賽を振る。
深海の策略家は、望む出目を確実に己が手で出せるまで賽を振り直し続けるという。
海底の遊撃者は賽を転がせど、一を六、三を十にする。してしまう。
そもそも出目に左右される性分をしていない。
では、海底の参謀は?
♢
返済を渋る寮生を追いかける遊びをフロイドと楽しんでいたが、少々遊びが過ぎたらしい。
二人でなら簡単に捕まえてしまい退屈だろうと、わざと逃がしては追いかけてをするうちに、寮生は寮鏡をくぐって学園側へ逃げてしまった。
さらに途中で「もう飽きた〜」とフロイドまで自室に戻ってしまい、残されたジェイドは一人で、逃げ回る小魚を追いかける羽目になった。
…
小魚を追いかけ鏡をくぐった先には、ぬるい風がさらさらと人肌を撫でる好みの夜が待っていた。
仕事がなければゆっくりと堪能していたい夜だったけれど、あまり帰りが遅くなっては明日の予定に響いてしまう。
すぐさま標的の行方を確かめると、寮生は、逃げられる筈もないことを理解して、膝を抱きながら他寮の寮鏡の影にうずくまっていた。
呪文を詠唱するように何度も「ごめんなさい」を繰り返していたが、その手元にはしっかりとマジカルペンが握られ、その表情も手負いの獣より怯えた瞳を湛えている。
仕草は時に言葉よりも能弁だ。
「そんなに怖がらないで……そろそろ追いかけっこはお終いにしましょうね」
 ジェイドは微笑んで、脳内で仮想の賽を振った。
母国である海の子守唄を鼻歌に嗜みながら、滑りの良い繊維を撫で付けるように一見優雅な所作で、寮服のジャケット、左ポケットに手を差し入れる。
そのポケットには、仕事道具が収まっていた。ラウンジに訪れる千差万別のお客様の些細な願いを叶えてやるための小道具は、例えば今日ならメモの為の羊皮紙、栓抜き、簡単なマジック道具、靴擦れのための踵用パッチ……どんなアクシデントに見舞われても対処できるよう、ジェイドの備えは万全と言っていい。
小さな願いを叶えてやれば、その果てに潜む大きな願いを吐かせやすいというもの。
ゆえにその時々でポケットの中身は入れ替わった。
「そのペンを僕に振るうおつもりなら、少々手荒なお仕置きになってしまっても致し方ありませんね?」
塞が転がる。……出目は三。
ジェイドは鼻歌を止めた。様々な道具が同居する狭いポケットの中で、三番目に指が触れたものを取り出し、じっと眺める。
出てきたのはシガーカッターだった。
♢
輪の中に葉巻を差し込み先端を切断する道具。上から押し込むように力を加えると刃が落ちる、ギロチンに形状は似ている。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「そう仰るなら、最初から素直にお支払いになったら良いのでは?」
ジェイドは寮生によく見えるようわざとらしくシガーカッターを掲げ、親指で金具を押し下げた。ガシャン、と金属の刃が上から下に落ちてくる。
「ヒイ……!」
「では、どの指から行きましょうか。仕方がありません。約束を守れなかった、あなたが悪……、」
とまで口にしたジェイドは、不自然に言葉を切った。突然、視界が闇に包まれたのだ。虚を突かれ出遅れた一瞬の間に、背にゆったりと質量がのしかかってくる。
「まだ遊んでんのぉ?」
気怠げな声がすぐ近くで耳を撫でた。誰かはいうまでもない。
「……あなたがいれば、もう少し早く収集がついたと思いますよ」
ジェイドは自分の両目を覆っているフロイドの手にそっと指を掛けた。そのまま絡めとるように指の隙間を埋めてやるとフロイドは楽しそうな含み笑いを口端からポロポロとこぼして、絡め合う手を握りしめてくる。
「だ〜って、しょうがねぇじゃん?」
握りしめた手に力を込めたり緩めたり、戯れながらフロイドが言う。
「飽きちゃったんだから」
「はあ……。ところで、どうして戻ってきたんです?」
「オレ優しいからぁ、迎えにきてあげたの」と、フロイドは気を抜いていたジェイドの手からシガーカッターをひょいと取り上げた。
「あっ!」
「オレも混ぜてよ」
と、フロイドはするりとジェイドの傍を離れ、床で震える寮生の前でしゃがみ込む。
二、三言葉を交わすと、すぐにフロイドは戻ってきた。あんなに逃げ回っていた寮生はすぐに立ち上がり、ふらふらとおぼつかない足取りでオクタヴィネルの寮鏡へと戻ってゆく。
「彼にはなんてお話を?」
「ないしょ」
「おや残念」
「それよりさぁ、」
フロイドはジェイドのボウタイの結い目に指を掛けた。クイと引くと、ジェイドの視線が問いの意味を孕んでフロイドの瞳を覗き込んでくる。
「なんかムカつく」
「……っ、ん!?」
ガツン、とほとんどぶつかり合うようなフロイドからの口付けに、ジェイドは思わず眉を顰めた。
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フロジェイ小話
初公開日: 2025年06月29日
最終更新日: 2025年06月29日
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コメント
テストを兼ねてフロジェイ小話を書きます(未完)
誰夢にしよっかなー
chi.にするのは決めてるんだけど
ぱな
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葉月 翔