がんがるーのヴィルダンヴィルさんはかねてからの予言が当たった日、道に取り残されたように置かれた自動販売機の前で壊れた飛行機のおもちゃが捨てられていたこと話をしてください。
「だから言ったじゃん」
そう言うヴィルの声には、呆れよりも気遣いが滲んでいた。返答しようにも、嗚咽を堪えるので精一杯だった。
なけなしの小銭を握りしめて二人でよく買い物をしにいく、個人経営の小さな雑貨店。そこで互いの欲しいものを何かひとつだけプレゼントし合うのが、最近の俺たちの楽しみだった。店主は気さくな人で、長時間うんうん唸って悩んだ末にジュースや飴玉やガラス玉をひとつしか買っていかない俺たちにも嫌な顔ひとつしない。ヴィルは大抵俺より早く目星をつけてしまって暇そうにしているので、俺を待つ間によく店主と話していた。
「君たちはいつも仲がいいね。もしかして付き合ってるのかな?」
「いえ、そんな……」
時々投げかけられるやや悪趣味な質問に、ヴィルがいつも曖昧に笑って否定するのが内心では面白くなかった。
「付き合ってるだろ。言ってやればいいじゃん」
「……そういうわけにもいかないでしょ」
キャンディーの大袋からひとつ取り出して口の中でかろかろと鳴らすヴィルが、大人ぶって肩をすくめる。
「きみが着てるそれが修道院の制服だって、見る人が見れば分かるし。それに、あの人も本当に付き合ってると思って訊いてきてるわけじゃないよ」
「そうかもしれねーけど。わざわざ訊いてくるんだから、本当のことを教えてやったっていいだろ」
「それで傷つくのは君だよ」
「……でもあの人、いい人だろ」
そうだね、とヴィルが笑う。その仄暗い目線を追うと、少し遠くの石畳に陽炎が立っているのが見えた。
「いい人でも、偏見があることもある。男同士なのに仲が良すぎるって、揶揄われてるだけだよ」
商店からの帰り道、南に向かって緩やかに下る道は照り返しで眩いほどだった。なんとなく乱暴な気持ちになって、どこまでも現実的な恋人が今日自分に贈ってくれた飛行機のおもちゃを海に向かって飛ばすと、日差しに目をすがめた一瞬ののちに、飛行機は見えなくなっていた。
買い物を中断して飛び出してきてしまって、ヴィルもすぐに俺を追いかけたので、今の俺たちの手の中には何の菓子も玩具もなかった。だからヴィルは細い路地裏で俺を抱きしめることができたし、俺もそれに両腕で縋ることができた。悲しいのか悔しいのか、よく分からなかった。強いて言えば、多分俺は驚いていた。今思えば、結果は自分でも半ば分かっていたような気がするのに、胸を衝き上げる感情が涙になって溢れて止まらなかった。
「あのね。希望を持つのって辛いから、ほどほどにしておいた方がいいよ」
優しく諭す声が、抱きしめられた身体に直接響く。しゃくりあげてろくに言葉も出なくて、ただ強く抱きしめ返した。
「……それでも期待しちゃうから、難しいんだけどね」
あやすように背中をさすってくれる恋人が、時々突き放したような物言いをする恋人が、本当は自分と同じくらい傷ついていることを知っていた。傷つきすぎて、傷つく前から予防線を張って、それでも傷ついて、その上でこいつは俺を困らせないように泣かないでいてくれるのだった。
泣いていい。怒っていい。お前には、俺と同じだけ、その権利がある。
要するにそんなようなことを思ったけれど言葉にはならなかった。だからせめて、ヴィルの頭を俺の肩に押しつけて、ぐりぐりと撫でた。くぐもった笑い声のようなものが聞こえて、抱きしめた肩が震えた。
抱きしめたヴィルの肩越しに、欠品だらけの自販機の下に、骨組みごと何かに踏まれて壊れた飛行機のおもちゃが見えた。