「戸惑って当たり前でしょう!!もうすぐ、時透さんが死んでしまうなんて」
畳の上に座って、布団の上に座っている時透さんへ近づく。やはりいつもより顔色が悪い。
「僕たちは命をかけて戦った、だから失ったものも多い」
「だからって、だからって、鬼舞辻無惨を倒したのに、その代償がこんな……こんな」
「……可哀想だって?」
時透さんは笑った。綺麗に、美しく、凛としていて、それでいてどこか仄暗い顔で、笑った。
可哀想、私はそう思っているのだろうか。勝手に、勝手に淡い恋心を寄せて、一緒にいるのが心地よくて、今の時透さんのほうが好きだなんて思って。
時透さんは言っていた。恐いと、さみしいと、それを私はわかっていなかった。いや、今この事実が告げられても理解することができない。鬼を倒すためだけに、人のために、命を投げ出す鬼殺隊が、わからない。
「……可哀想です、私には理解できない」
「そうだろうね」
「なんで時透さんなんですか、まだこんなに、若いのに」
「君より一つ年上だよ」
「親兄弟を亡くして、それで、鬼と戦って、それで、結末がこんな……」
「炭治郎も、冨岡さんもいるんでしょ」
「私は、私はそんな……そんなつもりじゃ……」
ぽろぽろと涙が頬を伝っていく。ああ、人のために泣くなんて初めてかもしれない。なんでこんな過酷な運命に身をおいた人が、こんなふうに。
時透さんは、別に静かに暮らしているわけじゃないのかもしれない。全てを、全てを諦めて、こうして生活しているのかもしれない。
「ありがとう、僕なんかのために泣いてくれて」
頬に伝う涙を時透さんが、そっと、拭ってくれた。
拭われても、またぽたぽたと涙が落ちる。時透さんの指が私の涙で濡れていく。
「前の女中の方は」
「うん、同じように知らされた時は、君と同じように泣いて、思いやってくれたよ。ただ、その人も病気になってしまったんだけれど」
「私は、私はどうすればいいですか。これからどうやってあなたの側にいればいいんですか」
「どうって……君は女中なんだから、僕の身の回りのお世話をしてくれればいいんだよ、今までと同じように」
「ちゃんと、薬を飲ませます」
「苦い薬だからあまりのみたくないな」
「無理させないようにします、私が時透さんを長生きさせます」
「そう」
時透さんのことを、好きかもしれないと以前から薄々思っていた。
寿命のことを突きつけられて、その淡い恋心の輪郭がはっきりする。私は、この人のことが好きだ。
私が、守って、側にいて、時透さんを見届けなければならないと思った。それをできるのは私しかいないとも思う。
「そんなふうにあんまり泣かないで、僕がいじめたみたいじゃないか」
時透さんはまた、困ったように笑った。
私が、以前から飲んでいた夕食後の薬を熱心に飲ませるようになって一週間が経ったある日。
父と母に家に顔を出すようにと言われたので、急遽休みをとって家に帰ることにした。
「よし」
時透さんがいる、居間への襖を開ける。いつものように、紙折をしている時透さんがこちらを向いた。
「時透さん、昨日お伝えしたように家に一度帰ります」
「君……」
「え?どうかしましたか?」
時透さんはぽかんとした顔をした後、立ち上がり、私の方へと近づいてきて髪を触った。
「髪……どうしたの」
「え?髪ですか?」
今日は家に帰るということで、いつも一つにまとめている髪をまとめずに自然のままにさせている。
背中の真ん中ぐらいまで髪が伸びているので、いつも家事をするときは邪魔にならないようにまとめているのだ。
「どうしていつもその髪型にしないの?」
「どうしてって……家事をするときに邪魔だからですが?」
「そう、その髪型のほうが似合っていると思うよ、僕は」
似合っているといわれて心臓がどきりと跳ねる。私、褒められている?
ああ、こんなことなら早くこの髪型を時透さんに見せればよかったとまで思ってしまった。
嬉しい、褒めてもらえるなんて。舞い上がってしまう。
「ありがとうございます。褒められるなんて思わなかったです」
「うん……ねえ、今度その髪型で僕と一緒に出かけようよ」
「え?本当ですか?」
出かけようなどと誘われるなんて思ってもいなかった。今日の時透さんはどうしたのだろうか、いやに機嫌がいい。
「うん、僕と一緒に星を見に行こう。約束だよ」
時透さんは、まるで炭治郎さんと話しているときのように上機嫌に言った。
「わ、わかりました!一緒に行きます!楽しみです」
「よかった。じゃあ気を付けていっておいで」
「はい、行ってきます」
頬に熱が集まるのを感じる、顔が赤くなっていないだろうか。嬉しいのと褒められた恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだ。
星を見に行く、夜に出かけるということだろう。夜に時透さんと出かけたことはない。嬉しい。思いっきりおめかしをしていけば、怪訝な顔をされるだろうか、それとも先程のように褒められるだろうか。
足取りが軽い、ああ、早く父と母との用事を済ませて時透さんとの家に帰りたい。
そんなことを思っているとあっという間に、私の実家に帰り着いた。
「ただいま戻りました、父上、母上」