そこから女の子はもちろんのこと、その家庭も荒れていきました。当然ですよね。毎日毎日警察やマスコミが家に押しかけてくるし、一歩でも外に出ればそこらじゅうから心ない噂の声が聞こえてくるんだから。
 女の子が家どころか自分の部屋からも出られなくなるのには、1ヶ月もかかりませんでしたよ。そのうちいつの間にか母親は出ていって、父親は酒浸りになってろくに家に帰ってこなくなって。そんななかで女の子にできたのは、ずっと布団にくるまってなるべく寝ていることだけでした。女の子の家には人の声がなくなっていきました。
 女の子の家がそういう状態になって1ヶ月くらいが経った頃に、変化が起きました。人の声が聞こえるんです。その家にはいるはずのない女の子の声が。
 その声は小さくてなにを言っているのかはよくわからなかったけど、「あれはちがった」「これもちがった」って言ってるように聞こえました。
 幻聴なんじゃないかって疑うだけの正気はまだ女の子には残っていました。でも、それでどうにかしようって思えるだけの気力は残ってませんでした。女の子は布団の中にも忍び寄ってくるようなその謎の声を振り払うこともできずに引きこもってました。
 幻聴の次に幻覚が見え始めたのは、三日もしないうちでした。でも、そのときはもう女の子にはまともな時間の感覚は残ってなかったから、どのくらいの時間が経っているかはもうわかりません。
 幻覚は、あのとき川で見た妖怪の姿をしていました。大きなふたつの目玉と真っ赤な長い舌が、ずっと灯りを着けてない部屋の隅にぼんやりと見えました。
 もうその時には女の子には叫び声を上げるような気力も残ってなくて、ああ、私はもうだめだ、って頭の隅で思うのが精一杯でした。逃げるなんて発想はもうありません。
 でも、その妖怪は女の子に襲いかかるでもなく、じっと部屋の隅からぼんやりした姿で女の子のほうを見ているだけ。
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紅楼夢表紙お礼SSを書いていきます。
初公開日: 2024年10月28日
最終更新日: 2024年10月28日
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