「まったく、風呂すらまともに入れんがか、おまんは」
吉行は呆れたように吐き捨てた。
風呂の温度は熱いくらいがちょうどよい、と吉行は思うのだが、目の前にいるこの男はそうではないようで、行きがけにあれほど興味を惹かれていた商店街の人や物には目もくれず、足元をふらつかせながら何とか家に戻ってきた。
畳の上で伸びている兼定を団扇で仰いでやると、彼は目を瞑り、しばらくじっと動かなくなった。
(確かに色男じゃな)
湯屋で番頭に言われた言葉を思い出して、吉行は心の中でそう呟いた。
凛とした眉に切れ長の目、高い鼻梁は裸電球の明かりを受けて、頬に微かな影を落としている。薄い唇は涼やかな線を形作り、思索的な印象を与えている。
人の顔などまじまじと見つめる物ではないが、その整った顔立ちに思わず見入ってしまった。
どれくらい眺めていただろうか、兼定の瞼が震えゆっくりと開かれた。切れ長の目が吉行を捉える気配を感じ、咄嗟に視線を逸らした。何となく居心地が悪い。
「水、飲みや」
吉行はちゃぶ台に用意していたコップの水に手を伸ばし、兼定が起き上がるのをじっと待った。
起き上がった彼の顔色は先ほどよりも随分と良くなっていた。手渡されたコップの水を一気に飲み干すと、ようやく目の焦点もしっかりとしてきたように思う。
「世話かけちまってすまねぇな」
迷惑をかけた自覚はあるらしく、彼の声には申し訳なさが滲んでいた。
「もうえいき、気にしなちや。それから、お世話ついでじゃ。今日はもう泊まっていき」
「いいのか?!」
勢いよく両腕を掴まれ、ちゃぶ台の上のコップが僅かに揺れた。
「言っちょくけんど、放っちょったら面倒が増えていくき、言うちゅうだけやきね!」
兼定の顔にぱっと明るい笑みが浮かんだが、吉行はそれを見てすぐに言葉を足した。
迷惑そうな顔をしながらも、こうして相手の居場所を作ってしまう自分に呆れている。
そろそろ30ぷん経つので終わるー。
腰がいてぇよ。バイバイ!