視界を覆うほどに雨が降っていた。
天から地へと白い糸が無数に連なって降り注ぎ、それはまるで空と大地を繋いでいるかのようだ。
そしてこれらはまた、打ち消すように、白く塗りつぶすように、私にも容赦なく降り注ぐのであった。
私は杖を放り出し、両手を広げてその雨に身を投じたくなった。雨の温度も、その冷たさも六百年前と変わらない。私は『私』という記憶を持ったまま再びこの地に生まれ落ちたが、それは私自身の負った罪に他ならないのだ。顔に、肩に、容赦なく雨は降り注ぐ。
目的地もなく、ただ放浪していた私の頭上に影が落ちた。降り注いでいた雨が止み、布へと打ちつけるような音が聞こえてくる。見上げると深い青色の傘。広がった銀色の中はじきを過ぎ、手元を辿る。支えるのは大きく無骨な手。そこには男が立っていた。
「……やあ、オクジー君。きみか」
口元を引き上げると、彼は途端に慌てたように後頭部に手を当てた。
「あ! え、ええと……お久しぶりですね……」
ははっと照れくさそうに彼ははにかみ、酷い雨ですね。と眉を下げた。私は傾けられた傘の手元の先に手を当てて、するりと男の無骨な手に指を乗せる。大きな手の甲は彼の純粋さを示すように温かい。私はその手の甲を軽く握り、傘を彼の方へ押しやった。
「こんなことをしては、君が濡れてしまうじゃないか」
一歩彼に近づき、雨粒の染みた肩に手を滑らせる。途端に肩を震わせた彼に、私はクスリと笑みをこぼした。
「え、いや、でも……貴方の方がもっと濡れているじゃないですか」
それに、と彼は私から視線を外して彷徨わせる。ああ、と私は納得の声を上げた。
彼の手ごと手元を引き、まだ遠い彼の顔に手招きをする。
「ああ、シャツが張り付いてしまっているね……少しはしたないところを見せてしまったかな」
「い、いえ! そんな! でも、あの」
はい。と彼は小さく言い、着ていたパーカーを脱いで私の肩に掛けた。六百年前と変わらない匂いが鼻腔を掠めて行く。当時も今も、彼の心は私などよりも、ずいぶんと清らかな所にいるのだろう。瑞々しい若草が雨の刺激を受けて右往左往するのを見つめるのが楽しくて、私は冷えた指先を彼の頬に伸ばそうとする。
が、それは叶わなかった。視線を手元に送ると、無骨というには遠く、華奢というにもどこか足りない。そんな白い手が私の腕を掴んでいた。
「いえ、大いにはしたないですよ。兄上」
「おや、こんなところで出会うとは奇遇だね。最愛の弟よ」