「ハーイ!ダンテ!居るわよね?」
ドアを開け様、事務所に響いた馴染みのある声にダンテはアイマスク代わりのマガジンを取ると腕を組む体勢から身を起こす。
「ノックも無しに、居るの確定で来るのは相変わらずだな。なんだ?今日は返済日じゃないだろ。」
「あら、私が返済日以外に来ちゃ駄目な訳?」
「…」
デスクに肘を付き、何か言いたそうにしながらも元来口数の多いダンテが無言を貫いているのは、こんな時に口を開けば酷い目に合う事を長年の経験で身に沁みている所為だった。
トリッシュはそんなダンテの表情に笑みを浮かべながらダンテの目の前までやって来る。
「あら、今日は随分おとなしいわね。挨拶も無し?」
「今日はも何も、何時も大して挨拶なんてしてないだろ?それとも、ようこそ、トリッシュ…とでも言えばいいのか?」
ヤケクソのように声を低め、ウインク迄つけて見せれば、トリッシュはさらに嬉しそうな笑みを浮かべ、逆にダンテは背筋に悪寒を覚えた。
「それで…用件は?借金の取り立てじゃないなら、何かあるんだろ?合言葉付きの依頼なら大歓迎だが、それ以外はお断りだぜ」
「ねぇ、ダンテ?今日は何の日か知ってる?」
まるで猫を撫でるような声で話しかけてきたトリッシュにダンテは来た!と内心身構えるが、こんな事は表情には出さず、ちらりとわざとらしく背後の壁に視線を送る。
「見ての通り、カレンダーなんて置いてないところだからな。何の日かなんてさっぱりさ。」
「でも、今は何月かくらいは分かるわよね?この前ニューイヤーパーティしたんだし?」
「さぁ?あれからどれくらい経ったっけな。」
これ以上関わりたくないとばかりにのらりくらりとはぐらかすが、長年の付き合いのトリッシュは追撃の手を緩める筈も無かった。
「あのときの御馳走になったお酒、美味しかったわ。やっぱり、誰かに飲ませてもらうのって最高よね?今度はバージルにもお願いしてみようかしら?」
「ち、ちょっと待て!アイツと飲む気かよ?事務所で顔を合わすたびに睨み合ってる癖に!?」
「バージルにはクリフォトでの貸しもあるし、何より新年はダンテに御馳走してもらったって言えば、一も二も無く飲みに連れて行ってくれるでしょうしね!」
「ッ…!!解った!!降参だ!降参!あの夜の飲み会はバージルに内緒だったんだ!バレたらこの事務所を半壊させられちまう!」
「…だろうと思った。相当に気前が良かったものね。ついでにあの日の依頼の報酬が入ったことさえ言ってないんでしょ。」
「…そこまで見透かされてるのかよ。はぁ…相変わらずおっかねぇな」
「何か言った?」
トリッシュの笑顔の圧に段々押し負かされたダンテは、もう観念のし時かと居住まいを正し、これから要求される内容を受け止める用意をする。
そんなやっと素直になったダンテを見て、トリッシュはスッと珍しく手にしていたカバンから薄手の冊子を取り出した。
「マガジン…じゃなさそうだな。なんだ?カタログか?」
「そう。これを見れば貴方も今日が何の日か途端に思い出すわ。」
手渡された表紙を見た瞬間から、ダンテは明らかに怪訝そうに眉を顰め手元のカタログとトリッシュに顔に2~3度視線を往復させる。
「バレン…タイン…?」
「今日は2月14日当日よ。」
「…俺にくれるってのか?」
「あら、まだ寝ぼけてるの。起こしてあげましょうか?」
「グッ…」
思わず口から洩れた言葉に、トリッシュが影を背負った笑顔を浮かべながら雷光を纏わせた拳を出してきたのを見て、ダンテは息を飲むと遠慮すると言うようにフルフルと首を振った。
「最近は、スイーツショップの影響か女性が男性に送る方がメジャーになったけど、バレンタインは元々親愛や感謝を示す日でしょ。日頃の依頼やら、貴方の魔界行きやら、私、随分手を貸してると思うんだけど?」
「…依頼を持ってきては報酬を毟り取り、魔界に行ってる間はこの事務所を棲み処にして好き放題やってた癖に…」
