三日目になると少しずつここの暑さにも慣れてくる。……嘘。流石にまだまだ暑すぎて慣れるはずがない。今にも溶けてしまいそう。暑さで少しだけ早く目が覚める。ベッタリとした汗を流すようにゆっくりと身支度を始める。あくまで気合を入れすぎない程度の普段通りの身支度を心がけて……。
「はぁ……なんでこんなことに…」
準備を終えた私は一人ホテルの前で立ち尽くす。待ち時間がやけに長く感じて自然とため息が漏れる。本当なら今日は昨日と同じようにのんびり過ごすつもりだった。そう、昨日まではその予定だった。なのに、
「連絡無視してきたんだからよ、代わりに明日は俺と遊ぶんど!案内してやるさぁ!」
(うっかり)連絡を無視していた相手から逃げ場のない誘いを受けてしまったんだ。彼、甲斐くんは私の返事なんて聞くつもりもなく、あれやこれやと勝手に予定を決めてくる始末。
別に行かなくてもいい。
体調が悪い、気分が優れない、他に外せない用事がある、断る理由なんて作ろうと思えばいくらでもある。そう、作れたはずなのに、
なのに、
「えー、おーい!」
何故かその時は断ることが出来ない自分がいたんだ。
……何故だかは分からないけど。彼の笑顔を見ていたら気づけば自然と首を縦に降っていた。
「待ったやー?」
「…………凄く」
「あい?やー怒ってる?」
まぁ、誘ってきた本人が盛大に遅れてくることは想定してなかったけどね。
「暑すぎてもう置いていこうかと思いましたけど」
「あいひゃー、わっさん。ちょーっと寄り道してたらよ遅れたさぁ」
少しだけ、ううん、たっぷりと嫌味を込めた返事をしたけれど彼は全く悪びれる様子もなく流れるような適当な謝罪の言葉を口にした。あっけらかんと謝る彼に私は何も言えなくなる。ウチナータイムなんて言葉は聞いたことあるけど本当に実在するんだ、とむしろ感心している私を他所に彼はお構い無しに歩き出した。その背中を慌てて私も追いかける。
「ちょっと!」
「あい?」
「あなたから誘ってきたのに何処に行くかも言ってくれないのはおかしくないですか?」
「俺、やーに言ってなかったやー?」
そう、私は彼に今日何処に行くかなんて全く教えられていない。なのにズカズカと歩き出す彼には本当に心底呆れてしまう。
「…言われてないんですけど」
「あいひゃー、そうだったばー?わっさん」
改めて思う。とことん彼とは反りが合わない。合わない、と言うよりは彼の適当な性格や行動に私が振り回されているような気がする。
「国際通りに行こうと思ってたさぁ」
「え、国際通りって、あの国際通り?」
「はぁ?やーが思ってんのがどの国際通りか知らないけどよ、国際通りは一つだけさぁ」
「は、はぁ…」
彼が口にしたのは沖縄で観光客が多く訪れる国際通りだった。…正直意外だ。彼のことなら一日中海でも見ようぜ!とか、観光客も知らない田舎道を歩こうとか、虫取りとか魚釣りとか、そういう子供じみた遊びに誘われたのだと思っていたから。私でもよく耳にする観光地に思わず耳を疑ってしまった。
「嫌、だったやー?」
「いえ!そうじゃなくて…意外だったから……」
「国際通りは立派な観光地さぁ。店もばんないあるからやーの欲しいもの見に行くんど」
「私の……?」
「だーるだーる。服でもなんでも俺が選んでやるさぁ」
普通の、そう、まるで普通の付き合いたてのカップルが行くようなデートプランを立てている彼にも驚きだけど、それを素直に承諾してしまっている自分にも驚いてしまう。
彼の笑顔を見てから、彼と話すようになってから、私はどこか変なんだ。自分の中でなにかが弾けそうで、どこかが痛くて、苦しくて。
『やーのこともっと知りたいさぁ』
私の知らない、見たこともない、甲斐裕次郎を見る度に知ってしまう度に上手く呼吸ができないような感覚に襲われる。
絆されてなんていない。許してなんてない。ありえない。そう、ありえないはずなのに、
「遅れた代わりによー今日なんか奢るさぁなんでも!な?」
彼に笑いかけられると苦しくなるのはなんでだろう。