・プロローグ
チルノは、親友である大妖精との弾幕ダンス勝負にあっさりと敗れてしまった一件について激しい不甲斐なさを感じていた。
あたいが最強ではないだと……?
たとえプロ級弾幕ダンサーの大ちゃんとのダンス勝負であっても、あたいは勝たなくてはならない!
あの日のあまりにもイケてないダンス勝負を帳消しにするため、チルノは大妖精に果たし状を手渡した。
今日はいよいよその決闘の日だ!
・本文続き
「とゆーわけで大ちゃん! これを受け取りなさい!」
「な、なにこれ……?」
チルノがずばーん!と差し出したのは……なんだかよくわからない折りたたまれた白い紙でした。紙には筆で書いたように見える何らかの文字が書かれていました。
人里の貸本屋の看板娘でも解読で来なさそうなミミズののたくったような文字でしたが、チルノと付き合いの長い大妖精はなんとかその文字を読むことができました。
「は……『はたしじょう』……?」
「そう! このチルノさまが、大ちゃんにいざじんじょーにしょーぶを申し込むわ!」
「えええ……?」
困惑する大妖精をよそに、チルノはまた無駄にニヒルな表情を作って、哀しげにつぶやきます。
「あのとき……あたいは不覚にも大ちゃんとのダンス勝負に負けちゃった。あのときの大ちゃんは確かにすごかったよ。まるでいつもの大ちゃんじゃない……ええと……ええと……人間が言ってる、なんだっけ、ぱ、ぱりぴ? みたいなテンションだったわ」
「お、思い出させないでよチルノちゃん……! よくわからないけど、あのときはなんだかすごく元気になっちゃったっていうか……」
顔を真っ赤にしてさえぎる大妖精。幻想郷に住んでいる妖精は、チルノをはじめとしてみんないたずら好きばかりですが、大妖精はその中でも珍しくおとなしい性格をしています。けれど、あの異変のときはそんな大妖精も妙に元気いっぱいで、通りかかったルーミアと熱いダンス勝負を繰り広げていたのでした。ですが、大妖精はその騒ぎが収まったあとだとその時の騒ぎっぷりが恥ずかしくて仕方がなく、思い出しては一人で顔を赤くしていたものです。
そんな大妖精にはおかまいなしに、チルノはリベンジに燃えている様子。
「でも! さいきょーを目指すあたいとしてはこのままでなんていられない! 実はあたい、この日のために血のにじむよーなしゅぎょーの日々を送ってきたのよ!!」
「そ、そうなんだ……」
「そして今日こそ大ちゃん! あたいは大ちゃんに勝負を申し込む! ……でもその前に、えーとなんだっけ、ば……ばんぜんをきするために? 準備運動に行ってくる! それまでその果し状は預かっといて!」
チルノはどこからか取り出した真っ赤なハチマキを頭に巻いて、お出かけのときの愛用品であるカエルポシェットを肩にかけるとそのままびゅーんと飛んでいってしまいました。
あとにひとり取り残された大妖精はぽかーんとするばかり。
――これは、小さな異変が起きた後の、さらに小さな、氷精と妖精たちの賑やかな騒ぎのお話。
「さーて、あたいの練習相手になるやつはどこにいるのかしら!」
霧の湖を飛び出したチルノは、やる気満々で幻想郷の空を勢いよく飛んでいきます。その眼下では、未だに妖精たちが騒いでいました。
以前に起こった、妖精たちが踊りだす異変はすでに解決していましたが、その影響はまだ残っているようです。霧の湖や紅魔館の近くだけでなく、チルノたちがよく遊んでいる魔法の森でも、異変のときと変わらず妖精たちが躍っているのでした。
「異変は霊夢たちが解決したって話だけど、騒ぎはまだ続いてるみたいね。あのくろまくの……またなんとかってやつ、けっこうすごいやつだったのかも。あたいほどじゃないけどね!」
今まで幻想郷では数々の異変が起こり、それを霊夢や魔理沙たちが解決してきました。そしてたいていの場合、異変を起こした犯人はとっちめられたあとになんだかんだで博麗神社で宴会をして和解、というのがお約束となっています。
以前の異変もなんだかんだでいつものように霊夢たちが解決したらしく、チルノや大妖精も一連の事件に巻き込まれていたらしいルーミアからお呼ばれして博麗神社での宴会に参加していました。チルノはそこで会ったうろ覚えな異変の真犯人の顔を思い出しました。
なんだか変なやつだったな、というのがチルノの印象でした。名前はろくに覚えていませんが、神さまみたいなえらそうな人で、車椅子に座っていたのを覚えています。さいきょーの妖精を自称しているチルノですが、幻想郷にはすごい力を持った者がいるということはそれなりに理解しています。車椅子に乗っていた異変の犯人はその中でも特に強い力を持っているようにチルノには思えました。
「大ちゃんとの果たし合いに勝ったら、次はあの変なやつと対決よ!」
決意を固めるチルノ。その気迫に引き寄せられたかのように、森の中で騒いでいる妖精が群れをなして寄ってきました。
「へん! 普通の妖精じゃあたいの相手にはならないけど、肩慣らしにはちょうどいいわ!」
空中にいたチルノは妖精の群れに怯むことなく、真正面から突っ込んでいきます。あの異変のときと同じように、いつもならでたらめに動き回っている妖精たちはリズムに乗って隊列を組み、規則的な弾幕を撃ってきます。
対するチルノもまた、あの異変のときを思い出すようにリズムを刻んで迫りくる弾幕をすり抜けるようにして躱していきます。
大妖精に言った通り、チルノは彼女にしては珍しく弾幕を撃ちながらダンスする練習を繰り返していました。そのおかげか、数で圧倒的に勝っている妖精の群れが放つ弾幕を、チルノはくるくると踊りながら躱せています。
「よーしさっすがあたい! 調子いいぞーっ!」
お返しとばかりに、チルノは両手に冷気を集中させて氷弾を撃ち出しました。上空からあられのように降り注ぐ氷弾を受けた妖精の群れは、次々と被弾して倒れていきます。