BGM
 社会人生活ウン年目。夕暮れ時の高所にて、フェンスにもたれかかってほろ酔い片手に叫ぶOLこと私であった。
「だぁぁああ〜。本当もうムリ。しぬ。人生なんてクソったれだーーーい!!」
「おい……やめなって。駅員さんに警察呼ばれるよ」
 隣の眼鏡OLが賢しげに呆れてる。すかしやがって。自分だって角ハイボールの缶持ってるくせに。大人ぶったお酒飲んでるのがこの酔っぱらいの鼻につく。鈍った嗅覚でもツンツン来る。
「ふん、いいねぇ、同棲したてのカップルは。心の余裕があるっていうか? 嫌なことあっても家に帰れば癒してくれる人がいるもんね」
「ひがむなよ、みっともない。ていうかそんないいもんじゃないって。もう何年付き合ってると思ってんの。デカい子供を養ってるようなもんだよ」
「ふーん」
 その割には、毎日楽しそうだけど。フルリモートの彼氏の手作り弁当、SNSに上げるのが日課のくせに。これ以上突っ込まれることを避けたのか、眼鏡が本題に切り込んでくる。
「それで? 今日は何、誰に嫌なこと言われたの。また上司?」
「おつぼね」
「ああ、あんた嫌われてそうだもねぇ……」
 うるさいな。自分に正直に生きてるだけだ。
「ああやだやだ、明日会社行きたくない。何も思い出したくない、考えたくない。このまま電車を眺めてお酒飲んで老人になるまで待ちたい」
「浮浪者極まりないな。忍耐強すぎだろ」
「どうやったらおつぼねを暗殺できる? 盗撮? 粘着アンチ?」
「発想が終わってるわ……本当にやめときな? 最近はそんなのすぐ開示請求されちゃうよ?」
「だったらどうしようもないじゃない!」
「逆ギレすんなよ……たち悪い」
 ずずずとほろ酔いをすする。自覚はある。こんなの、酔っ払ってるから言えることだ。こうやって吐き出さないと生きてけないのだ。人間は感情を溜め込む風船。飲み込んで飲み込んで、脳みそ破裂してダメになった人たちが、巷のニュースを騒がせることになる。
 そう、人生には発散と楽しみが必要なのである。逆を言えばそれしかない。酒と怠惰と暴食と爆買いしかない。それ以外なんて……それ以外なんて、イケメンと同棲とか、
「ずるい!」
「何が!?」
「もう働きたくない!」
「毎日聞いてるよ……」
「お金だけください! 労働は足りてます!」
「逆なんよ……あんたは労働力提供する側だわ」
「起業してみる?」
「100%失敗するからやめときな?」
「私会社員向いてないのかも」
「会社員としてやってけないやつは、経営者としてはもっとやってけないからね?」
「奢られて生きたい」
「無理だって」
「VTuber」
「それも個人事業主だって」
「刀鍛冶職人に……」
「どうして茨の道を選ぶんだよ……」
「フリーランス良くない?」
「いま以上に営業力で生きてくことになるよ?」
「………………」
 思いつく限りのことごとくを斬り返されて、ついにボキャ貧に陥ってしまった。眼鏡、切れる。切れ味が良すぎた。
「……決めた。明日は通勤電車で降りずに海へ行く」
「遅刻の言い訳考えとけよ〜」
「明日お腹痛くなる予定です、って有給申請する!」
「どんな予約だよ……」
「5人目の祖母の葬式で……」
「2人超えたらライン超えなんだわ」
「リモートワークしようかな?」
「あんたの会社、そんな制度ないだろ」
「退職金っていつもらえるの?」
「退職する時に決まってんだろ……」
 夢も希望もない。というか逃げ道がひとつもない。こうやってグチグチ吐き出すだけ吐き出して、社会人は明日も会社へ向かうのか。薄給、昇給なし、ボーナスもなし。有給使えりゃ生きやすい方。本当、こんなにまでして一体何のために生きてるのか分からなくなる。
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20261103
初公開日: 2026年11月03日
最終更新日: 2026年11月03日
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