いよいよ今年も終りが見えてきましたが、年末から年始に向けて気になる作品がどんどん出るのでどんどん見ていきますよ。
 というわけで今日見てきたのは、「ヘレディタリー/継承」「ミッドサマー」「ボーはおそれている」で観客を恐怖のどん底に叩き落したみんな大好きアリ・アスター監督最新作! なお今回も写真は撮り忘れました。最近写真の撮り忘れが多いなあ。
・あらすじ
 舞台は2020年のアメリカ。ニューメキシコ州の小さな町であるエディントンは、現実世界と同じくコロナ禍によるロックダウンによって住民は閉塞的な空気にうんざりしていました。
 そんな中、現市長であるテッドと保安官であるジョーによるマスクをするしないの言い争いがどんどん過激化。最終的にジョーはテッドに対抗して市長選挙に立候補することに。
 一方でジョーの妻であるルイーズは、カルト宗教の教祖であるヴァーノンの扇動によって陰謀論にハマっていきます。閉塞感で爆発寸前のこのエディントンはどうなってしまうのか。
・ずっとギスギス
 そもそも映画というのは疑似体験を楽しむものです。なので、スクリーンの中の人物がどんな危険にさらされても、観客が味わうのはあくまで擬似的なスリルであり観客の安全は保証されています。
 そのはずなんですが、アリ・アスター作品は疑似体験では済みません。特に「ボーはおそれている」で感じましたが、観客の経験を心のなかから引きずり出して無理やり映画につきあわされるんですよね。だから疑似体験という他人事ではいられない。
 そういう「他人事ではない」という側面から言うと、本作は本ッ当に厭な映画でした。だってこのコロナ禍での閉塞感、マスクを付けるつけないでの言い争い、これを他人事として見られる人なんてこの世界にひとりもいない。なので、本作の中で起きる一連の事件はぜんぶ思い当たるフシばっかりで本当に本当に厭。誰一人他人事ではいられない作品です。
 そしてこの全編にミチミチに満ち満ちたギスギスフィーリングよ。アリ・アスター作品は単に怖いとかグロいとかではなくて常に居心地が悪くて落ち着かない空気感に満ちているのが特徴なんですが、本作はもうなんか上映時間148分ずーーーーーーーーーっと登場人物全員がギスギスギスギスし続けてて、「なんでお金払ってこんなギスギスをずっと見てるんだ……?」と思わずにはいられませんでした。
 だからこそというべきか、ラストでなんもかんもヤケクソになったジョーが銃砲店に入り込んで重機関銃を乱射し始めたときはヘンなカタルシスを覚えて笑ってしまいましたね。なんであんなシロモノが田舎の銃砲店にあるんだよ。あーあやっちゃったって感じ。
・正義の大安売り
 とあるラノベで「悪者の不在は、正義の味方の不在より千倍も万倍も悲しかった」という一文があります。翻って本作では、みんな正義でみんな愚か。無数の正義の大安売りの結果がこのカオスなんですよね。
 マスクをしろ、マスクなんかいらない、ワクチンは陰謀、BLM運動、人種差別を撤廃しろなどなど、それぞれがそれぞれの正義を掲げて大暴れ。これらも紛れもなく正義ではあると思うんですよね。ヴァーノンの掲げる怪しげな新興宗教も需要があるという意味ではまた正義でしょう。
 しかし、正義とは共存できないもの。あっちの正義とこっちの正義がぶつかりあいいがみ合い、そしてその火種はどんどん広がって行きます。もう誰も止めることができない。
 アリ・アスター作品はこれまで、社会を構成する最小の単位と言える「家族」という集団単位にカメラを向けてきました。しかし本作ではそのカメラを徐々に引いていくように、小さな人間関係から「街」という大きな社会単位に問題が波及していくのが印象的でした。そう、これまでのアリ・アスター作品におけるカオスの構造は家族という閉鎖空間が舞台だったのに対し、本作のカオスは「炎上」という形でどんどん広がっていくんですよね。ここはこれまでの作品と比べてとても対照的でした。
 ではこの小さな街で生まれた火種がやがて世界中に広がってしまうかと言うとそうではない。作品冒頭で言われてたデータセンターは当初の計画通り建設され、重症を負ったジョーは不随の体となって、命がけで街を守った英雄として祭り上げられる。
 このエディントンでの大騒動も、結局は世界の片隅で起こった、そして世界中で起こっているであろう騒動とかわらない「日常」として日々に埋もれていってしまう……というか、こうした暴動がもうありふれた日常の一部になってしまう。冷然としたラストだったと思います。
 アリ・アスター作品の感想ではしばしば「最初から負け戦」という言葉を使ってますが、本作は負け戦というかそもそも戦いにすらなっておらず自滅コース一直線だったってことでしょうねこれ。
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TOHOシネマズ梅田「エディントンへようこそ」見てきました!
初公開日: 2025年12月21日
最終更新日: 2025年12月22日
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