「あら、それは手を貸した手間賃として当然じゃない。事務所も、ちゃんと住めるくらい片付けてあげてたわよ。」
「自分達が居るスペースだけな。俺の部屋や廊下は埃だらけだったぜ。」
「あら、貴方の寝室を片付けて恥ずかしいものやイケないものものまで見つけちゃって良かったの?」
「…」
意趣返しにノリで言ったダンテだったが、確かに掃除と言えども自室に触れられるのは気が進まない。さらに、母親と同じ顔をしたトリッシュにナニかを見つけられたとあってはとてつもなく居た堪れない心境になることは確実だった。
もうこれ以上抗う余地は残っていないと思い知らされると、ダンテはトリッシュから視線を逸らし、パラリと手元の冊子を広げる。
「そうそう、最初からそうしていれば良かったのよ。」
「それで?これを持ってきたって事はどれか食べたいのがあるって事か?」
「最近街に出来たチョコレートショップよ。ただのチョコと侮るなかれ。中にはプラリネが入ったり、お酒が入ってるのもあるのよ。」
「カタログ迄あるって事は相当高級って事なんだろ。ハッ!俺が日頃見るのより0が一つ多いぜ」
「だからこそ、プレゼントには喜ばれるわ。ね?ダンテ」
またしても猫撫で声で名前を呼ばれ、ダンテは思わず身震いで肩を竦めるが、ふと目にしたページで手を止めた。
「これ…」
「あら、そのチョコボックス?貴方が好きそうなお酒が入ったのじゃないけどビターのチョコが多めに入ったものね。私も気になってるの。」
「へぇ…」
そう言うとダンテはページを開いたままデスクに置き、背を寛がせると考え込む様に頭の後ろに腕を組む。
「なぁに?それに決めたの?」
「とりあえず一休みってところだな。こんなに煌びやかなチョコを見てたら目がチカチカしそうだぜ」
「ほとんど茶色しか無いわよ。それとも、貴方好みのストロベリーが無いから?」
「そうかもな」
そう言うとダンテはふと口元を緩め、目を眇めてトリッシュを見つめた。先ほどまでとは違う表情を見せるダンテに今度はトリッシュの方が何を考えているのか分からなくなる。
「そんな顔しても、来年までは待たないわよ。」
「おや、そんな選択肢作ってくれるのか?」
「だから、待たないって言ってるでしょ。」
「頭にはあるって事だ。」
「そうやって逃げようって魂胆?」
「いいや。それで、お前はこれが良いのか?」
「えぇ。今すぐ買ってきてくれるならね」
「今すぐ…ねぇ」
そう言うと、ダンテは身を起こし椅子から立ち上がった。そのままデスクから歩き出すので、トリッシュは何をする気なのか掴めず、その挙動を見守るばかりだった。
「もしかして、買ってきてくれるの?」
「ん?そういえば、せっかく来てくれたのに飲み物も出してなかったと思ってな。俺も喉が渇いたし、ついでだ。コーヒーで良いんだろ?」
「ええ…飲めるコーヒーなら、貰うわ」
「それは責任重大だ」
そう言うとダンテはクツクツ笑いながらキッチンへと向かう。
取り残されたトリッシュは何が何だか分からない事ばかりだった。
せっかくも何も、この事務所でダンテにコーヒーを出された事など皆無に近い。昔は自分もここに居た所為か、勝手知ったるとばかりに入れる事もあれば、出してもらったとしても時折来るパティから
だったり、最近ではバージルに無理を通して分けてもらうくらいでダンテから淹れてもらうなど、それこそ、此処に来た当初ぐらいしか覚えが無かった。
それに、ダンテのあの遠くを見るような瞳と淡い笑み。
この事務所で二人でいた頃には何度か見た様な気がするが、気安くなった分最近では浮かぶ事の無い表情だった。
今のこの時間がどこか懐かしい様な、ここしばらく魔界に行って離れていた所為で見失っていたようなダンテを見て、トリッシュは言葉にできない気持ちを感じる。
ダンテがコーヒーを淹れてくれるというだけなのに、どこかこの時間が特別な気さえしてきた。
