「それで、ヒガナ・オーエンに打ったのはヘビ……草?の血清で」
「はい」
「一刻を争うので、説明する暇もなく…………まあとにかく、早急に対処しなきゃって先走ったわけだ」
「はい……」
 緩い問答の末、シエルは米神を抑えて点を仰ぐ。
 埃のこびり付いた自室の天井を眺めながら、「シングルタスクが過ぎる……」と唸った。
「でもでも、結果的にジョン先輩は助かったわけで……」
 正座で項垂れたまま、リウーは目線でイーシャに助けを求める。どこを見ているかよく分からない目でぼうっと立ち尽くしていたイーシャは、その視線に、表情を引き締めてコクコク頷いた。
「先輩はすごい」
「イーシャくんに助けを求めない。イーシャくんはイーシャくんで甘やかさない!」
 あまりの剣幕に、イーシャもまた同様に肩を落として正座した。
 ──被害を受けた男子生徒は、食中毒ではなく毒性生物に嚙まれたことによる中毒症状を起こした。
 それに気付いたので、偶然持ち合わせていた血清で応急処置を施した。
 リウーが泣いたり半ギレになったりしながら続けた主張は、男子生徒が話せるまでに回復した──三日目にして初めて認められた。
 そして、三日目にしてようやく釈放されたリウーは、これまたシエルに真っ先に捕獲された。
「あの……とにかく、とにかくごはんをもらえませんか。何でも良いので…………」
 弱弱しく乞うリウーの腹が、きゅるきゅる鳴る。慌てて差し出されたパンをイーシャから受け取りながら、げっそりした顔で首を振った。
「三日間ほぼ飲まず食わずだよ。異常だろ、あの聴取の厳しさは」
「そりゃまあ、侯爵家ご子息の暗殺未遂となればね」
「そうか、そういうものか。そういうものだよなァ…………」
 項垂れた赤毛頭が、ゆっくりと擡げられる。
「……………………暗殺未遂?」
 意味の無い上下運動を経て擡げられた相貌には、困惑が滲んでいる。「初耳ですけど」と言う言葉に、シエルはどっかりとベッドに腰かけた。
「被害にあったヒガナ・オーエンは、咄嗟に要人を庇ってヘビ草に襲われたんだ」
「要人」
「そう。彼は生徒会長──カイル・スペンサーの護衛だったんだよ」
────カイル・スペンサー。
その名前に、ただでさえ陰気な顔がぐしゃりと歪む。
「最近やけに縁のある名前だ」
「そうだね。結論から言うと、先日のボヤ騒ぎと合わせて、カイル・スペンサーを狙った暗殺未遂だ……と、学校側は考えているみたいだよ」
 リウーは納得する。
 ヘビ草はまず人為的に持ち込まれた物であると考えて間違いない。かつ、致死性が強く、水分を摂取することで吸収が倍になるという凶悪な性質を持つ。食中毒の応急処置として水分補給が行われる。その展開を見越したうえでこの毒を選択したのだとすれば、犯人は相当強い殺意を抱いていることになる。
「そりゃ、三日三晩兵糧攻めされるわ」
「だよね」
カット
Latest / 31:26
カットモードOFF