「と、まあはりきってスタートしたわけだけど、ゲームっていうのは単なるジェスチャーゲームなんだ。だからそこまで改まらなくても大丈夫。」
ジェスチャーゲームか。特段流行っている遊びというわけではないけど、教室の中でたまにやっている男子や女子を見かける。
「ルールは、、聞かなくてもわかると思うけど、一応説明すると、自分のなりきりたいものをイメージして、それを演じる。言葉で示すのは禁止、動きだけで再現すること。以上!」
ウィートンさんが淡々とおっしゃるように、それほど難しくないシンプルなゲームだ。ただ難しくない、というのはルールが分かりやすいっていうだけであって、ゲーム自体の難易度はなかなか高い。
「それでは、最初は君にやってもらうよ。みんな彼の名前は覚えた?アントワーヌさ!!」
「はい!!」
主人公だからなんとなく最初に選ばれるとは思ってた。身構えてたからそこまでびっくりしなかったけど、緊張は最高潮だ・・・・・・。なんせたくさんの役者さんがいて、しかもウィートンさんまでいるんだから、緊張するに決まってる。
輪を作るみたいに座って、俺はその中心に立つ。
トップバッターに選ばれたんだから、頑張んないと。頭の中にイメージさせて、それを演じるっていうだけだ。単純なことさ。
子供のころにかっこいいと感じたあのヒーローを演じてもいいかもしれない。自由なんだからなんでもいい。だけどこの場では、そこまでの具体性はむしろ邪魔かもしれない。ならシンプルなイメージをするべきか、、
「ぷっぷー。がちゃり。」
手を左右にくるくると回転させて、ぷっぷ、ぷっぷと言ってみた。
「ん?」
「お金いただきます。」
後ろを振り向いたり、前を向けば手をくるくる回したり、だいたいこういう動きをしておけば誰だって分かるはずだ!!
タクシー運転手!!
「うーん、なんだろう。電車?」
「違います!」
「えー自家用車。」
「違いますっ!!」
電車、自家用車、いいぞこのままいけば、すぐにでも正解に。
「犬?」
「違うっううう!!」
犬なわけ!お金をせびる犬なんて嫌なこった!!まさか俺、再現下手??ぷっぷーはいいと思ったんだけどなあ
「わかった!タクシー運転手!」
あ、あの人・・・・・・。少し胸がほっとした。ほっとしたと同時に答えを言い当ててくれた人を、思わずじっと見てしまった。
「正解です!!」
「おおっそうだったかー!見事、ジュールくんの正解だ!アントワーヌくんもありがとうね。」
「はい!ありがとうございました。」
ドクドクとスピードをあげて轟音を奏でていた心臓が、輪の中心から抜け出した瞬間静かになった。かなり緊張していたはずなのに、もうあの感覚を忘れそうになっているのが不思議なようで、当たり前のような気もした。
ジェスチャーゲームはこの後もしばらく続いた。赤ちゃんにビーチバレー。サッカーやそのボール。なんでもいい、なにか一つになりきればいいというだけなのに、やっぱり誰しも表情が固まって動かない。緊張の中に、もみくちゃにされるんだからそりゃその時のことなど覚えてるわけがない。中心から抜け出した瞬間にその感覚を忘れちゃうのは、たぶんこういう理由だろう。
「じゃあ次は、ラスト!」
「あ。あの人が最後なんだ。」
「ジュールくん。よろしくね。」
「わかりました!」
これまでは中心に入ると、声が震え始めるのが流れだった。でもジュールさんだけは、声を震わせることはなく、誰よりも明るく返事をして中心に立った。緊張をまったく感じさせず、ジェスチャーもすぐに始まった。
「かっかっか!よっと、、じゅわああ。」
手を前後に動かし、かっかっか。なにかを振り上げるような動きとともにじゅわあああ。
「どうですかみなさん!!」
「あ。わかりました!」
「はい!アントワーヌさんっ!」
「料理人!」
「正解っ!」
もはやここは自分の場だと言わしめるみたいだ、、さっきまで全部ウィートンさんが進行していたのに、それすら奪ってしまった。緊張しい外側の輪っかたちは、この問題の答えなんかよりもそっちのほうがよっぽど気になって仕方がなかった。
「はい!みんなお疲れさま。一回休憩を挟みます。それが終わったらいよいよ台本を出して、練習。それでは休憩!」
休憩と言われ、それぞれが部屋に戻っていく。俺もそれを見て続くように部屋に戻った。椅子に座って、前かがみになると猫背の体勢のまま考え事を始めた。
もちろんその考え事とはさっきのジュールさんのこと。たぶん誰も言わないだけでジュールさん以外の全員が今ジュールさんのことを考えてる。これはウィートンさんも同じだ。
「大丈夫ですか?アントワーヌさん」
「あっ!大丈夫です、すいませんモンシニさん。」
体勢が悪いせいで、体調まで悪いって思わせちゃったかな。そんなんじゃない、体はしっかり元気。気になるのはさっきのジュールさんの行動全て。緊張感がまるで伝わってこなかった。少し言い方は悪いかもだけど、学校にある模型みたいだった。
心があれば普通はあんなの緊張するはず。緊張しないと絶対ありえない。でもじゃあなんで?
「モンシニさん。」
「はい!どうかされましたか?」
「大量の人たちの視線に囲まれたら、どうやって緊張しないでそこに立てばいい、ですかね。」
緊張せずにステージに立つのは演技の基本中の基本。緊張を感じさせる演技で満足させることはできないはず。だったらジュールさんのやっていることは演技において当たり前ってことになるよね。
それがステージに立つには必須であって、前提だ。
「よく聞くんですけど演技って、自分のことを忘れちゃわないと出来ないらしいです。体も心も全てそれに捧げるような、そういう気持ちだと思います。」
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