キッチンから仄かにコーヒーの匂いが漂ってくると、ここで立ったまま待っているというのが落ち着かない気がして、トリッシュはカウンターから椅子を持ってきてデスクをテーブルにするようにダンテの目の前に据える。
程なく、ダンテはトリッシュの知らないトレイにマグカップを二つ乗せて戻って来た。
「ほら、出来たぞ。」
「ちゃんと飲める匂いはしてるわね。」
「合格点ってわけだ。」
「問題は味かしら?」
トリッシュはダンテが差し出したトレイからダンテのマグじゃない方を手にして口を付ける。思っていたのとは違って、インスタントでは無い味がすることに内心驚いた。
口では辛口な事を言いながら、口を付けた途端少し目を丸くしたトリッシュにダンテは無言の評価を貰い、気を良くするとそっと後ろ手に隠していたものを取り出す。
「さて、此処に取り出したるは、俺には思いもつかない高級チョコでございます」
「えっ!?」
トリッシュは静かにダンテが目の前に差し出したものを見て今度こそ声を上げた。
開いたカタログと同じボックスの外装が目の前に並んでいる。
「お求めのものはこちらでしょうか?」
「何でここに?もしかして気づいて…でも、私がこのお店を知ったのはつい数日前よ!」
「まぁ、疑問はもっともだが…これが食べたいんだろ?コーヒーと一緒に食べようぜ。」
驚くトリッシュにダンテは満足そうに笑うと自分も椅子に座り、チョコボックスを開けた。
写真に写ったものと同じものが目の前に並び、トリッシュは思わずどれから食べようかとチラチラ目移りする。そこで、ふと違和感を覚えた。
「…写真と同じだけど、何か違う様な…箱?」
「何が違うんだ?プラリネの入ったチョコも、ナッツの入ったチョコもビターチョコも全部そろってるぜ。」
そう言うとダンテは隣に開かれていたカタログを片手でそっと閉じ、チョコボックスを薦めるようにトリッシュの方に傾けて見せる。差し出されたチョコに気を取られそうになったが、トリッシュの素早い目は閉じられる瞬間のカタログの仕様をハッキリと捉えていた。
「これ、カタログのものより個数が少ないわよね?箱と中身のスペースが少しおかしいわ。」
「だが、写真に載ってるチョコは全部揃ってるだろ?お前が食べたいチョコには変わりがないさ。」
個数が違うと言われても慌てるでもないダンテの口ぶりに、トリッシュは一つの答えを辿り着く。
そして、もう一つまるで手品のように出された所為でその場で気づかなかったことに思い当った。
「…これ、もしかしてバージルの?今、包装開けなかったわよね。」
「流石だな。もう気づいちまったか。食べ終わるまで気付いてくれなきゃもっとスマートに行けたんだがな。」
悪びれも無く言うダンテに、トリッシュは驚きを返して欲しい心境になるがとりあえずコーヒーを口にして心を落ち着かせる。
「まったく…私はプレゼントして欲しいって言ったのよ。」
「俺はお前に食べたいのか?って聞いたぜ」
「何だか、トリックに引っ掛かった気分だわ。」
「まぁまぁ、現物はこうしてここにあるんだから、ほら。」
そう言うと、ダンテはトリッシュに選ばせるように再び箱を傾けて見せた。口では色々言ってみたが、トリッシュとしても食べたかったチョコを目の前にして心が浮き立つのは確かで。
ナッツの乗ったチョコに目を止め、チラとダンテに視線をやるとそっと頷いて肯定された。
バージルの物と分った後ではあるがダンテの許可を免罪符に見つめていたチョコを手に取るとそっと口に入れる。
ナッツの小気味よい硬質な感じと滑らかなチョコの舌触り、何より口に広がる上品なカカオの味にトリッシュの表情が嬉しそうに綻ぶ。
「美味しいわ!これはカタログに謳うだけの味ね。」
「プラリネが入ったのも食べるか?今、迷ってたんだろ」
「じゃあ、次はそれね。」
「俺はこのビターだな。」
