈に基づき、ダンデの過去を大幅に捏造しております。
剣盾(DLコンテンツ含)及びポケモンシリーズは既プレイですが、世界観の説明として不適切な箇所が多分に該当する恐れがあります。
なんでもいいよ、という方だけお進みください。
仕立ての良いシーツへ押し倒し、欲望の海は底が知れない。彼の瞳は蜜のようにドロリと溶けて、甘くオレに依存している。わざと男に媚びる姿で肩に腕を回し、キスを強請ってみせる。まるで手慣れたふうを装って、オレのことしか知らないくせに。
「我慢できない」
オレは横目で小さなカプセルに収納された相棒たちをちらと確認した。オレの中に居座る正義感の強い男を、なんとか黙らせておかねばならなかった。なるべく本能のまま、獣のように彼を抱くことが求められている。理性を知らない畜生になって、オマエを愛さなければならない。オレとオマエの立場や過去、関係値など忘れたふりをする。すべては己の肉欲が侵し、オマエの熱い衝動に繋がれる。できるだけ奥が良い。ぴったりと嵌まって、抜け出せない泥沼。
「んん…、ほら、すげえ」
キバナは仰々しく股を広げた。自分の膝を胸のあたりまで抱え込み、みっともなく潰れたカエルのようなポーズを見せる。
言葉に誘われるまま視線を遣ると、その非現実的な猥褻さにゾッとした。オレの赤黒い陰茎が、どういうわけか奴の尻穴に挿し込まれている。排泄孔はだらしなく縦に伸び、異物を受け入れることを是としていた。あまりにもオレがじろじろ見つめるからだろう、恥ずかし気に彼が腰を揺すると反動で奥がキュウと締まった。
「無理するな」
「してねエよ」
もちろん、キバナがオレとのセックスにどれだけの準備と下拵えをしてくれているかを理解している。お互い、今晩突然会いたいなんて言って逢瀬を重ねられるような職種じゃない。何日も前から連絡を取り合って、その日に一番の出来栄えの自分を持っていく。首元に顔を埋めると仄かに香る、爽やかな香水のトップノートが示唆している。
愛しているか、と問われればたぶん答えはyesだ。ただ、それが行儀の良いポケモンたちを誉めそやす愛情と何が違うのかわからなかった。モンスターボールに入らない分、彼のほうが厄介なくらいだった。
「ゆっくり、しような」
うん…、と彼は殊勝な態度で頷く。逸る気持ちを抑え、焦らすように肉の道を刮ぐ。先端が隘路を掻き分けて進む感覚を、キバナも身悶えて愉しんでいる。活動的な褐色肌は熟れたフルーツのように艶やかで、熱い汗を流す。数ヶ月に一度、名前のない交歓。いつでも離れられるようにすればするほど、深みに嵌まって行っている。
「あ……ああ、ん、ふう…」
噛み付くように唇を奪う。静寂が怖いから、淫靡な効果音で誤魔化す。どうしようもなく淫らで、情けない男を演じていれば、本心までは隠し通せるつもりで居た。より粘着質に、より執拗に、キバナを求めてみる。彼はいつでも、同じだけの情熱を返してくる。絡めた舌と唾液のやりとりが、行き場を無くして口の端から溢れる。彼のまけずぎらいの特性がこんなところでも発現するのが可笑しかった。
「う……」
翡翠の瞳が苦しそうに歪む。抑え込むように更に奥深くまで舌を差し込むと、背中に回った手のひらが抗議を訴える。キバナの手持ちを表すかのように、ドラゴンのような大きな手に長い指。恵まれた逞しい体躯が、オレなんかに組み伏せられて、あられもない恥部を晒す。いざとなれば、オレを押し退けることなど造作もないはず。それでも、彼はこの対位を良しとする。誰かに敗けることを厭い、自分の思い通りにならないと不機嫌になる男が。オレは、オレだけは、とくべつ。
たとえば、オレとオマエの関係性に"恋人"と名付けることが正しいのかは分からなかった。世間で謳われる、それの定義とは余りにも掛け離れている。オレたちは愛を囁かないし、永遠を誓わない。同じ家に住んでいるわけではないし、彼がこの部屋に通うことを強要した覚えはない。もしもオマエがオレとは違う人間に身体を許しても、愛していると告げたとしても、オマエを叱る権利は無い。それどころか、キチンと嫉妬してやる自信も無い。おそらくオレが告げなければ、彼のほうから別れを切り出されることは無いだろうと勝手に自負しているだけで。
