その中でも特に、彼らの氏族(クラン)の中で重要視されていたのが、レーザーブレードによる近接戦闘である。パープリティアス属にとってもっとも強力な遠距離攻撃がエネルギーを充填して放つ光撃であるとすれば、もっとも強力な近距離攻撃がレーザーブレードだった。
 直接的な機体出力や装備の性能が大きく影響する光撃に対し、レーザーブレードはその威力に技巧が大きく影響する。そしてレーザーブレードの巧者は、氏族(クラン)の信奉する彼らの象徴であり王位継承の証でもある最強最大のレーザーブレード「太陽剣」の継承者として選ばれるのだ。
 鍛錬を積む中で、いつしかネグザルツはレインディアと並ぶレーザーブレードの遣い手となっていた。互いに互いを高め合い、剣を交えるという経験はネグザルツにとってこれまでなかったものだった。
 ネグザルツは、レーヴァテインに救われたことで名と力を得た。ならばレインディアからは、新たな「関係」を得た。この宇宙に不完全な姿で生み出され、何者とも関わらず自壊を待つのみだったネグザルツが得たその関係は、「兄弟」と呼称されるものだった。
 自己との近似性と競合性が同居したその不可解で曖昧な関係性は、ネグザルツの思考域に曰く言い難い感覚を構築していた。そして今、未だその感覚の正体がわからないまま――こうして剣を交えている。
 おそらくはこれが、レインディアとの最後の戦闘になるであろうことをネグザルツは予感した。斬り裂かれるのは、己の身か、それとも――。
 交えた太陽剣は、思考中枢たる光核(コア)や神経束たる竜骨(スパイン)以上にその思考と志向を示している。今や斬り結ぶ太刀は、彼らそのものだった。彼ら以上に、彼らだった。
 だからこそネグザルツは――必殺の太刀を眼前にしながら、その太刀を見てはいなかった。見ているのは、その向こう。
 その向こうにある、太刀を振るうものの、その光核(たましい)の奥底にあるものを。
 纏った装甲(よろい)のその向こう、殺意と憎悪のその向こうにあるものを。
 そこにあるのは――よく知る、何一つ変わらない、ある関係(かかわり)。
 それを知覚した瞬間、ネグザルツの思考域は、本来戦闘中には起こり得ない状態に移行した。
 すなわち、凪(フラット)。
 戦闘興奮状態にあった竜骨(スパイン)は瞬時に沈静化し、星間物質(エーテル)を激しく呼吸していた機肺(ラング)は収縮したまま動かない。押し迫るレインディアの太刀を押し返そうとしていたブースターもが、稼働を停止した。機体に備えられた感覚機(センサー)は、全て閉じている。
 生物活性それ自体がほとんど停止した――「無」に極限まで接近した状態。
 その中にあって、ネグザルツの思考域が――啓(ひら)いた。
 極限まで加速された知覚が、時間の感触すら感じ取る。
 その中でネグザルツの思考域は異常拡張され――
 その太刀は、
 秒を十分割し絲(し)となり
 絲(し)を十分割し忽(こつ)となり
 忽(こつ)を十分割し毫(ごう)となり
 毫(ごう)を十分割し釐(り)となり
 そして――雲耀の太刀となる。
 ネグザルツを構成する生体装甲、思考中枢である光核(コア)、神経束たる竜骨(スパイン)、全身に伸びる神経網、その全てが成し遂げた、一瞬にして完全なる同期が成し遂げた、剣の極地。
 間断なく旋回するレインディアの二振りの偽太陽剣のその間隔を、ネグザルツはあらゆる感覚機(センサー)を用いることなく感じ取った。そこに太刀があることが定められている未来に向かい、
動作を完成させる。
 激しく回転しているはずの二振りの偽太陽剣の隙間がはっきりと見えた。糸に惹かれるように自然な動作で太陽剣を抜刀(アクティベート)。抜き放たれた太陽剣はその過程で十分な「練り」と「絞り」を加えられ――そして
 紫電一閃。
 奥義(イペルスキル)・大太陽剣・一之太刀(ヒトツノタチ)。
 時間間隔すらも歪めるほどの極限集中により、一瞬の隙に最大限の攻撃を叩き込む極限絶技。
 間断なく繰り出されていたはずの二振りの偽太陽剣の間隙を縫って放たれた必殺の太刀が疾(はし)る。
 極限にまで研ぎ澄まされたその一刀を、二振りの偽太陽剣は阻むことができなかった。限界まで「絞り」を加えられた大太陽剣は、滑り込むようにレインディアの装甲に斬り込んだ。そのまま、まるで虚空(くう)を割くがごとき手応えのなさで、生体装甲は自ら剥がれるようにして裂けていく。
 レインディアの機体は、一対二基の増加装甲ごと両断された。
 この絶技を開眼させたのはまさに、実の兄との己の全てを賭けた極限の斬り会いだった。その壮絶な戦いの中でネグザルツの思考域は、新たなる位階(ステージ)に進化(アップデート)したのだ。
 増加装甲を含めた機体の大部分を失ったレインディアは、破断面から結晶化した星間物質(エーテル)をこぼしながら、下方へと流れていく――竜骨(スパイン)ごと機体を両断され、もう自力で航行できる余力すら残ってはいないのだ。
 そのレインディアの機体に埋め込まれた光核(コア)が、ほんのわずかに発光したのを、ネグザルツは観測した。虚空に消えてしまいそうな僅かな聲。
 それでも、ネグザルツにはそれがなにを意味するのか分かっていた。なぜならそれは――兄の声だったから。兄の言葉だったから。
 ネグザルツは機首を返し、目的地である機動要塞エクソダスの動力コアへと向かう。その前にネグザルツはもう一度だけ後方に感覚機(センサー)を向け――兄の姿を確認しようとしたが、その姿はすでになかった。
 ネグザルツは太陽剣を抜刀(アクティベート)した。高く高く、剣を掲げる。
 その剣は、誇りそのものだから。
 兄とともに研ぎ上げた、誇りそのものだから。
 だからこそネグザルツは、この剣を持って次の戦いに赴く。
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