そう言うとトリッシュが次のチョコを取ったのを見届けてダンテもチョコを一つ口にする。ダンテの感想を待ちながら、トリッシュはプラリネの触感を味わい、手元にあったコーヒーに口を付ける。
甘いチョコとそれを引き立てるようなコーヒーの味が最高に美味しくて、トリッシュは目を見張って手元のコーヒーを見つめた。
「このコーヒー。チョコにとても合うわ。すごくいいチョイスね。って、もしかしてこのコーヒー…?」
「もちろん、バージルのストックから拝借したけどな。」
「ちょっと!そこまで勝手に使ったの?」
「アイツがこのチョコ買ってきてからすぐに揃えたコーヒーだからな。絶対合わせてると思ってたんだ。そういう所、アイツは凝り性だし。バージル様様だぜ。たしかに、これならコーヒーもブラックで飲めるな。」
「勝手に食べて、知らないわよ。」
「何言ってんだ、お前もばっちり共犯だろ。」
「バージルのだなんて思わなかったから。」
ニヤリと企むように笑ったダンテにトリッシュが心外そうな目を向けると、誘惑するようにまたチョコボックスを傾けられる。
「知ってたら、食べなかったって?お目当てのチョコがすぐ目の前にあるのに?」
「その誘導はズルいわよ!」
まるで悪魔の誘いのようなダンテの言葉に、トリッシュは非難の声を上げ乍らもう一つ別のチョコを手に取り口にする。それから、また一口コーヒーを飲むと感嘆の息を吐いた。
「魅惑の味だろ?」
「上手く乗せられたって腹が立つけど…最高ね。バージルには申し訳ないけど、手が止まらないわ。」
「思っても無い癖に。」
「持ち出した元凶が何言ってるのよ」
そんなお互いを詰る様なやり取りをしながらチョコは少しずつなくなっていく。
ダンテがチョコを手にした後、トリッシュはもう一つ手に取ろうとしてそれが最後の一つだと気づいた。手を引こうとしたところで、チョコボックスがすっと手元に近寄ってくる。
「バージルなら奪ってやるけど、お前とは争って勝てる気がしねぇからな。」
「もう!そういう問題なの?」
いつものダンテとバージルの諍いを思い出しながら呆れたように笑い、トリッシュは最後の一つをそっと口にして味わうように食べた。
目の前では、コーヒーを飲みながらダンテが目を細めている。
「いつのまにこんな高級志向になったのやら」
「何よ。悪魔には味なんて分からないって言うの?」
「そうじゃねぇさ。ただ、此処から離れた後、世界を回って色々食べてきたんだろうなってな。」
ダンテのその言葉に、トリッシュは遠くを見るようなダンテの視線の意図に気付いた。それを分かったうえで、トリッシュは満足そうに微笑む。
「悪魔にもちゃんと味覚も感情もあるわよ。不味ければ不機嫌になるし、嫌な事があれば腹も立つ。でも、世界を回っていろんなものを食べて、いろんなことを感じて、ビターチョコみたいに苦くても美味しいとか、人のものを出されて悔しいけど欲しかったものが食べられて嬉しいとか、もっと繊細な細かい事が解るようになったわ。この人間界に来て、私は気になったものに妥協する気は無いの。」
「相変わらず貪欲だなぁ…」
「あら、強欲なのが悪魔の性よ。」
言葉とは裏腹に、ダンテの眼は笑んでいる。それを見返し、トリッシュもこれ以上に無い位愉しそうに微笑む。
「だが、お前のソレは悪くないな。高級志向にはついていけないが…」
「美味しいもの、良い物はどうしても値が張るものなの。それだけ上質で特別な価値のあるものが多いんだから。これだけ見てきたんだから、私の眼は確かよ。世界の美術館も博物館も展示はチェックしてるし、三ツ星レストランだって常連になった所が多いわよ。」
「はぁ…随分俺より高そうなの食べてるな。」
「それは貴方の味覚が偏ってるだけでしょ?こんなチョコを買ってくるくらい舌は確かなのに付き合わされてるバージルに同情するわ。」
「おいおい、こんなところでバージルの肩を持つのかよ。」
げんなりとしたダンテに、トリッシュはさらなる追撃を加えた。