「はあ…、あ、クソ、」
「痛いか?」
「止めないクセに……、う、はア、ア、あ、」
友人? いや、それだけではない。家族? 違う。仇敵? もはや、オレはオマエを憎んですらいる。
キバナの熱い肉体が、身震いするように慄いた。彼の限界が近いのだと経験上察知する。オレの陰茎が硬い蕾にギュウと絞られる。肩の力が抜けそうになるのを既の所で押し留め、正常位を維持する。まるで百年愛し合った恋仲のように、美しく睦み合う。オレの情欲が炎となって、彼の肉叢を侵していった。
「あ……ッ、あ、ああ、!」
答えを求めないのは、頓にオマエが問わないから。オマエの瞳には、オレのことしか映っていないのに。オマエはオレを欲さない。常にオレのことだけを見て、オレのことだけを考えている。キバナにとって、他のすべての事象はオレというフィルターを通した色合いに過ぎず、何もかもがオレのものだ。されども彼の艶やかな赤い唇は、決してオレの名を呼ばなかった。
「イイだろ?」
「さ、いこう、だ」
オレがオマエに与えるものすべて、快楽なんだろう。言葉も行為も過去も未来も。あらゆるすべてがオレのものなんだろう? ただそれだけを確信している。
「あ、ァ、い、イく…---ッ」
「……オレも、」
彼の蒼天から涙が弾ける。オレの首元に縋り付き、女のような甲高い声をあげる。普段は何かにつけてぎゃあぎゃあと構ってくるが、こういう時だけは殊勝なのが良かった。オレは彼の鼻先に軽いリップ音を落とすと、我が物顔で彼の奥へ射精した。本来ならば誰かに遺すべき精子が、容易く無駄に消えていく。彼の中へ。
「ああ……」
彼が感嘆ともつかぬ溜息を吐く時、ふと双眸が哀れみに歪む。駄々を捏ねる子どもを宥めるような、憐憫と困惑の表情。オマエが見つめるその男は、一体どんな顔をしているのか。途端、オレとオマエに纏わりつく粘液がひどく汚らわしいものに感じた。
オレたちは、こんなことをしなくとも良かった。ずっと、ずっと昔、オレにはオマエのすべてが分かった。オマエがオレの一番の理解者であったのと同じように。肌も声も要らなかった。オレがオマエを求めるなら、オマエもオレを求めて手を伸ばしていた。
たぶん、オレたちが決定的に変わってしまったのは、オレがオマエに敗けなくなってしまったから。
ちょうど十になる年、オレはハロンへやってきた。トラックの荷台から身を乗り出して、穏やかな町並みをぼんやり眺めていたことを思い出す。ぐもぐも鳴くウールーと青く抜けた空を舞うココガラ。前に住んでいた町と比べると随分牧歌的で片田舎な地方ではあったが、オレの少年心を湧かせるには十分の土地であった。
ワンパチを抱く少女に連れられて、オレは博士から三匹のポケモンを紹介された。十になると、子どもはみんなポケモンを貰って、この世界を旅するのよ。ポケモンマスターを目指すのだって、ブリーダーやコンテストマスターを望むのだって、ぜんぶ子どもの自由なの。あなたの未来は、あなただけの旅で探せばいい。母親が言って聞かせた夢のような道程は、まさにこの町から始まるのだと胸を躍らせた。
「ヒトカゲ、きみに決めた!」
幼いヒトカゲは、その大きな瞳でオレをしっかり見返して、それから嬉しそうに擦り寄った。首筋をがぶがぶと噛み付かれて、正直かなり痛かったけど、オレの生涯のパートナーはこいつしか居ないと思った。小さな弟を抱いた母親の影がどんどん小さくなっていく。まるきり見えなくなるまで手を振って、そしてブラッシータウンまで走り出した。あの日の燦々と照る太陽の輝きを、オレは忘れることはないだろう。
「最近、ジムバッジ集めて回ってんのって、オマエ?」
「そうだけど。それが?」
「てことは、チャンピオン目指してるんだよな?」
