結局あの事件をきっかけに特別何かが動き出したりはしなかった。ひさきに「近寄らないで。」と気持ちをはっきり言わないといけないとは分かっていても、行動に移すのには勇気が足りなかった。
ひさきが僕を突き放すことはもちろんない。先輩からのアクションを待っていても当然来るはずもない。僕の人生ゲームは早くもここで詰んだ。いや別に頑張ればいいだけの話だ、ただ一言ひさきに言えれば、それだけで解決する。
勇気がないから言えないのだとしたら、直接的じゃなくて何かメールとかそういう遠距離的なやつで伝えればいいのかもしれない。
閃いたなら行動はすぐするべき。早速アプリを開いて・・・・・・。
いや、よくよく考えてみたらあいつの連絡先知らないや。画面の端から端までスクロールしてみたけど、画面にひさきらしいアカウントは見当たらなかった。
ん?アカウントがないってことはじゃあどうやって伝えればいいんだ!?手紙はわざわざ書きたくないし、第一、「近寄らないでください。」って手紙で送る内容じゃねえだろ。普通異性に対する手紙はもう好きの象徴なんだから。
さてどうしよう。職員室の前の廊下は誰も通らないから比較的考え事がしやすかった。ぼっちになりたいときは職員室の目の前を選ぶべきだ。生徒はなるべく先生に会いたくないと、ここを一切通らないから都合がいい。
じゃなくてどうするんだよ。真面目に考えろ僕。手紙は絶対違うし、間接的に伝えようにも伝えてくれるやつがいない。じゃあまさか自分からひさきに連絡先を聞くのか、、
それだけは嫌だ。でもそれしか方法は残されていない。あとは直接言うかしかないんだから!!
負と負のジレンマ。どちらに転んだとしても楽はない。苦でしかない。
連絡先交換しよう、それとも近寄らないで。どちらを言った方が楽だろう。せめて少しでも楽なほうを選びたい。そうして考えるとようやく見え隠れしていた選ぶべき答えが出てきた。
「やっぱり直接言おう。」
勇気を出すことにした。まるで告白を今からするみたいな緊張が体に電気を流す。心臓が加速して余計にその緊張を後押ししているのを感じた。
そうだ。僕は今から「近寄らないで。」と言う。
毎日告白してきたひさきに対し。
隣の席のひさきに対し。
無くした委員会のポスター拾ってくれたひさきに対し。
「・・・・・・連絡先聞いてもいい?」
「え!ええええええええええええ!!!!!」
人の通らない職員室の前の廊下で、ひさきが大喜びをしてはしゃいだ声が廊下中に響くと、瞬く間に生徒たちが多く集まってきてしまった。これじゃ場所を選んだ意味がない。そう思って軽く息を吐く。
でも、、なんで僕は連絡先を聞いたんだ。もしかして自分が悪い?だってそりゃこうもなる。連絡先をこっちから聞いたんだ。当然の反応だよな、
あれ?え?近寄らないでって、言おうとしてたんじゃなかったっけ・・・・・・。
QRコードを読み取って友達追加を押した。
意識もあるし理性もある。人格が変わったとかでもなく、僕は本当に自分の意思で交換しちゃってる、、
なんで、こんなはずじゃなかった。イメトレも何回だってしたのに、めっちゃ反対のこと言っちゃってるじゃん!えなにガチで馬鹿じゃん僕。まじで何をしてんの。
「わあああ!やった、やった。これからいろんな話しようね!い・つ・き・くん!たとえばあ、今晩のおかずとかあ、今日のお天気とか!もし違う話題がいいなら、勉強とかの話しよっか!!」
ちがああう!雑談したいわけじゃないんだよ!お天気、今晩のおかず、そんなお話、誰得なんだよ!勉強教えたいわけでも教わりたいわけでもないし、僕が本当に言いたいのは、
「まさかいつきくんから言ってくれるとは思ってなかったなあ。あ!そうだもっと仲良しになれたってことで、一緒に写真撮ろ!」
「しゃ、写真??」
「ちょっとこっち!!!」
ひさきは笑顔で僕の腕を引っ張って、他の誰にも見えないように、すぐ近くの階段の踊り場にまで向かった。ひさきが青色したカーディガンのポケットからもう一度スマホを取り出す。そうすると、カメラはすでに起動されていた。
「なに撮る?どうする!」
どんだけ嬉しかったんだろ。こんなに笑顔のひさきは見たことがないってくらいくしゃくしゃになって、しかもジャンプまでして喜んでいた。僕の言葉で飛び跳ねるひさきを見ていたら、僕もなぜか同じように楽しい気持ちになってきたような、そんな気がした。気のせいだって思いながらもひさきのスマホのカメラからは目を離さないようにした。
「やったあ!写真まで撮れた!!ありがとういつきくん!」
「あ、うん。」
「じゃあ次エモいやつ撮ろっ!!」
「いいよ!」
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初公開日: 2025年02月18日
最終更新日: 2025年02月18日
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