「今の貴方の食生活に関しては、バージルの肩を持たざるを得ないラインってことよ。少しは食材や味にも興味を持ったらどう?」
「だが、食べるならピザが一番簡単で美味しいだろ?」
「たまになら良いけど、度が過ぎてるのよ。貴方の場合。ちゃんと見直しなさい!」
指を付き付け、咎めるように言うトリッシュにダンテは降参というように手を上げるとそっぽを向く。
「止めてくれ、その言い方は…ちょっと心に刺さる。」
「気にするってことは、悪いって自覚はあるのね。」
「ノーコメント。」
完全に白旗を上げ、天を仰いでしまったダンテにトリッシュは面白そうに笑うと最後に残ったコーヒーをそこまで飲み干した。そして、満足そうに吐息を吐くと椅子から立ち上がる。
「共犯ってのは気に入らないけど、最高に美味しかったわ。バージルに感謝ね。」
「おいおい、カタログと同じ物だって思い出した俺にも感謝しろよ。」
「あら、貴方は私に感謝を求める前にバージルに言い訳考えておいた方が良いんじゃない?」
「それを言われたら…ぐうの音も出ないな。」
やれやれと残っていたコーヒーを口にするダンテに軽く手を上げて別れを告げると、トリッシュはひらりと身を返しドアに向かう。
「ご馳走様。今度時間があったら、最近見つけた美味しいイタリアン行きましょ。次はちゃんと貴方の奢りでね。」
「それなら空き時間が無いくらい仕事詰めなきゃな。」
「それは予算潤沢って思って良いのかしら?」
「おお、怖い。あ、ちょっと待て。」
扉に手を掛けようとしたトリッシュをダンテが呼び止めた。
何だろうとトリッシュが振り返るとダンテがまるで手品のようにダンテの手の中で赤い魔力の薔薇が作られていく。
一本、二本、三本…四本目でやっと魔力を生む手の動きが止まった。
小さなブーケのようになったバラを、ダンテはチョコボックスに引っ掛かっていたワインレッドのリボンで軽く束ねる。
「何?」
「ほら、これはオマケだ。」
そう言うと椅子から立ち上がり、軽くトリッシュの手の中に落とした。
束ねられた赤いバラはダンテの魔力でキラキラしている。
「私に?」
「他に誰が居るんだよ。チョコはバージルの物だってバレちまったからな。」
「私にこんなの渡したら…食べちゃうわよ?」
「良いな、俺が渡せる高級スイーツだ。お前専用の。」
冗談で言ったのに、ダンテは否定せず嬉しそうに笑っていた。確かに悪魔のトリッシュにとってこのバラは観賞用にも食用にもなり得る。何と言って良いか分からずダンテとバラを見ているとダンテはそっと目の前の薔薇を指で突いて見せた。その質感は硬いようで生花のように柔らかくも感じる。
「不思議なバラね。」
「最近じゃ飴細工の薔薇や、生の花を砂糖漬けした奴だってあるだろ。飾りたいだけ飾って、飽きたらスイーツと思って齧って食べればいい。」
「…有難くいただくわ。」
「お気に召したなら何よりだ。」
何でも無く言うダンテの前で、トリッシュはリボンだけで纏めた素朴なブーケを宝物のように胸に押し抱いた。その反応に満足したのか、ダンテはいつもの定位置に戻ると深く椅子に腰かけて見送る様に腕を組む。
いきなり薔薇を渡されて驚いたトリッシュだったが、いつもの姿勢に戻ったダンテにようやく調子を取り戻しドアに手を掛けた。
「じゃあ、バーイ」
「またな。」
足取り軽く出て行ったトリッシュに笑みを向け乍ら、ダンテは閉じていたカタログを開いた。
トリッシュには軽く言ってみたが、バージルの物に勝手に手を付けてしまったとなれば倍返しを要求されることが目に見えて、どう遣り繰りしたものか少しだけ気が重くなる。
同じものを返すだけでなく、他のものを付けなければ幻影剣でハリネズミにされそうでバージルが好みそうなチョコを選ぼうと先ほどより先にページを進めていった。
「しかし、悪魔を魅了するチョコか…俺はそこらで売ってるチョコでも普通に美味しいけどなぁ…」