特徴的なオレンジ色のヘアバンドを目深に被り、今思えばあいつはかなり怪しい少年だった。両手に抱えているナックラーがかなり彼に懐いているようだったから、悪いヤツだとは思わなかっただけで。
オレがポケモンリーグを制覇する前、ポケモンジムは今のようにスタジアム制度にはなっていなかった。流石にチャンピオンとのバトルはテレビで大々的に報道されてはいたように思うが、各地で転々とバッジを集める少年少女たちまでは特集されていない。つまり、オレのことを知っているということは、同時に彼もジムバッジを集めているというわけだ。ならば、オレたちがやることは一つ。目と目が合ったら…
「勝負!」
「受けて立つ!」
エンジンシティのはずれで、オレたちは思い切り技をぶつけ合った。リザード、ひのこ、でんこうせっか! ナックラー、すなあらし、躱してあなをほる! 砂嵐がごうごうと吹き荒れる中、彼の吊り上がった瞳と目が合う。好戦的な微笑みで、来いよ、と口パクで煽られた。いいぜ、そっちがその気なら全身全霊で相手をしてやる。
そして、オレたちはちょうど同時に理解した。ポケモンマスターを目指す者なら、誰でも知っている都市伝説。チャンピオンになるためには、お互いの力を高め合うライバルが必要--。運も実力も拮抗していて、同じ志を目指す者。それでいて時には共に悪に立ち向かう正義の徒。オレたちは、互いが互いにとってその存在なのだとスグに確信した。
「リザード、ほのおのキバ………、いや! かえんほうしゃ!」
リザードはちらりとオレのほうを見て、不敵に笑った。まだ一度も試したことのない高レベルの技だと知っていた。それでも、今なら! 最高のライバルと出逢った今なら、オレは、オレたちはもっともっと最高になれる。
砂嵐が止む。オレとリザードはまっすぐ前を向いている。丸見えだ、きゅうしょに当たった!
「悔しい、負けたっ」
ナックラーと同じタイミングで尻餅をついた少年は、先程のギラギラした様子とは打って変わって気の抜けた笑顔を見せた。頬を緩ませヘニャリと笑う。肩透かしを食らった気分で、オレもつられて似たような顔になった。こういう、こざっぱりした部分もオレのライバルとして相応しく思えた。
「いやー、すばらしい試合でした!」
そうだ。そういえば、ローズ委員長がオレに目を掛けたのもキバナとのバトルがきっかけだった。
互いに認め合ったオレとキバナは、すれ違う度にモンスターボールを向け合う仲になった。しかし、バトルが終われば二人で町へ繰り出し食事を摂り、一緒に野宿をすることもあった。話は専ら愛すべきポケモンたちのことであったが、対峙している時以外は普通の友人同士のように、包み隠さず接するのが暗黙の了解であった。
キバナは勝負の時を除いて、思いのほか温厚で朗らかな少年であった。また、新しい物好きで軟派な一面もあった。流行っているからとヒウンアイスの出店に一時間も並ばされ、驚いたのを覚えている。彼の隣でビブラーバがそれはそれは嫌そうにしていた。四倍だしな。
彼の生まれ故郷であるというナックルシティは、煉瓦造りの城壁が趣深い古都であった。暮らす人々もハロンとはまた違った穏やかさと余裕があり、キバナが時折みせる気品や育ちの良さの源泉を垣間見た気がする。アラベスクやスパイクといった印象的な街を立て続けに見てきたからか、俺はひどくこの街が気に入った。
「最後のバッジだな」
「ああ」
「次会う時は、オレさまがチャンピオンだ」
ポケモンセンターの前で、少年の声は掠れていた。オレよりも早い成長期が、彼の声帯と身長をおとなに変えていた。肉体の成長に伴い、彼は知らない表情をしていた。ガラルの空色と同じ爽やかな蒼は、挑戦的な科白とは裏腹に、ひどく聡明で冷たく映った。オレはその晩、初めて欲情を覚えた。そしてそれが、オレが最後に他人に敗北した日の夜だった。
