紅楼夢新刊レビューもようやく残り3作品となりました。どんどんやっていきましょう。
・有為のおくやま(薬味さらい)
自分の中では東方グルメ系サークルという分類になっているサークルさんの新刊は、錦上京の新キャラである4ボスユイマン・浅間とラスボス磐永阿梨夜、その両者と守矢神社の二柱である諏訪子と神奈子の話。
本サークルさんは東方キャラの中でも特に守谷組を好んで描いている印象ですが、本作では諏訪子と神奈子のそれぞれのスタンスとユイマン、阿梨夜両者の神としての性質がしっかり噛み合っていて話の構造強度の高さを感じます。
本作に限らず薬味さらいさんの作品では、東方世界における神というのは万能無敵の存在などではなく、人間と同じかそれ以上に想い、属性、そして宿業に縛られている不自由な存在として描かれています。
特に諏訪子・神奈子の二柱は「追いやられた神」、つまりは流刑の神々なわけですよね。さらに古代日本の神々であるということは、旧き神であり今を生きる神ではない。
諏訪子は阿梨夜を倒してさらにユイマンを殺すことでもはや失われたクニの神としての座から開放しようとする。いっぽうで神奈子はユイマンを月の民の浄化施設となった浅間山から開放しようとする。今回の話は神が神を救おうとして足掻く話なんですよね。
特に神奈子の「あなたはこの残滓(思い出)に囚われて……!」のセリフは、まさに自身が「残滓(思い出)に囚われて」いたからこその言葉でしょう。瞬間、神奈子の脳裏をよぎる旧き美しき日ノ本の国の姿よ。
しかし、諏訪子と神奈子には「その先」があった。ならば、同じ旧き、忘れらし神であるユイマンにも同じように「その先」「これから」を見てほしいという願いがあったでしょう。
いっぽうでの諏訪子vs阿梨夜の舌戦もよかった。作中で言われている通り「不変の神vs不定の神」の戦いは、「変われなかった神vs変わらざるを得なかった神」のお互いに無い物ねだりをするかのような戦いであると感じました。この噛み合いが見事で……。
通して考えると、本作における神々の戦いは「『変化』ということを巡る戦い」だったと思います。変わること、変わらないこと、変われること、変われないこと。前述した通り本サークルさんの東方世界における神はことさらに万能無敵の存在ではなく、この「変化」の影響を受ける存在として描かれています。本作はその「神と変化」というテーマを端的に表した作品となっていると感じましたね。
また本サークルさんの作品に欠かせないお肉モグモグ要素ですが、諏訪子と神奈子は印象句をしているのに対してユイマンは食べ物飲み物に手を付けていないという描写で、両者のスタンスの違いを見せているのも演出として見事だったと思います。
あと言及しておきたいのが表情。マンガという媒体は言うまでもなくキャラの表情が大きな魅力なんですが、「不変の女神」たる阿梨夜のあの文字通り仮面を剥がれたときの「彼奴がではない、私が彼奴を袖にしたのさ」の表情よ! たまらん。というか諏訪子様の古代日本の神にしかできない日本神話煽りスキルがあまりにも高い。こんな煽りができるのは諏訪子様だけ!
今日はここまで。