捲っても捲っても桁の違う価格に思わず本音を漏らしながら眺めているとカタログの終わりのページの辺りからヒラリと何かが落ちる。デスクの上に姿を現したのはダンテが良く頼むピザ屋のギフト券だった。
これに挟まっていたのかと大きくページを開いてみると、もう一枚何かが落ちてくる。
二つを並べてみると、それはLサイズピザ一枚用のギフト券とデザートに使えるギフト券だった。
しかも券の右上にはしっかりとハッピーバレンタインの文字が刻まれている。
「ハッ、なんだかんだ言ってもよくわかってるじゃねぇか、相棒。」
最後のページに挟まれていたという事はきっと話している途中では最後まで見ないだろうとトリッシュは思っていたようだった。ダンテの性格をやはりよく理解している。
「有難く使わせてもらうぜ。」
自分にぴったりのプレゼントにダンテの憂鬱は一気に消し飛んでいた。
いつ使おうかなと思いながら、そのギフト券は絶対にバージルに見つからない様、色々な物が入ったデスクの鍵付きの引き出しにそっと大事に仕舞われたのだった。
~END~
カット
Latest / 181:38
カットモードOFF
64:19
みゃーま
トリッシュかわいい………かわいい………
64:56
空乱香流
今回はトリッシュとダンテのお話ですから✨
154:46
空乱香流
終わった~~~!
154:57
ことは
お疲れ様です!!
155:06
空乱香流
意外に長くかかりましたが、お付き合いいただいた方ありがとうございました!
155:34
空乱香流
ありがとうございます!
155:51
ことは
トリッシュがとても可愛かったです!二人でチョコを盗み食いするのかわいい!
156:18
空乱香流
ダンテがチョコ出すところカッコよくしたいなって頑張りました。…人のだけど。
157:16
ことは
かっこいいのにチョコはバージルので笑いました!
158:48
空乱香流
哀れ、バージル。お楽しみのチョコは二人に食べ尽くされましたwww
159:33
ことは
コーヒーまで揃えたのに……
160:09
空乱香流
もちろん、見つかった後は買って返すまでハリネズミの刑とひたすらお小言を貰うでしょう(笑)
160:38
ことは
お仕置きもほしいです!
160:58
空乱香流
あ!ちょっとまって!!やらかしました!
161:09
空乱香流
ちょっと手直しします!
161:17
ことは
はーい!
177:42
空乱香流
書いて満足してましたが、危うく花束を忘れてましたwww
178:11
ことは
思い出せて良かったです!
178:41
ことは
お疲れ様です!
179:07
空乱香流
もう一度テーマを見て思い出しました(笑)
180:32
空乱香流
さてさて、取り敢えずこのお話は書き終わったのでお開きにしようかと思います
180:54
空乱香流
お付き合いいただきありがとうございましたm(__)m
181:17
ことは
お疲れ様でした!!
181:31
空乱香流
お疲れさまでした!!
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バレンタインデーは誰のもの?
初公開日: 2025年02月14日
最終更新日: 2025年02月14日
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バレンタインデー2025ということで、みゃーまさん主催のテキストライブに便乗して短い話を書こうかと思います。
お題は「バレンタイン」「チョコレート」「花束」です。
元々、テキストライブ前から考えていた話なので今回の話はバジダンじゃなく、ダンテとトリッシュの話なります。今から書くお話はバジダンじゃないです!(大事な事なので二度言いました)
もし時間が余る様なら書き終わった後に双子の話も書きたいなとかもくろんでます