父がいつから狂っていたのかはわからない。
姉が生まれながらにして手足を備えておらず、言葉も話せないことを知ったときだろうか。
どんな犠牲を払っても、そんな姉を正しい姿に戻せないことを悟ったときだろうか。
それとも――姉を歪んだ姿にしたのが、この世界そのものだということを認めたときだろうか。
今となってはそれを確かめるすべはない。そうする必要もない。父も姉も、すでに失われてしまったのだから。
しかし、ふたつだけ確信できることがある。
ひとつは、父は間違いなく最後まで姉を救おうとしていたこと。
その結果、父は最終的に銃弾に頼ることになったが、その目的は最後まで姉を救うことだった。私はそう……信じている。
そしてもうひとつは、父が私に遺したものがあるということ。
父は結局、姉を救えなかった。私もその当時、姉を救えなかった。
しかし、私には父が遺した遺産がある。普通の人間は決してもっていない力。私はこの力で、世界を――。
世界を支えている神が実在していることを知り、またその神を実際に目にしたとき、脳裏にさまざまな思いが去来したのを、私は覚えている。
神……少なくとも神のごとき力を持っている存在が実在することに対するざわつく畏怖、自身がこの世界を支えているシステムの根幹を知ったという重い実感、そして――私がここ、マルクト教団でその神に介入し、この世界を正すことができるという希望。
父も、姉も救われなかった。しかし、今の私には世界を救うだけの力がある。
マルクト教団に私が連れてこられたのは、また幼いと言っていい年齢の頃だった。しかし私は、ここに連れてこられた理由をはっきりと理解するだけの知恵は身に着けていた。
色素の抜けた薄い肌。金色の髪。そして紅い瞳。およそ普通の人間には見えないその異貌は、教団のシンボルとして使うに最適だったのだろう。