オレに勝利したというのに、チャンピオンロードの前の彼はあまり嬉しそうではなかった。子供の素直さで飛び跳ねて喜ぶことをしなかった。彼はもしかしたら、オレとオマエの未来について予期していたのかもしれない。赤と青。太陽と月。剣と盾。主人公とライバル。相反して尚、一対となるつがい。そういう純粋な関係性では居られなくなるということ。運命や奇跡なんていう、やさしい夢物語の世界では生きられないということ。
だって、オレが思うよりもずっと、オマエは賢くて大人びている。だからオマエはとっくの昔に気付いていたんだろう。これはゲームの世界じゃない。残酷で色褪せた、灰色の現実なんだ。友情と絆ではない。富と忍耐なのだろう、必要なのは。実力でも運でもない。オレは大きな力の上に生かされていて、体良く踊らされている。その中でどれだけ綺麗に舞い続けられるか、それだけなんだろう。オマエはそれを分かっていて、オレの唇に口付けた。そうすれば、目の眩むような輝かしい虚構など諦めることができるから。
「難しいコト、考えてんな?」
情事の後のピロートークには耳を貸さず、さっさとバスルームへ向かってしまったキバナは、戻ってくるなりオレを嗤った。鍛え抜かれた肉体に下着だけを履いて、サイコソーダ割りのカクテルに口を付けている。周囲を舞っているスマホロトムに向ける自撮りも忘れない。濡れた髪が前に降りていて、少し珍しい姿だ。
「オマエは、オレがチャンプじゃなくなったら、どうする?」
「おぉ? つまり、オレさまがチャンピオンになるってことか」
オレが寝転がるベッドの上に腰掛けて、彼は陽気に笑った。せっかくオレと居るというのに手元の端末ばかり眺めるものだから、オレはわざと乱暴にその肩を引き寄せる。んん、とやはり気の抜けた声で、カメラのレンズを向けてくる彼をシッシと手で追い払ったりして。
「誰かに敗けるオレなんて、キバナは興味無くなるんだろうな」
「なーんだそれ。どういうモードだよ?」
「いや。オレ、なんでオマエとセックスしてるんだろうって」
彼はようやく画面から顔を上げて、オレのほうをまじまじと見つめた。あれからオレたちは怠惰に時を経て、つまらない大人に変わっていった。あんなにも容易く口に出せたはずの大切な言葉たちが、こうして身体を繋げなければ伝えられなくなっている。本当は、オレとオマエで顔を突き合わせ、こんなことに精を出す必要なんてないんだろう。キバナは身体の奥まで曝け出し、汚いのも恥ずかしいのも見せ付けて、オレに潔白を証明する。オレはそれを入念に確かめて、密やかに安心している。空虚だ。オレたちは何も解決できていない。
「んん、なんだ」
キバナは身を乗り出して、触れるだけのキスをした。その垂れた瞳を瞬かせて、角度を変えて数度啄む。触れ合う唇の隙間から、甘いアルコールが舌へ伝う。濡れた後ろ髪を梳くと、彼は気持ちよさそうに身悶えた。ポケモンのような男だ。
確かに、出会った頃と較べるとヘンな色気を纏うようになった。オレがこうしてしつこく抱いているからか。それ以外、理由があったら困るのだが。
「そうだな、…」
キバナは何か言いかけて、それから、んー、とか、あー、とか、ウリムーのような鳴き声を上げて眉を顰める。今更体良く誤魔化すのも恥ずかしく、オレは男の返答を待った。オレの内情はともかく、彼が何を思ってオレに抱かれるのか、いつまで続けていくつもりなのか、気にならないわけではなかったし。
「一回、オレさまが抱いてみるか?」
「……本気か」
口元の戯れを辞めて、キバナはオレの首元に吸い付いた。オレと同じシャンプーの匂いを吸い込む。先程の情事のまま放ったらかしにされている下腹部に、彼はいやらしい手つきで手を伸ばした。
「でも無理だな。オレ、ネコだし」
ギョッとして彼の表情を仰ぎ見ると、悪戯っぽく笑っている。オレの身体に乗っかって、情けなく興奮し始めているオレの本能を茶化した。キバナはそう言って、オレの陰茎を擦り上げる。大きな体躯を折り曲げてごつごつとした男の手のひらで奉仕している。下着越しの自分のペニスと兜合わせにするようにして