「ない! ない! なーい!」
残暑の頃を過ぎても、まだまだ暑い幻想郷。
夏の象徴とも言えるひまわりたちがお日様に顔を向けている太陽の畑に、大声が響き渡ります。
声の主はエタニティラルバ。アゲハチョウの羽を背中に生やした妖精です。
その羽を忙しなくぱたぱたさせながら、ラルバは太陽の畑の隅っこに掘った自分の巣穴の中をひっかき回していました。
妖精はしばしはいろんなガラクタを自分の巣や家に持ち帰る習性があります。たいていはそのへんで適当に拾ったセミの抜け殻や珍しい石などですが、ラルバが巣穴に溜め込んでいたのはPアイテム。いわゆる赤くて四角くて「P」の文字が書いてあるアレです。
幻想郷の住人たちが弾幕ごっこで激しい撃ち合いを行うとき、その戦場となった場所には濃い霊気や妖気が集まります。そして、そうした霊気や妖気は凝り固まってPアイテムになるのです。弾幕ごっこで負けた相手からはこれらのアイテムが飛び散り、これを取得することで(チルノなんかは直接食べたりしていますが……)力を増強できるという仕組み。
ラルバはこのパワーアップアイテムがお気に入りで、チルノたち妖精仲間と弾幕ごっこをするたびにコレクションしていました。一見ぜんぶ同じ形に見えるPアイテムですが、あるものは角が少し丸かったり、Pの形がそれぞれ少しずつ違っていたりというわずかな違いあります。それがラルバのコレクター魂に火を着け、いまや一説には1024個ものPアイテムをコレクションしているのだとか。でも、ラルバ以外にはその違いがぜんぜんわからないので、あんまり自慢ができないのが残念なところ。
そんなラルバのPアイテムコレクションが、今日の朝起きたら明らかにいくつかなくなっているではありませんか! さあ大変。ラルバはそれに気づいてから今までずっと巣穴の中をひっくり返して大騒ぎしているのです。
「やっぱりいくつかPアイテムがなくなってる! うううー……大切なコレクションなのにぃ……」
頭から生やしたアゲハチョウの幼虫の触覚をしんなりさせながら、ラルバはひっくり返した家財道具の山の上に体を投げ出しました。それでもラルバは、なくなったコレクションの行方を考えます。
ラルバはコレクションをとても大切にしているので、自分の巣穴に招いた人に見せることはあっても巣穴から持ち出すことはしません。だから、どこかで落としてしまったということはないはず。
だとしたら、あとはもう誰かが盗み出したとしか考えられません。しかし、いたずら好きの妖精やことあるごとに風呂敷包みに大量の本を抱えて飛んでいく白黒魔法使いなどなど、こうしたいたずらを働くであろう容疑者は幻想郷じゅうにいるのです。
「うーん……心当たりがありすぎていったい誰の仕業かぜんぜんわからないや……」
しばらくうーんうーんと唸っていたラルバですが、突然飛び起きて巣穴から飛び出しました。
「考えてたってわかんないや! なら、聞き込み調査するしかない!」
太陽の畑周辺にはたくさんの妖精が住んでいます。しかも今は妖精が特に活発になる夏。ならば、目撃者もたくさんいるはずだとラルバは考えたのです。
当面の目的が決まったことで俄然やる気になったラルバ。蝶の羽根を羽ばたかせて、夏真っ盛りの幻想郷の空に羽ばたいていきます。そのあとには、きらきらと光る鱗粉が静かに舞っているのでした。
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「ずーん……」
ラルバが幻想郷の空に羽ばたいていってから数時間後。ラルバは力なくしおしお状態で地に伏していました。
多少考えればわかることだったのです。そもそも妖精はものごとをあまり覚えていないものだということを。それに、今年の夏は残暑が長くまだまだ暑い日が続いているせいか、妖精たちも編にテンションが高く、やたらと踊りまくっていました。そんな状態でまともに話なんか聞けるはずはありません。その結果、暑い中がんばって手当たり次第に飛び回って妖精たちに話を聞こうとしていたラルバが得た成果は、残酷なことにまったくのゼロ。そこには疲労感だけが残ったのでした。
