この物語は実在の人物、地名、名称、団体とは一切関係がありません。
昔あるところにとても強いお武家様がいた。馬から乗り手を引き下ろし、首を素手でねじ切って見せるほどの凄まじい豪傑だったという。
お武家様はある日、その地を治める大名様から姫様を嫁に取ることとなった。その姫様は天女かと見紛うほどに美しく、器量よしで賢いと評判の石姫様だったのだ。
お武家様と石姫様二人仲睦まじく暮らしたという。
◆
放課後の部室。
夕陽に染まる中、二つの影が本を開いている。その脇には積み上げられた本の山。入り口には、
——明務歴史伝承研究会。
そう書かれた紙がペタリと貼り付けられているのみだ。
傾いた太陽に照らされて部屋は一層赤らんでいく。まるで燃えるような様相が僕を焦がした。
僕は逆光をいいことに目の前の女性の顔を盗み見る。長い黒髪、きりりとした眉、切れ長の目に、高くすらりとした鼻筋、唇は薄く、全体的にほっそりとした顔だちはどこか知的な魅力を感じてしまう。銀縁のメガネを直す仕草や垂れてきた髪の毛を耳へとかき上げる仕草にエロティシズムがあるように思え、胸の何かがうずいて仕方がない。
この先輩さえいなければこんなところで本を読むなんてこともなかっただろうに。僕はこの魔女のような先輩が少し苦手だ。
先輩は何かに気付いて顔を上げこちらへと笑いかけてくる。
「どうしたの。そんな熱心に私を見て」