件のメールを受け取った数日後、私は指定された場所にいた。
海風が吹き付けるそこからは、先の見えないほど長い鉄橋がまっすぐに伸びている。そして、その鉄橋の先に見えるのは海の上に作られた人工島。サーチライトの光に照らされたのエリアの光景は現実感に乏しく、まるでこの世とこの鉄橋で繋がれた異世界のように感じられた。
特別地区。
この国の中枢機関が集約されたそのエリアに足を踏み入れるのは、もちろんこれが初めてだった。まさか自分がそんな場所に足を踏み入れるなどと想像もしていなかった。だが、それよりも私の想像を越えていたのは、かのマルクト教団という宗教団体が、本部をこの特別地区に構えているということだった。
海風に髪をなぶられながら、私はここに足を運ぶことになった一通のメールの内容を思い出す。
【件名:神経塔へのご案内。】
いつもマルクトをご愛顧いただきましてありがとうございます。
つきましては、ささやかなお礼としてあなたをマルクトの本部へご招待したく思っておりますので、お早めに下記アドレスへお越しください。
なお、ゲートの通過に必要なコードナンバーはDF57GMとなっております。
こんな内容のメールを受け取ったら、スパムとして処理するのが当たり前だろう。しかし、私はそうしなかった。できなかったと言っていい。
普通ならこんな明らかに怪しい件名のメールにかまっている暇など、雑務に追われる私にはなかったはずなのだ。