「ううう……ちょっと考えればわかることだったのに……」
ほとほとと泣き濡れるラルバ。しかし、このままなくなってしまったPアイテムをほうっておくことはできません。なんとか情報を得たいところですが……。
「あの、ラルバちゃん? どうしたの……?」
心配そうな声に顔を上げると、そこに立っていたのは緑色の髪をサイドテールにした妖精の子、大ちゃんこと大妖精でした。大妖精はいたずら好きな妖精の中でも落ち着いた性格。他の妖精たちが妙にハイテンションになっている中でも、おかしな様子は見受けられません。
大ちゃんならまともに話を聞いてくれそうだし、なにか知っているかも! そう思ったラルバは、大ちゃんに事情を話してみることにしました。
「実は大ちゃん、こういうことがあって……」
「ええっ、コレクションがなくなっちゃったの?」
「うん。外に持ち出したりはしてないから、たぶん誰かが、昨日の夜のあいだに盗みに入ったんだと思うんだ。なにか怪しい人影を見たりしなかった?」
「うーん……確証はないんだけど……」
「なにか知ってるの!?」
「え、ええと、確かに今日の明け方に霧の湖の方を飛んでた人影を見たんだよ。誰かは遠くてよくわからなかったけど……」
「霧の湖か……」
霧の湖と言えばチルノ。しかし、では犯人がチルノかというとそれはないとラルバは思いました。たしかにチルノはいたずら好きですが、そのいたずらはもっと考えなしというか無邪気というか、相手の反応を見て楽しむものです。「相手が気づかないうちに盗みに入る」というのはチルノが好むタイプのいたずらではありません。なによりチルノはそんな早い時間に起きているはずはなく、いつもなら氷で作った自分の家でぐーすか寝ているでしょう。
じゃあ誰が?と考えると……特に心当たりはありません。盗みと言えば魔理沙ですが、白黒魔法使いの専門は紅魔館であり、ラルバが持っているPアイテムに興味を示すとも思えません。
「「うーん……」」
ラルバと大妖精はそろって首を傾げて考えましたが、その人影の正体に当てはまりそうな人物は思い浮かびません。
「よし! 考えてても仕方ないや! ありがと大ちゃん、とりあえず霧の湖に行ってみるよ!」
「気をつけてね。今日も暑いし、なんだか森のほうとかが騒がしいみたいだし……」
「ううう……大ちゃんはやさしいなあ……」
妖精らしからぬ大妖精の気遣いに涙しながら、ラルバは今度は霧の湖を目指して飛んでいくのでした。
しばらく飛んでいるうちに、いつものように白くけぶった霧の湖が見えてきました。この厳しい残暑の中でも霧の湖の空気はひんやりしていて心地よく、ラルバはしばらく疲れた羽を休めました。
「んんー……この辺で見かけたって子がたんだよなぁ」
暑さから回復したラルバは、霧の湖の周りを空からぐるりと一望してみました。しかし、太陽の畑と同じく、妖精たちがハイテンションで騒いでいる以外には怪しい人影は見当たりません。
「お? ラルバじゃん。こんなところでなにしてんの?」
「あ、チルノ!」
ラルバに声をかけてきたのは、氷の妖精チルノでした。この暑い中でもチルノは相変わらず元気そうです。
「探し物してるんだ……。わたしのコレクションが盗まれちゃったんだよ」
ラルバが事情を話すと、チルノは見る間に色めき立ちました。氷の妖精なのに、熱い正義感の持ち主でもあるのです。
「ドロボーがこの辺に出たのか! なにを盗まれたんだ?」
「パワーアップアイテム(大)だよ! あのまるっこくてしかくい形が完璧だったのに!」
「……お、おう」
負けじと興奮気味に説明するラルバに、さすがのチルノもちょっと引き気味。でも、ほかの妖精とは違ってチルノもこの騒ぎの中では話が通じるようです。
「大きい袋とか背負った、怪しそうなやつ見かけなかった?」
「んー、あたいは見てないなぁ。それより、ラルバ! あたい、大ちゃんにリベンジしたいんだ! 練習につきあってくれないか?」
(※これ以降要確認)
「ダンス練習ね! ちょっとだけならいよ!」
「よっしゃー! かくごしろ!」
ラルバの快諾に、チルノはガッツポーズでうれしそう。
ラルバとチルノは飛び退って間合いを取り、弾幕ごっこの構えに入ります。