数々のパープリティアス属を破りながらも、ネグザルツの意識はその向こうから感じられる母の気配だけを感じ取ろうとしていた。
 振り下ろした太陽剣が、状況に応じた変形機構を有するパープリティアス・アームドコアを両断する。今やネグザルツの剣の冴えは極限にまで達していた。自身の生体装甲越しに不可視の照準を感じ取り、敵の装甲越しに致命打を与えられる太刀筋を見出す。
 繰り出した太刀は敵機の装甲を撫でるがごとく軽く、同時に自身に倍する巨躯をも両断するほど重い。
 そして――激しい戦闘を繰り返すネグザルツの思考域は、静かに凪いでいた。
 だからこそ、光を飲み込む漆黒の超重力の向こうから響いてきた聲(こえ)にも驚愕はなかった。
 懐かしい、聲(こえ)だった。
『よくぞここまで辿り着きましたね』
『もう少しこちらへいらっしゃい』
『深く、静かに、潜れるのでしょう?』
 その通りだった。
 もはや今のネグザルツは、かつての自壊を待つだけの無力な水蛭子(エラー)でもなければ、迷いと疑念が絡みついた不自由な剣を振るう者でもない。
 機肺(ラング)の吸入口が静かに拡張し、深く星間物質(エーテル)を呼吸する。
 感覚機(センサー)すら向けることなく、眼下から接近してきた補給艦を、今まさにそこから出撃しようとしていたパープリティアス・ブラスターごと両断する。
 補給艦が爆散するのを待たず、ネグザルツは下方に向けて急降下。隊列を組んだ艦隊をすれ違いざまに斬り捨てる。
 敵艦を一隻撃破するたびに、ネグザルツはその装甲表面に、思考域に、竜骨(スパイン)に、偉大なる母の存在をより近く感じていた。近い。母の居場所も――そして、この戦いの終焉も。
 そして運命の仔は、導かれるように――実際、導かれていたのだろう――そこに辿り着いた。
 光、電磁波、あらゆる手段による観測結果は「無」。無限の重力の井戸にすべてを飲み込む、「奈落(アビス)」。その入口だった。
 
『さあ、もっと深く潜りなさい』
『闇を恐れる必要はありません』
『私はこの先で――待っていますから』
 導かれるように、太陽剣を抜刀(アクティベート)。
 頭上高く振り上げた光刃の切っ先が切り裂いたのは、超重力に閉ざされた次元壁。
 その向こう側に見えるのは、事象の地平面にも似た、鈍く輝く光輪。
 光輪は巨大な門となり、突き込まれた太陽剣によって開かれていく。
 そこに立ちはだかるのは、ひとつの巨影。
 無数のレーヴァテインの眷属の中にあってただひとつ、レーヴァテインと同型の――一対の腕部、一対の脚部を備えた威容。
 パープリティアス・レイヴァース。
 レーヴァテインの側近にして最大の火力と防御力を備えた最強のパープリティアス属。
 ネグザルツがその姿を認識したその瞬間、その光核(コア)から凄まじい光撃がほとばしった。ネグザルツは瞬間的に機体をバンクさせ、寸前で躱す。
 それが、戦闘開始の狼煙だった。
 すべての戦力を支配し制御するがゆえに、暗黒の底にいるレーヴァテインにはネグザルツとレイヴァースの会敵を察知していた。自身が直接向き合っているかのように、ネグザルツの太刀筋を感じ取ることができた。
 レイヴァースとの戦闘は、いわば仕上げだ。ネグザルツという一振りの劔(ツルギ)を研ぎ上げるための。
 ネグザルツはレーヴァテインの期待通りの成長を見せた。数々のパープリティアス属を破り、太陽剣の真価を引き出すまでになった。そしてついに、ここに辿り着こうとしている。
 喜びと哀しみが、レーヴァテインの思考域を等量に満たしていた。ネグザルツがここまでの成長を見せたことに対する喜び。これからのネグザルツの運命を思う哀しみ。
 しかし、もはや矢は放たれた。後戻りはできない。
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初公開日: 2025年04月09日
最終更新日: 2025年04月10日
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